大佐と呼ばれる男
リーベンゾル帝国守護同盟。
「R-フォース」の通称で呼ばれ、現リーベンゾル政権打倒を目指す自由同盟だと、サムソンは説明した。
国内だけでなく外惑星エリア広域で活動するテロ組織21集団からなり、個々の組織も規模や活動領域はバラバラで詳しい実態はつかめていない。仕事柄裏社会に詳しいカルメンでも、そんな反社会組織が有るなどとは聞いたことがなかった。
「当たり前だろう。リーベンゾル国内のテロリスト共だ。地球連邦政府軍のブラックリストには名前があがらん。」
手錠を掛けられたサムソンがぶっきらぼうに言った。
「それもそうか。連邦政府に楯突くワケじゃないんだし・・・。
ちょっと、なにジロジロ見てんのよ!この子に手ぇ出したらタダじゃおかないよ!!」
怯えるモカを眺め回す武装兵達をカルメンは激しく威嚇した。
中心都市マルスからここまでの道中を知らないテロリスト達はカルメンを素人だと思ったようで、手錠を掛けたりはしなかった。
モカも拘束されていない。好都合だがこの状況では逃走などとても無理だった。
大型の輸送用エアカーに捕虜にされたリーベンゾル兵達と押し込められ、闇の荒野をかなりの速度で走ることすでにもう2時間弱。タイヤの付いた車両で悪路をトコトコ走ってきた時とは大違いの乗り心地に、カルメンは意地悪くせせら笑った。
「ゲリラ部隊の方が金持ってんじゃないのよ!アンタ達、雇い主変えたら?」
「・・・。」
サムソンは答えなかった。
巨岩が連なる荒野の真ん中でエアカーから下ろされた。
風が刺すように冷たく、強い。お互いを抱きしめかばい合っていると、武装兵の1人が防寒着を脱いでモカの肩に掛けようとしてきた。
ひったくって2人一緒に包まる。ついでにそいつには平手打ちをお見舞いしておいた。
手を出したらタダではおかないと言ったはずである。何か言いたそうにしいるそいつを、カルメンはそサクッと無視した。
(ゲリラ部隊のくせに嫌に紳士的奴が多いな。モカにだけだけど。)
暗闇を歩くのに手を引こうとしたり、風上を歩いて風よけになってくれたり、やたらと親切なのだ。中にはモカに非常食用のチョコレートを差し出してきた者までいる。
怯えるモカの代わりに丁重にお断りしたら、そいつの方が怯えて二度と近づかなくなってしまったが。
しばらく歩くと暗視ゴーグルを通して見る光景が変ってきた。荒野に散らばる岩石に人工的に造られた建築物とわかる物が混じり始めたのだ。
(街?!そうか、特別監視地区に指定される前の街だわ。・・・500年くらい前の。)
前を行く武装兵が半ば崩れた大きな建屋の入口で振り向いた。
「ここだ、入れ!」
「誰に命令してんだゴルァ!!!」
「スミマセン、ハイッテクダサイ・・・。」
どうやらこの建屋が隠れ家のようだ。
この場所にたどり着くまでの道行きで、R-フォースの武装兵達もリーベンゾル兵達と同様に、女性に対する幻想はきれいさっぱり無くなってしまっていた。
地下へ連れて行かれた。
この建屋は街の行政機関の物だったらしい。降りてみて驚いた。地下のフロアは強化コンクリート製のぶ厚い壁に覆われた広い空間になっていて、備蓄倉庫を兼ねたシェルターのようになっており、物々しく武装した男達がたむろしていた。
人数が半端ない。100人以上いる。都市殲滅作戦に従事する中隊編成並みだ。
「アンタ達、戦争でもおっぱじめる気なの?!」
「余計な口は聞・・・!・・・カナイデクダサイ。」
すっかり弱気になった武装兵達が案内したのは、一番奥にある「司令室」。
鉄製の重い扉を開けると、狭い室内中央に置かれた簡易デスクに座っていた男が立ち上がって迎えた。
「ようこそ、お嬢さん。」
男は曖昧に微笑み、声を掛けた。
「手荒なマネを詫びよう。
我々はリーベンゾル帝国守護同盟・「ホライズン」。俺は指揮官のボーガストだ。
よければ、名前を教えてもらえないか?」
年齢は40代前半と言ったところか。無精ひげが目立つ無骨な顔つきで、がっしりと大柄な男だ。
礼儀をわきまえているようでもどこか高圧的な態度が癪に障った。カルメンは口を開こうとするモカを制して自分の後ろに匿った。
「よろしくないからお断りよ!
女ナンパするのにロケットランチャー使うアホになんぞ、名乗ってやる価値あるもんか!」
「・・・よせ。死にたいか?」
カルメンの威勢の良さに目を丸くするボーガスト指揮官に代わって、彼女を窘めたのはサムソンだった。
部下達と引き離され指揮官の前に引き出された彼は、手錠を掛けた両手で身を乗り出す勢いのカルメンを引き留める。
「慇懃な態度はお前に対してじゃない。口が過ぎると抹殺されるぞ。
こいつらが仮にでも礼を尽くすのは、そこの小娘の『血筋』にだけだ。そいつがゴルジェイの娘だからこそ穏便に事を運ぼうとしているのに過ぎん!」
「・・・ヒッ!」
引きつった悲鳴が漏れた。
カルメンが慌てて傍らのモカを抱きしめる。
怯える少女は今にも倒れそうなほど、蒼白だった。
「ふん!まがい物のコピーに金で雇われた犬のくせに、偉そうな口を叩くじゃないか!」
指揮官を取り囲む武装兵達が忌々しげにサムソンを睨む。
「粗悪なコピーが貴様のようなヤツなど何人雇おうと、物の数ではないわ!」
「・・・コピーというのがあのバケモノのことなら、粗悪なまがい物という部分は同感だ。
だが貴様らのようにゴルジェイがまだ生きているなどと世迷い言を言っている内は、リーベンゾルはいつまで経っても平定せん。」
「なんだと!」
「金目当てでタークに尾を振る犬のくせに!」
「ゴルジェイを愚弄する気か!?」
サムソンの反撃に武装兵達が即座にキレた。
(まるで相手にしていない。力量の差ってヤツね。)
普段他人に手厳しいカルメンでも、この時のサムソンには感心した。
掴みかからんばかりにいきり立つ武装兵達に対して、サムソンは冷静に眉一つ動かさずに罵詈雑言を聞き流している。
(こいつ、何か勝算があるんだわ。この状況を打開できる何かを隠してる。
それがわかればこっちも何か手を打てるんだけど・・・。)
カルメンにも勝算がまったく無いわけではない。リュイだ。
ビオラとロディが火星基地に連絡を入れている。リュイ達は動く。必ず助けに来てくれる。
しかし救助はいつになるかわからない。ここが特別監視地域「エリア6」内である以上、迂闊には動けない。サムソンも言ったが、派手な戦闘が始まれば連邦政府軍が出動する。
奴らが来れば敵味方関係なく全員テロリスト扱い、土星強制収容所行きだ。モカも捕まってしまう。それだけは避けたいところだった。
「よさんか、貴様ら。今は犬など放っておけ。」
ボーガスト指揮官が喚く武装兵達を窘めた。
サバイバルブーツの靴底を鳴らしてサムソンの方へ歩み寄る。正面から彼を見据え、ニンマリと笑った。
相手を愚弄するような、禍々しい微笑だった。
「後でじっくり話を聞かせてもらう。楽しみにしていろ!
地球連邦政府軍・第2053特殊歩兵連隊長サムソン大佐!」
「・・・!?」
サムソンの隻眼に殺意が宿った。
騒いでいた武装兵達が一斉に黙る。
若い兵士など思わず後ずさるほどだった。それほどの怒気をはらんでサムソンは無言で目の前の敵を見据えている。
カルメンもまた息を飲んだ。この男がかつて地球連邦政府軍に席を置いていたことは知っている。以前エベルナでやり合った時、居合わせた鉄巨人・シャーロットの言葉を聞いたのだ。
「私はASの傭兵だ。連邦政府正規軍人だったお前が覚えてないのも無理はない・・・。」
シャーロットはサムソンを知っていた。彼女を「知らない」と言うサムソンにシャーロットが言ったこの一言は、彼をひどく激昂させたのを覚えている。
まさか本当に連隊を任されるほどの「大佐」だったなんて・・・!
(それだけの地位の男が、なぜ寝返りのようなマネを?
しかも傭兵に身を落として、リーベンゾルに雇われてまでして・・・。)
深い事情あって軍を辞したのだろうが、ボーガスト指揮官はその詳細を知っているようだ。
かつて「連隊長」と呼ばれていたはずの男と武装テロ集団の指揮官は、互いに憎悪をむき出しにしてしばらくにらみ合っていた。
先に動いたのは、ボーガストの方だった。
「ふん!」と鼻先で嘲笑い、サムソンから目を離す。
「今は貴様なんぞに構っている場合じゃない!おい、女!」
ボーガストがカルメンに怒鳴った。
「その娘・・・いや、お嬢さん、は、本当に『後宮』の生き残り・・・。
いや、ゴルジェイの娘なんだろうな!?」
必死でしがみついているモカがビクッと震え、カルメンの目が危ない感じに据わった。




