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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
巨悪に挑む勇者達
215/403

呑気は時と場合を選べ!

酷い吐き気でうまく息ができない。

両手で塞いだ耳に聞こえるおぞましい哄笑と母の悲鳴。固く閉ざした瞼の裏にあの拷問部屋が見えてくる。

モカは今、過去の記憶と懸命に戦っていた。

ピアスの通信機が鳴った時、回線は開いたものの声がまったく出なかった。

記憶の底に引きずり込まれようとする意識を何とかつなぎ止めたのは、ピアスから聞こえたナムの声。

『モカ、大丈夫か?!』

通信機越しでも近くにいてくれてるようで嬉しかった。その感情に必死の思いでしがみつく。

「・・・ナム君・・・ナム君・・・ナム君・・・ナム君・・・・・・。」

会いたい人の名前を呼んだ。一生懸命、呼び続けた。

「助けて・・・助けて、ナム君!!!」

父と慕うリュイ以外の誰かに救いを求めるのは、初めてだった。


「来たぜ、お待たせ♡」


妙にはっきり聞こえた声に、驚いて目を開けた。

その途端、思いっきり抱きしめられて足を救われ、抱き上げられた。

紛う事なき姫だっこ♡!モカはさっきまでとはまったく違う意味で混乱した!

「きゃああぁ?!なにナニなにーーー??!」

「こういう時はしっかりしがみついてくれなきゃ、危ないよ♡」

そう言われてもしがみついてる余裕はない。

驚き焦って狼狽えて、気が付いたら激闘する2人のバケモノを別の大岩の上から見下ろしていた。

姫だっこの奇襲に驚いた所為かフラッシュバックは治まった。まだ少しクラクラするが意識がはっきりしてきてる。

呆然と辺りを見回して、モカはやっとバケモノ(ターク)と戦うリュイに気付いた。

「きょ、局長!?」

「ちょっと!まず()()()の名前が出るってどーよそれ!?」

抱きしめてくれている恋人が口をとがらせる。

「え?あ!ナム君!?」

「よろしい♪発作はもう大丈夫そうだな!」

ナムが顔をのぞき込んでニッコリ笑う。

体の力が一気に抜けた。


さすがにしがみつきはしなかったが、モカはくたっとナムの肩にもたれかかった。

(ありがとう、ナム君・・・。)

疲労と安心感で、羞恥心も起こらない。ちょっと苦しい抱擁が泣きたいくらい心地いい。

まだ危機は脱していないが、少しでも長くこうしていたかった。

まぁ、結果的に無理だったが。

「いやぁン♡見せつけてくれるじゃないアンタ達!♡

モカぁ?後でおねー様にキュンキュンするお話、聞かせてね♡♡♡」

「ビ、ビオラさん?!きゃーーーーー!!?」

ビオラに気付いたモカの絶叫!それはナムの耳元だった。

ナムは仰け反り、悶絶した。


ビオラが片耳押さえて顔をしかめるナムを、容赦無く突き飛ばした。

「よかったぁ、モカ!無事だったのね~!♡

あ、帽子、返しとくわね。大事なんでしょ?」

真っ赤になったモカを抱きしめ、キャスケットを頭にかぶせる。岩場を転がるナムには一瞥も与えない。

「あ、ありがとうございます。あの、カルメンさんは?」

『アタシはここよ。心配しないで。』

ビオラのブレスレットからカルメンの声がした。

今いる所とは別の岩場で手を振るカルメンが小さく見える。彼女の後ろで小さくなってる男達も見えた。地球連邦政府軍歩兵達だ。

『こっちは準備OKだ。局長が危ない!リグナム、始めろ!』

「・・・へいへい。」

姉貴分2人の理不尽な扱いに文句を言ってるヒマはない。ナムは改めてビオラに抱かれるモカの顔を、真正面から見据えて言った。

「見てのとおりだ、モカ!

局長が今、リーベンゾル・タークと戦ってる!

エベルナの時より強化改造されてるサイボーグが相手だ、このままじゃ局長が負ける!

アイツを助けるぞ!かなり危ないマネするけど、できるな、モカ!!!」

モカの目に闘志が宿った。

シャワー室で共闘した時やエベルナ宇宙空港でKH時限弾解除に走った時と、同じ目だ。

「・・・はい!」

決意のこもった強い口調で帰ってきた返事。

ナムは今から始まるミッションのコンプリートを確信した。



死闘を繰り広げる「バケモノ」達とは別の場所で、予想外の「バケモノ」と戦う女戦士がいた。

手に握るナイフは刃がこぼれて折れる寸前、相手が繰り出す攻撃は衝撃を吸収する特殊素材のコンバットスーツでも緩和しきれない。

おまけに、相手の声がいちいち神経を逆撫でる。

「ホホホホホ♪」

耳障りな嘲笑が普段は冷静な女戦士を人が変るほど苛立たせた。

「とことんふざけたババァね!笑うのを止めなさい!!!」

「まぁまぁ、ホホホホホ♪

このくらいでお怒りだなんて、やっぱり貴女もアバズレかしら?

さっきの下品な胸した女戦士と同じ事をおっしゃるわ。」

サマンサの激昂に、ロゼリッタが余計に笑う。

声だけなら余裕があるように聞こえるが、ロゼリッタも相当手傷を負っていた。

ピンクのスーツは切り裂かれてズタズタ、自身の血で真っ赤に染まっている。それでも痛がる様子は一向に見せないのが不気味だった。

(サイボーグ化した部位は多くない。でも神経を切断して痛覚を感じないんだわ!なんてヤツ!)

サマンサは呼吸を整え、気を落ち着かせた。

この女にはベアトリーチェがやられている。もしかしたらテオヴァルトも。許すわけにはいかない!

「ホホホホホ♪

そろそろお遊びはこのくらいかしらね。私は『妹』様の所へ行かなくては。」

ロゼリッタの目が鋭くなった。

次で決まる。

2人の女はジリジリと間合いを詰め、攻めるタイミングを見計らった。


「そこまでだ、引け!」


ロゼリッタの足下が大きく爆ぜた!ロゼリッタが驚くべき脚力で大きく後ろへ跳躍する。

「ナニすんのよ、シャーロット!邪魔しないで!!!」

「あらあら、どなた?まだ他にもアバズレがいたのかしら?」

2人を見下ろす岩の上から、シャーロットが銃を構えて睥睨する。

彼女はいつもと全く変らない態度で、普通の口調で2人に告げた。

「空爆開始の時間が早まった。

すでに惑星護衛艦隊爆撃空母7機がエリア6空域に侵攻、都市廃墟の爆撃を開始している。」

「・・・は?」

淡々と告げられるとんでもない話に、女戦士達が同時に間抜けな声を漏らす。

たった今まで殺し合っていた2人の呆けた顔を無表情で見つめ、シャーロットが続きを語る。

「直に爆撃空母がこの上空に飛来する。時間にして、あと 10 分。救援機は間に合わん。」

「・・・。」

女戦士達は、お互いの顔を見合わせた。

「リーベンゾルの者よ、引け!

見逃すのは口惜しいが、ここにいたことが公になれば戦争勃発の要因になりかねん。

それは貴様らも望まんはずだ、速やかに火星から撤収しろ!」

「・・・貴女、なにを言ってらっしゃるの?」

ロゼリッタが呆れた様に聞いてきた。

「もう間に合うわけ、ないでしょう?」

・・・その通りだった。


「だからアンタ、そういう事は早く言いなさいよーーーっっっ!!!」


サマンサもぶちキレた。

滅多に取り乱さない鋼鉄の処女(アイアン・メイデン)が、今日はよく激昂する。

実に珍しい事だ。

無理もないが。

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