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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
エリア6に潜む謎
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罠と謎と迷い子と

罠かも知れない。

と、言うか、罠以外にあり得ない。

監禁された部屋の真ん中に突っ立ったまま、ナムは突然ロックが解除された扉を凝視した。

誰だか知らないが、出てこい、と言ってる。

なのに扉の向こうから人の気配が伝わってこないのが不気味だった。

何が待ち受けているかわからない。これから自分がどうなってしまうのかも。

それでも行動しないと何も始まらない。先ずはこの部屋から脱出しなければ、モカの所へ行く事ができない。

会いたい。一刻も早く、モカに!

(・・・行くっきゃ、ねぇだろ。)

覚悟を決めた。ナムは寝転んでて着崩れた、ジャケットの襟を正して気合いを入れた。

入口扉の古風なドアノブに手を掛ける。

少し力を入れただけで、扉は音もなく開いた。


扉の向こうは薄暗い廊下。ナムは用心深く辺りを見回し、そっと足を踏み出した。

メイドに案内された時も思ったが、この廊下が驚くほどボロっちい。照明は簡易的で申し訳程度しか付いていないし、壁紙は劣化してはがれまくり、床のタイル絨毯に至っては原形すら留めていない。

あの晩餐会で使用した食堂がゴージャスだっただけに、意外だった。

(必要な部屋しか整備してないんだな。それにしてもひどすぎるだろ、この有様は。)

千切れてはがれた壁紙に触って見る。すると、黄ばんだ壁紙は他愛なくちぎれて粉々になった。

(そうか、建物自体が古いんだ。いったいいつからここにある?100年か200年か・・・。

この有様じゃ、500年くらいは経っててもおかしくないな。)

何かが頭に引っかかった。「500年前」というフレーズを、どこかで聞いた気がしたのだ。

掌にこびりついた壁紙の破片を見つめ記憶を探ってみたが、すぐに頭を振って諦めた。

今はそれどころじゃない。モカに危険が迫っている。

いや、もう何か大変な事に巻き込まれているかも知れない。そう思うだけで胸が締め付けられた。

(急ごう。)

ナムは歩き出した。

長い廊下の先は、闇。真っ暗で何も見えなかった。


最大級に警戒しながら、暗い廊下をしばらく進む。

監禁されていた部屋を出て結構時間が経ったのに、誰1人追ってこない。それどころか行けど進めど人っ子1人見かけない。耳が痛いほどの静寂が不気味だった。

おまけに監視カメラらしい物が何もない。仮にも一国の「元首」が居る場所だというのに、おかしいにもほどがある。

試しに所々壁に掛けられている絵画の額縁を調べてみた。やっぱり監視カメラはない。

その代わり別の痕跡を発見した。

額縁の端から壁をえぐるようにして付けられた傷がはみ出している。

(弾痕だ。かなり古いものだな・・・。)

壁紙が劣化してるのはほったらかしのくせに、妙にあちこち絵が飾ってあるのが不思議だったがどうやらそういう事らしい。

無数にある弾痕を隠している。

一発や二発ではない。よく見ると隠しおおせない傷が無数にある。壁紙を貼り替えるくらいではとても隠しきれないほど無残なものだ。

馬力のある機関銃で激しく撃ち合ったと思われる痕跡は、昔ここで何があったかを物語っていた。

(戦争があったんだ。『大戦』じゃなく、それよりずっと昔に。

でも火星でそんな事があったって話、聞いた事ねぇなぁ・・・?)

ナムは頭の後ろを掻きむしった。


突然、背筋に悪寒が走った。物音が聞こえた。このすぐ近くで!

慌てて辺りを見回した。目に付いたのは、大きな扉ほどもある巨大な絵画。

芸術に疎いナムにとっては子供の落書きに近い現代アートだ。額縁の後ろから微かに風が吹き込んでくる。

隠し扉だ。手を掛けただけでアッサリ動いた。酔狂な引き戸である。

いつ崩れてもおかしくないほどひび割れたコンクリートの階段が現れた。階下から吹く風に乗って、微かだが妙に神経を逆撫でする嫌な匂いを運んでくる。

怪しい。しかも、危険すぎる。

そう思っていても、行かないわけにはいかなかった。

この下から聞こえてきたのは、人の声。

明らかに助けを求めて叫ぶ、悲鳴だった。

ややへっぴり腰になりながら階段に足を踏み入れた。

この階段も500年前の物だったら相当ヤバイ。ゆっくり時間を掛けて慎重に下りる。

無事に下へたどり着けるかは、祈るしかなかった。


階段は倒壊寸前でも、地下は上の階より整備されていて驚いた。

床も壁もコンクリート打ちっ放しだが、あちこちに小洒落た間接照明が取付けられていて仄かに明るい。空調もしっかり管理されているようで温度も湿度も丁度良い。

ただし、妙な物ばかり目に付いた。

至るところに大小様々な木箱やコンテナが積み上げられ、幾つも並ぶ簡易棚にもびっしり並べ置かれている。

作業用と思われるデスクがあったので近づいてみると、乱雑に置かれているのはコテ、ヘラ、刷毛、ピンセット、ルーペ、超音波の洗浄機・・・。

ナムは目を丸くした。

「なんだこりゃ?化石でも発掘してんのかよ???」

思わずつぶやいてしまったが、すぐに「化石」ではない事に気がついた。

細々した道具と一緒に転がっているのは、何かの破片。

壊れて風化してはいるが、明らかに人工物だった。

(陶器の破片?こっちは何かの装飾品ってとこか。ってことは、発掘してるのは化石じゃなくて、何かの遺跡・・・???)


「・・・ナムさん?」

「?! なっ、誰だ!?」


いきなり呼ばれて驚いた。こんな場所に自分を知ってる奴がいる。

しかも子供の声だった。慌てて辺りを見回すナムは、いきなり何かに飛びつかれた!

「わーん、ナムさん!怖かったよぉ!!!」

「だあぁ!?って、お前!どーしてここに!!?」

「・・・あれ?俺の事助けに来てくれたんじゃ、ないの???」

突如現れた襲撃者・フェイは、驚くナムの顔をきょとん、と見上げた。

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