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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
巨悪に挑む勇者達
222/403

それぞれの結末③ 君のためにできること

火星にまた夜が来た。再び気温がグッと下がり、真の闇が荒野を包む。

風の音しか聞こえないエベルナ13支局隊火星基地の崖上で、ナムはふと空を見上げた。

ほんの少しだが星が見える。火星の地表で宇宙の片鱗が見えるのは珍しい。

(リーベンゾルは、どの方向なのかな・・・?)

ぼんやりと考えた。

あの修羅場の後、火星を脱出した謎の航空機がいたと聞いている。あのバケモノ(ターク)が簡単にくたばるはずはない。必ずまた襲来してくるだろう。

ヤツは絶対、諦めない。どんな手を使ってでも手に入れようとするはずだ。

モカを。

正確には、禁断の扉を開ける「焼き印」と、「デライラ」の面影を!

「ナム君!」

呼びかけられて振り向いた。

高感度暗視カメラと防衛レーダーの間、岩にカモフラージュされた扉から、モカが保温ボトルを携えて出てくるところだった。


あれからナム達は自分達のオンボロ輸送機でベース基地まで帰還した。

輸送機はエリア6を抜け、最悪の乗り心地で火星を半周して基地の着床ポート上に「胴体着陸」した。

つまり、とうとう墜落したのである。人死にが出なかったのが奇跡だった。

不沈艦メビウスは救出した民間人を乗せて火星を発った。

火星にはASと蔑まれる無戸籍者を受け入れる病院が、ない。拉致・監禁されていた人達のほとんどが無戸籍だった為、連邦政府軍月面基地の軍病院に収容される事になったのだ。

そこで健康状態をチェックされた後の事は、あのニシダが引き受けてくれた。

だったらもう心配ない。きっとよしなに取りはからってくれるだろう。

あの男は信頼できると、エベルナへ帰還したシャーロットも言っていた。

なぜ彼女が「地球連邦政府軍地球エリア指令」と懇意なのかは、まだわかっていないのだが。


保温ボトルを抱えたモカが、小走りで崖上を横ぎって来た。

「ロディ君にここにいるって聞いて、コーヒー持ってきたの。

ごめんね、スープの方がいいと思うけど、今リーチェさん、怪我してて無理言えなくて・・・。」

ナムは片手をあげて、モカの言葉を遮った。

今回のしくじりでの懲罰は台所でベアトリーチェの奴隷で、夜間哨務は命じられていない。

ここに来たのはモカと2人だけで話がしたかったから。

来て欲しいと言わなくてもちゃんとここに来てくれた。それがしみじみと嬉しかった。

どうしても今、伝えたい事がある。

ナムは静かに話し出した。


「一つ、約束して欲しいんだ。

これからはさ、モカが辛かったり苦しかったりした時は、ピアス使って俺の事、呼んでくれ。

たとえばPTSD(心的外傷後ストレス障害)の発作の時とか。いつでもいいからさ。」


「・・・!!?」

突然思いがけない事を言われたモカが驚きの表情を見せた。

困惑の色が浮かんだ目を少し泳がせ、悲しげに顔を伏せる。

「・・・あ、ありがとう・・・。

でもね、ホントに大丈夫なんだよ?

発作って言っても、ちょっとの間ガンバってたら治っちゃうし・・・。」

言い方に気を付けるつもりだったが、あまりうまく行きそうにない。

ナムは少しだけ声を荒げた。


「いいから、呼んでくれ!

前にも言ったけど、モカが平気だっつっても俺は全然平気じゃない。

そんな気ィ使ってもらうより、辛かったら辛い、苦しかったら苦しいって、ちゃんと言ってもらいたいんだ!

誰かの事を心配するってしんどい事かもしれないけど、俺は俺の知らないところでモカが1人で苦しんでる方が、ずっとずっと、辛んだよ!

だから、約束してくれ!

これから先、何かあったら絶対に俺を呼ぶって!!!」


頼りなく移ろっていたモカの目が、ナムを見上げて固まった。

澄んだ瞳が煌めき揺れて、涙のしずくがあふれ出す。

自分の頬を伝う涙に気づき、慌てて俯き指先で拭う。その仕草が愛おしい。

泣き出しそうな表情が可愛く思えて、体を屈めてモカの顔をのぞき込む。


「約束、する?」

「・・・うん・・・。」


モカが小さく、しかし確かに頷いた。


(・・・ヤバイ、可愛い・・・。)

照れくさくなったナムは、頭の後ろを掻きむしった。

「偉そーな事言ったって、俺なんかじゃ何もできないかも知れないけど・・・。」

「・・・そんな事ない!」

ガラにもない謙遜は、力を込めて否定された。

「そんな事、ない。・・・ありがとう、ナム君・・・。」

モカはとうとう泣き出した。

保温ボトルを抱きしめて肩を震わす恋人を、ナムはそっと抱き寄せてみた。

ゆっくりと、寄り添うように身をゆだねてきた。エリア6で再会した時のようにしがみついてはくれなかったが、あの時よりも心が優しく満たされる。

腕に抱く恋人の体がどんどん熱くなっていく。またトマトみたいに真っ赤になっているんだろう。

できればこのままずっと、温もりを分かち合っていたかった。

しかし、そうしてもいられない。

ナムにはこの後、どうしてもやらなければならない事があった。


「あーもー、今、いい雰囲気なのにな~。初チューするにはもってこいっつーか・・・。

いつの事になんのかな~、初チュー・・・。」


つい本音が口に出た。

腕の中の恋人が、また一段と熱くなった。

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