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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
独裁者の遺産
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女神と悪魔とハニトラと

「あれぇ、モカさんはー?」

元気いっぱいのシンディが食堂に駆け込んできた。

手に何かクシャクシャの包みを持っている。斜めに歪んだリボンが掛けてあるから辛うじてラッピングしたとわかる物体に、ハムエッグをつついていたフェイとコンポンが目を丸くした。

「なんじゃ、そりゃ?」

「アンタ達にはカンケーないわよ!モカさんは?」

怪訝そうなコンポンの目から包みを庇うように隠すシンディに、フェイが言いにくそうにつぶやいた。

「・・・今日は、朝ご飯に来ないんじゃないかな?」

「何でー?」

「何となく・・・。」

フェイは言葉を濁す。夕べのモカの様子を思えば、とても普通に朝食を食べに来られるとは思えなかった。

だから、「あ、来た。」とコンポンが言った時は驚いた。

食堂の入口に目を向けると、シンディみたいに包みを抱えたモカが手ぐしで髪を整えながら駆け込んでくるところだった。

「あら、モカ。今日は遅いのね。」

「スミマセン、髪の寝癖が取れなくって遅れちゃいました。」

キッチンから出てきたベアトリーチェに答える笑顔のモカに、いつもと変った様子はない。

彼女がテーブルに着くなり、早速シンディが駆け寄っていった。

「モカさーん、プレゼントがあるの!夕べやっと出来たのよ、受取って♪」

得意げに差し出した不器用に包装した小さな包み。

開けてみると、中から何ともビミョーな物体が登場した。


「・・・トド?」

「いやアザラシ?」

「バカ、耳が付いてるだろ、え~っと、カバ!」

「カバって茶色いっけ?イノシシじゃね?」

「クマちゃんよっっっ!!!」


食堂にいた全員が首を捻った物体の正体は、以前モカがPTSDの発作を起こした時、励まそうと思い作り始めたシンディお手製のテディ・ベアと判明した。

「って、お前、まだあの時作ってたの出来上がってなかったのか?」

「もう随分たつんだけど・・・。」

「うっさい!ほっときなさいよ!!」

呆れるフェイ・コンポンに噛みつくシンディを宥め、モカが優しく微笑んだ。

「ありがとう、シンディ。可愛いよ、大切にするね!」

「モカさんって、女神だな・・・。」

「黙れ!チビ猿!!」

拳をにぎりしめて凄むシンディに、モカも包みを差し出した。

こっちは上手にラッピングされている。手先の器用さの違いが歴然だった。

「私も昨日出来上がったの。はい、頼まれてた物!待たせてゴメンね。」

「えっ、マジ!?きゃー、やったぁ!♪」

大喜びのシンディが包みを開ける。

中から出てきたのは、色とりどりのライトストーンでコッテコテにデコられた、

 メ リ ケ ン サ ッ ク ・・・。

「ピッタリよ、素敵!モカさん愛してる!!」

両手にはめてガシン!と拳をつき合わせるシンディに、フェイとコンポンの顔色が変る。

「何作ってんの、モカさん・・・。」

「悪魔の所行だ・・・。」

2人は凶暴さを増したシンディに身を寄せ合って戦いた。


その様子をナムも他のメンバー達と同じように苦笑しながら別のテーブルで見守っていた。

(大丈夫、みたいだな・・・。

トドだかカバだかわかんねーモンでも、モカが元気になれるんだったら有り難いんだけどね。)

ルーキー達と笑い合うモカに安堵する。

少し困った顔のフェイと目が合ったが、笑って頷いておいた。

ナム自身もまだ困惑している。モカのために何が出来るだろう?その答えはまだ見つかっていない。

局長(あいつ)なら、知ってんのかな・・・。)

言いようのない気持ちで胸がモヤモヤする。

リュイはまだ局長室から出てこない。いったい、何してるんだか・・・。

「・・・ナム君、ちょっといい?」

物思いにふけっていたナムは、我に返って顔を上げた。

いつも間にか、はにかんだ笑顔のモカが側に佇んでいた。


格納庫の裏に呼び出された。

モカは先ず、昨日の夜の事を詫びてきた。

「ゴメンね、あんなトコ、見せちゃって・・・。」

「・・・謝る事じゃないよ。」

俯いて小さくなるモカの様子に、胸が痛んだ。

その一方で、他人行儀にされたみたいでちょっとイラついた。

「あのさ、もっと頼ってくれていいから!迷惑なんて全然思わないからさ!」

「あ、ありがとう・・・。でも、発作って急に来るから・・・。」

「予兆とか、前兆とかないのか?」

「うん・・・。昨日の発作は、夢の所為、かな?

夕べは仕事がなくて早く寝たから、お母さんの夢、見ちゃって・・・。」

モカは小さく笑った。

部隊のバックヤードを担う彼女は、夜遅くまで局長室で仕事をしている事が多い。自室に帰るの時には日付が代わってる事がほとんどだ。

睡眠時間は短いが、その方が疲れてるからぐっすり眠れるのだそうだ。局長室での仕事は過酷のようで、彼女にとって有り難いものらしい。

局長はコレを知っている?だからモカを夜遅くまでコキ使うのか・・・?

ナムは頭の後ろを掻きむしった。

「それでね、昨日のお詫びとかお礼ってワケじゃないんだけど・・・。これ、受取ってくれる?」

「え?♡」

おぉ!カノジョからの初プレゼント!!?

沈みつつあったナムのテンションが一気に跳ね上がった。

差し出されたのは、手の平に乗るくらいの小さな小箱。開けると中には一対のピアスが入っていた。

「私が作ったの。ロディ君に高炉借りて。」

「えっ、スゲェ!」

確かに手の込んだ逸品だった。

フープタイプの小ぶりなもので、シンプルな造りながら細かいガーランド模様がほりこまれている。

素材はチタンらしい。光に当たると模様がキラキラ銀色に輝いた。

ナムもシルバーのアクセサリーを集めるのが趣味なだけあって、ピアスはたくさん持っている。

しかし当然並じゃない。どれもこれも、どこで発掘してきたかと聞きたくなるようなゲテモノデザインの物ばかり。

(う~ん、せっかくだけどかなり地味、だなぁ。悪いけど、使わないかも・・・。)

そんな事を思いながら手に取ってみると、思ったよりも凝った造りだとわかった。

ピアスの片面に幾つか押しボタンらしい物が埋め込まれている。これはいったい・・・?

「このピアスね、通信機なの。ロディ君に作ってもらったんだよ。」

「通信機?」

「うん。横のところにボタンが付いてるの、わかる?それがスイッチなんだよ。それでね・・・。」

モカはナムの手のひらからピアスを一つ取って、自分の左耳にはめた。

「一つは私が使うの。もう一つはナム君が持っててね。私、ナム君と話すときはこっちの通信機使うようにする。ナム君専用の通信機にするね。」

「マジで!?」

「うん。この前ナム君、お揃いの指輪とかしようって、言ってたでしょ?

でもね、ナム君棍棒使うし、私もワイヤーソード使うし、指輪とかしてたら邪魔になっちゃうでしょ?

その代わりに、ピアスなんてどうかな~って思ったの。ほ、ほら、あの、一つのピアスを片方ずつ分け合って使うって、同じ指輪するよりいいと思わない?

だ、だから、頑張って作ったの。気に入らないかも知れないけど、て、手作り?だから、その・・・。」

何となく歯切れが悪くなっていくモカの話し方を気にもとめず、ナムはいそいそともう一つのピアスを左耳にはめた。

軽い。邪魔にならないしいい感じだ。

「ありがとな!スッゲぇ気に入った♡」

「よ、よかった、うん。

あのね、ずっと付けててね?私も付けてるから。

そ、そしたらあの、いつでも話せるし、いつも一緒に、いる感じ?で、心強いってゆーか、安心する?ってゆーか・・・。」

だんだんとモカの口調が棒読みに近くなってきているのに、浮れるナムが気付いているかどうか?

教えられた台詞をその通りに言うだけで、モカはもう必死だった。


一方、格納庫横に置き捨てられた小型トラックの影には、諜報員達が様子を伺っていた。

「ん~、60点ってトコね。もっと堂々と色っぽ~く言わなきゃ、効果薄いわよ。」

「モカがあんな白々しい台詞、アンタみたいに言えるわけないでしょ!?黙って見てな!」

「モカさん、必死ッスね・・・。」

カルメン&ビオラのお節介姉御コンビと、義姉思いのロディは小声でボソボソつぶやきあった。

「あのピアス、いいわね。発信器付なんでしょ?」

「えぇ、ナムさんが付けた方にバッチリと!モカさん側には強制開線の機能も付いてるッスよ!」

「ふっふっふ♪コレであのアホはどこへ行こーが丸わかりだ!

今度勝手なマネしやがったら速攻で居場所押さえてふん捕まえてやる!!」

「モカもリグナム趣味の指輪押しつけられなくて済むし、一石二鳥ね!

でも、も~ちょっと可愛く言えてたら合格なんだけどな~。」

「リグナム相手ならアレで充分よ!ミッションコンプリート!」

「コングラチュレーション!ッス。」

義姉弟達はお互いの拳をつき合わせてミッション完遂を喜び合った。

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