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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
巨悪に挑む勇者達
214/403

バケモノ達の死闘

バケモノ(ターク)には銃器は通用しない。

一度エベルナで戦った時も銃ではまるでダメージを与えられなかった。しかしキメラ獣を即死させる対物ライフルまで通用しないのは厄介だ。

この男の体は装甲車どころか、宇宙艦外装並の強化金属でできていることになる。

バケモノ(ターク)と対峙するリュイは、僅かに眉を潜めた。


にらみ合う、2人の「バケモノ」。

それを見つめるカルメンが呆然とつぶやいた。

「無茶苦茶だ!あんな肉体改造、精神が保たない!

外装に合わせて筋肉や腱も強化しているはずだ、生身の部分が少なすぎる!

並の人間なら過剰な機械化に耐えかねて発狂するぞ!?」

「バカね!アンタ、アレがまともに見える?!

アイツはもう狂ってる!あんなバケモノ野放しにしておくなんて、冗談じゃないわ!!」

ビオラがふらつく足を踏みしめて立ち上がり、乱れた髪をかき上げる。

得体の知れない敵に驚愕しながらも、2人は心のどこかで安堵していた。

私達の局長が、負けるはずがない。

そう信じて疑わなかった。


ナムも同じだ。

岩に打ち付けられた衝撃から何とか立ち直り、「バケモノ」2人と怯えるモカを見守った。

耳のピアスに触れ、通信機のスイッチを入れる。微かな呼び出し音の後、回線が開かれた。

「モカ、大丈夫か?!」

返事はない。しかし、巨岩にすがってへたり込むモカの首が痙攣したようにガクガクと頷くのが遠目に見えた。

恐怖で声が出ないのだ。無理もない、もう二度もPTSD(心的外傷後ストレス障害)の発作を起こしている。これ以上は彼女の心が保たない、早く助け出さないと!

軋む体は動かすたびにあちこち痛むが何とか動く。ナムは必死で足を前に踏み出した。

それが合図だったかのように「バケモノ」達が2人同時に地を蹴った。

ついに死闘が始まった!


バケモノ(ターク)の拳が真正面から迫るリュイを狙って振り下ろされる!

足下の岩を粉砕する拳をかわしたリュイが、バケモノ(ターク)の右足の甲を踏みつける。そのまま真下から繰り出す拳は顎を捉え、バケモノ(ターク)は大きく仰け反った!

首ごと千切れ飛ぶかと思うくらいの、強烈な一撃!リュイの攻撃は(パワー)と速度を併せ持つ。

常人なら、瞬殺である。

「・・・貴方には礼を言わなければならない。」

後ろへ倒れるのを踏みとどまったバケモノ(ターク)が、天を仰いだ首をガクン、と引き戻した。

「『妹』を保護してくれて、ありがとう。今日まで守り育てて下さった事も感謝している。」

穏やかに感謝の言葉を口にするその顔は、笑っていた。

リュイは想像を絶する腕の力で、真横に払われ吹っ飛んだ!

そびえる岩に激突するリュイに、バケモノ(ターク)の蹴りが飛んでくる。

辛うじて避けたが、岩は木っ端微塵に砕け散った!

「だが、彼女はもうこちらで引き取らせていただく。

私は血が繋がった肉親だ。『妹』が幸せな人生を歩めるよう見守り続ける義務がある!」

リュイの蹴りが左膝に入り、バケモノ(ターク)が大きく体勢を崩す。

髪を掴んで顔を引き寄せ、思いっきり膝をたたき込む!

歯が折れ鼻が潰れ、さすがのバケモノ(ターク)も血を吐いた。

すかさず腰のダガーナイフを抜き、逆手に握って後頭部のくぼみにぶち込んだ!

それがまさか、根元から折れてしまうとは・・・!??

「安心していただきたい、ミスター。」

肩を掴まれたリュイは、そのまま激しく固い地面に叩き付けられた!

「彼女は生涯、この私と共にある。永遠に『安全』です!」

腹を狙った容赦無い蹴りに、体ごと吹っ飛ぶリュイが砂塵を上げて岩場を削る。

すぐに飛び起き敵を見据え、口にたまった血を吐き捨てる。内臓にダメージを負っていた。

「ですから、もう()()()()()()()()。」

バケモノ(ターク)の笑顔は変らない。穏やかで優しく、悍ましく禍々しい。

「私は彼女を、愛しているのです!」

ニッコリ微笑む顔から鮮血が滴り落ちた。


(局長が押されてる?!)

信じられない思いでナムは死闘を見守っていた。

パーフェクト・リュイ。エベルナ統括基地で騒動があった時、自称変質者・マルギーから聞いたこのあだ名は、陳腐でチャラいと小馬鹿にしつつもリュイにはぴったりだと思っていた。

それくらい、この男は「完璧」だった。

屈強な武装組織だろうと、凶暴なキメラ獣だろうと頑強な機械兵だろうと苦も無く倒し、冷酷無比のエメルヒにも屈さず、地球連邦政府軍を相手にしてでも勝利を手にして生還する。

この男に「敗北」はない。

ナムは心のどこかで固くそう信じていた。

しかし今、目の前でリュイが苦戦している。

バケモノ(ターク)は終始笑顔でリュイの攻撃をかわし、拳を繰り出し応戦する。さすが強化サイボーグ、息切れ一つしていない。

エベルナで戦う2人を間近で見た事があるナムは、ゾッとした。

(あの時とは(パワー)と速度が全然違う!強化改造しやがったんだ!)

桁外れに強いと言ってもリュイは生身である。疲労とダメージが徐々に蓄積されていく。

現にもう息が上がってき始めている。戦いが長引けば不利になる。このままではマズイ!!!

(ヤバイ!何とかしないとマジでヤバイ!!!)

ナムは狼狽え、思わず周囲を見回した。

無残に崩れた地下への昇降口が見えた。岩屑の山から這い出した砂埃まみれの連邦政府軍歩兵達も。

彼らの姿に目がとまる。

正確には、歩兵達の何人かが担いでいる武器に釘付けになった。

歩兵携帯用の84mm口径対装甲車無反動砲。

ニンマリと、ナムは笑った。

ふてぶてしく、狡猾に!


先ず、意外にも全員無事だった連邦政府軍歩兵達の元へ駆け寄った。

負傷兵の傷の具合を確認している兵長をふん捕まえ、問答無用でまくし立てる。

「アンタらの無反動砲、装填してんの対戦車榴弾か?!対戦車榴弾だよな!?

よっしゃ、悪ぃけどそいつと兵隊、貸してくれ!!!

詳しい話はまた説明するから、いい感じでよろしくな!任せたぜ!!!」

「は?ちょ、な、えぇ?!」

目を白黒させてる兵長を残し、今度は呆然とリュイの死闘に見入る姉貴分達の所へダッシュする。

「おら!なにボサッとしてんだ野蛮女と蜂蜜女!冷血暴君助太刀すっぞ、きりきり働け!」

「はぁ?!いきなりなに言い出すんだアホンダラ!!」

カルメンは喚くが時間が惜しい。

いきり立つ彼女の肩を掴み、戦うバケモノ達の足下を指さした後、混乱する歩兵達を指し示した。

(・・・! この野郎、また妙案思いつきやがって!)

意図は通じた。カルメンがニヤッと笑い、なにも答えず歩兵達の方へ走り出す。

同じ笑顔で見送るナムは、ビオラに襟ぐりを掴まれ凄まれた。

「アタシは?!なにもさせないなんてふざけた事抜かしてんじゃないわよ!?」

「ったりめぇだろ?モカを助ける、一緒に来てくれ!」

「OK!行くわよ!」

言うが早いか、走り出したビオラの背中を慌てて追う。

モカはまだ激闘するバケモノ2人の側にいる。

ピアスの回線は開かれたまま。ナムは巨岩の下で蹲るモカの姿に呼びかけた。

「今行く!待ってろよ、モカ!」

返事はない。しかし、なにか小さくつぶやいているのが聞こえてきた。


『・・・ナム君・・・ナム君・・・ナム君・・・ナム君・・・・・・!』


(・・・絶対、助ける!!!)

ナムは前を走るビオラを全速力で追い越した。

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