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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
抹殺せよ!パーフェクト・リュイ!
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アパレル戦士の「いい仕事」

火星基地からモカが消えた。

それが判明したのは、ニシダとジョボレット配達員が基地を襲撃した日の夕食時の事だった。

ベアトリーチェ特製のガパオライスとトムヤンクン(タイの焼飯とスープ♡)を囲む食卓に彼女がいないのを不審に思い、ナムは副官・マックスに問いただした。


「地球だ。カシラ(リュイの事)が拉致して連れてった。」


聞いて速攻、テーブルや椅子を蹴散らして食堂から飛び出した。

2人きりで旅行など、とうてい許せるものじゃない。


「そ、それで追っかけてきたんだ。すごい、よくここがわかったね?」

「宇宙港や駅の監視映像ハッキングくらい、アイザックさんに頼らなくてもできるからな。

だいたいの足取り掴んで後は地道に聞き込みした。酷ぇ目にあったよ、ったく!」

「ピアスの通信機で呼んでくれたらよかったのに。」

「局長と一緒だったんだろ?使えないって!

俺達専用の通信機なんて持ってんのバレたら、何いちゃもん付けられるかわかったもんじゃねぇよ。

それに追跡自体はそこまで苦労しなかったし。

あの冷血暴君、目立つ目立つ!あちこちのカメラに写り込んでたぜ?」

ドッカリとベンチに座り込み、かぶっていた帽子で顔を仰ぐナムに、モカはこっそり苦笑した。

(ワザとなんだろうな。局長、そんなヘマしないもの。

ナム君が追ってくるの、お見通しだったんだね。だから『その内護衛が来る』なんて言ってたんだ。)

それはナムにもわかっているらしい。憮然とした表情がちょっとおかしかった。


「局長?それってリュイの事かしら?れーけつぼーくん・・・?」

マロリー夫人が聞いてきた。

慌ててモカがナムに耳打ちする。

「ごめん、誤魔化して。マロリーさんに私達の仕事、教えてないの!」

「・・・なるほど、了解。」

ナムはマロリー夫人に向き直り、陽気に笑いかけた。

「局長ってのは、職場でのリュイさんの呼び方っす。普段でもついそう呼んじゃうんですよねー♪」

「タッカーさんもリュイと同じお仕事なさってるの?詳しく知らないんだけど、確か軍関係の下請け、とか・・・?」

「軍の雑用請負ってる感じですね。俺、リュイさんの仕事手伝ってるんです。」

「まぁ、そうなのー♡あらあらあら♡」

ナムが来てからというもの、マロリー夫人のテンションがやたらと高い。

その理由は火星基地を出た時とはまったく様相の違うナムの出で立ちにあった。

V字ネックの白いTシャツに黒い薄手のテーラードジャケットを羽織り、オシャレな裏地が見えるように袖を折り返している。

夏らしい淡いカーキ色のチノパンは六分丈。スニーカーは白のシンプルな物、帽子はジャケットに合わせて黒の中折れ帽タイプのパナマハット。

アクセサリーはモカからもらったピアス以外にシルバーチェーンのネックレスだけ。小ぶりなボディバッグまで身につけている。

メンズファッション雑誌読者モデルばりのフル装備。ブティック「I・Mスマイリー」店員の、温かい善意と燃えさかる勤労意欲が生み出した奇跡の結果である。

当然、購入総額6桁越え。マネーカードで支払った。相当痛い出費だった。

「モカちゃんったら、やるじゃない!

こんなカッコいい男の子捕まえるなんて♡オシャレね~、驚いちゃったわ♡♡♡」

「・・・。」

言葉が出てこず苦笑した。

モカもメチャクチャ驚いた。いつものナムの姿を思えば、目の前の光景が信じられない。

(ずっとこういう格好、しててくれないかな♡・・・無理だろうけど。)

モカは小さくタメ息付いた。


本物の太陽が高くなり、日差しはほとんど真上から照りつけるようになってきた。

そろそろ昼食の時刻だ。モカはマロリー夫人に部屋へ戻る事を促した。

「あら、まだ平気よ。」

マロリー夫人がやんわりと拒む。

「実はここ最近、あんまり食欲がないの。

ずっとベッドで寝ているだけですものね、お腹が空かなくて当たり前だわ。

それより、貴女達はまだ若いし元気なんだから、お腹減っているでしょ?何か食べておかないと。

モカちゃん、悪いんだけど、何か買ってきてもらえないかしら?この病院の売店ね、おいしいサンドイッチ売ってるのよ。」

「あ、そんなら俺が行ってきますよ。」

気を利かせてベンチから立つナムの腕を、か細い手がそっと掴む。

「・・・もう少しお話したいの。いいかしら?」

目が何かを訴えていた。

ナムがモカに目配せする。モカは小さく頷いて、「行ってきます。」と一言づけて中庭の小道を走っていった。

「ごめんなさいね、無理言って。

病気を拗らせて入院してから若い子と話す機会がなくて退屈してたものだから、楽しくって。

本当にステキね♪着る物のセンスがいいわ、モデルさんみたい♡」

「もの凄く押しの強いブティックの店員に強引に買わされた服なんっすよ。

なんか地味すぎてません?ありきたりだし。」

「まぁ、普段はもっと華やかなのね?見てみたいわぁ♡」

・・・今のマロリー夫人に普段のナムの出で立ちを見せるのは、病状悪化に繋がりかねない危険な行為である。

(意図的にモカを遠ざけたな。俺だけに話したい事がある?何だろう???)

楽しそうにはしゃぐ老婦人のテンションに合わせながら、ナムは相手の様子を慎重に伺った。

彼女が本当に話したいのは、少なくとも「I・Mスマイリー」店員が情熱を注いだコーディネイトの事ではないだろう。



お昼時の売店は混み合っていた。

イートイン・スペースもあるからなおの事。備え付けのテーブル席は美味しいと評判のサンドイッチを頬張る人々で満席である。

お弁当やお菓子を手に精算を待つ人が店の外まで列を成している。白衣を来た人やパジャマ姿の人が目立つ。病院内の売店ならではの光景だ。

(わぁ、どうしよう・・・。)

モカは入店を躊躇った。少し離れた所で葉を茂らせる榎の木の下で、困ったように立ち尽くす。

普段から人が混み合っている場所はできるだけ避けている。病気の発作が心配だからだ。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)のフラッシュバックは、いつ何がきっかけで起こるかわからない。それが非常に厄介だった。


(えっ?あの人は・・・?)

人が群がる売店から出てくる客の中に、見知った顔を発見した。

(アイザックさん?!どうしてここに!?)


コーヒーを片手にサンドイッチを頬張る天才ハッカーが、足早に外来病棟の方へ去って行く。

嫌な予感がした。モカを追ってきたナムはともかく、彼がここに居る理由がわからない。

モカは後を追いかけた。

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