R-フォースの奇襲
走行する車体右側にロケット弾が飛来、運転する若い兵士が咄嗟にハンドルを切った為直撃は免れた。
派手に土煙を巻き上げ高機動車は横転した。乗員の負傷者は約1名。軽傷で済んだのが幸いだ。
「この女!ゴーグルひったくりやがった!信じらんねぇ!!」
何も見えない暗闇での退避行動を余儀なくされて負傷したサムソンの部下が怒声をあげる。
「何このゴーグル、ズームもサームグラフィも付いてない安物じゃないか!アンタら、どこまでしみったれてんのよ!」
ゴーグルを装着し、モカを抱えて飛び込んだ大きな岩の陰から素早く周囲に目を走らせる。
退避後すぐ散開した他の兵士達の姿が確認できない。この場を囲み込んでいる襲撃者達の姿もない。風の音だけが暗闇に不気味に響くだけだ。
「ったく、冗談じゃないわ!アタシ達をどこに連れて行く気だったのよ?!火星で盗賊まがいの武装集団が出るエリアなんて、そうないはずよ!」
「騒ぐな。敵に居場所を気取られる。」
サムソンの声がした。
振り向くと若い部下を引きずるようにして近寄ってきた。運転手だった若い部下は息も絶え絶えで、死にかけたショックから立ち直れていなかった。
「そっちの坊や、シロート臭いわね。」
「こいつは実力はあるが実戦経験がまだ浅い。」
そう言うと、サムソンは若い部下を無造作にカルメン達の方へ突き飛ばした。
「トラヴィス、貴様はここでお嬢ちゃん達をお守りしろ!」
「ちょっと!こんなの押しつけられたら足手まといもいいとこよ!」
「戦闘に参加する気のようだが、お前こそ邪魔するな!」
いきり立つカルメンを黙らせ、サムソンは自分のゴーグルを奪われてなにも見えない部下に投げ渡す。
自分は小型ライフルの暗視スコープをのぞき、グルリと周囲を見回した。
「市街地での戦闘を想定していたから装備が甘い。事が始まればお前らまで庇いきれんし、余計な手出しは死期を早めるだけだぞ。
現在地を言っておこう。ここは『エリア6』区域内だ。
こんなところに居る奴らがタダの盗人だと思うのか?死にたくなければおとなしく隠れてろ!」
「エリア6?!」
驚くカルメンの声は悲鳴に近かった。
火星・地球連邦政府軍特別監視地域「エリア6」。
その名の通り、連邦政府軍によって厳しく管理・監視されているエリアである。
火星の北半球4分の1を占め、かつてはそれなりに街や集落も存在したが全て廃れて今は無人。原因は連邦政府直轄のキメラ生物研究所が起こしたキメラ獣脱走・繁殖事件だとしてまことしやかにささやかれている。
事実このエリアに生息するキメラ獣はマルス周辺のものより攻撃的で凶暴だ。連邦政府軍の特別区監視部隊はキメラ獣のエリア外脱走阻止だけに忙殺されている。
その所為か、監視の目をかいくぐってエリア内に侵入する者も後を絶たない。
都市部で犯罪を犯した逃走犯、脱走兵、生きる場所を追われた無戸籍の難民達。
ほとんどの者はキメラ獣の餌食になり骨も残らず喰い尽くされるが、生き残ってエリア内に居着く者達も稀に居る。
連邦政府軍の1個小隊やキメラ獣に対抗できる武力を持つ、反社会思考のテロ組織。
猛者である。
盗賊まがいの武装集団どころの話じゃない。
「エリア6?!どうしてそんなところに!?」
カルメンに抱きかかえられているモカが叫ぶ。
「ナム君は?!彼が居る所へ向かってるんじゃなかったの!?」
「向かっている。」
モカは短い返答に絶句した。
「連邦政府軍特別監視地域にリーベンゾルの拠点がある!?しかも元首まで来てそこに居る!?
・・・ふざけてる!軍はいったい何してんのよ!!」
(あいつらはいつもそう!何も守る気なんてないんだわ!!!)
故郷ティリッヒでの惨劇が思い出され、憤ったカルメンがモカの肩を強く抱きしめた。
サムソンが用心深く岩陰から周囲の様子を伺う。
高機動車は横転してもう走れない。散開した部下達と連絡を取るのも不可能だ。下手に動けば即座に居場所を把握されてしまう。
(いかに連邦政府軍の特別区警備歩兵部隊がボンクラでもエリア内で戦闘が始まればすっ飛んで来る。時間を掛けるわけにはいかない。
奴らはいったい何者だ?!まるで待ち構えていたような攻撃だった。この辺りにそんな用意周到なマネをする武装組織は居ないはず!
何が狙いだ?物盗りが目的だとは思えんが・・・。まさか!!?)
背後に近づいてきた不穏な気配に弾かれたように振り返る。
その瞬間、サムソンの利き腕に焼かれるような激痛が走った。
油断した。電磁弾で撃ち抜かれた自分の腕を見る隻眼に、驚愕の色が浮かぶ。
「申し訳ありません、『大佐』。」
トラヴィスが詫びた。自分の上官に電磁銃の銃口を突きつけながら。
サムソンはこの若い部下の経歴を思い出し、顔を歪めて立ち尽くした。
「大戦」時、戦災孤児だった彼が運良く地球連邦政府軍に保護された場所は、外惑星エリア。
小惑星21××YU5。リーベンゾルである。
「トラヴィス・・・。『R-フォース』と通じたか・・・。」
「はい、『大佐』。他の者達もすでに制圧されている頃でしょう。抵抗は無駄です、投降して下さい。」
トラヴィスの背後から、ライフルを構えた男達が現れた。
無数の銃口がサムソンを狙う。戦力差は歴然だ。
「その娘は、我々が連れて行きます。・・・ゴルジェイの為に!」
上官に銃を向ける哀しみを浮かべていたトラヴィスの顔が、最期の一言に輝いた。
「R-フォース!?何ソレ、どーゆー事よーーーー!!!?」
怯えるモカを抱きしめた、カルメンが荒野に響き渡るほど絶叫した。




