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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
衛星都市マッシモの奇跡
17/403

その男、最強につき

ボン!ボンボン!!!


続けざまの爆発音!

「局長」が構えるライフルが火を吹いたのだ。

銃撃というよりまるで砲撃、明らかに強化改造されている凄まじい威力のライフルである。

そんな銃器を斜に構えて 片手撃ち 。発砲時の反動・衝撃をまったく意に介す事なく、「局長」は引き金を引き続ける。

機械兵が大きく仰け反り、地響き立ててぶっ倒れた。

未だかつてない光景だった。


機械兵が倒れた瞬間、「局長」が地を蹴り華麗に飛んだ。

立ち上がろうともがく機械兵の背にガァン!と飛び乗り、踏みにじる。

そして、被弾し大きく破損した背部装甲の亀裂に手を掛けた。


ベキベキベキ・・・ベコォン!!!


木の皮でも剥ぐようだった。

改造ライフルの銃撃で歪に凹んだ装甲は、容赦無く一気に引き剥がされた!


「な・・・?!」


フラットは目を剥き絶句した。

人の手が、機械兵の金属装甲をひっぺがした!目の当たりにしてなお、信じがたい。

戦慄く彼の目の前で、鎧を剥がれた機械兵の背が内部の基盤をさらけ出す。

そこを目掛けて「局長」の右の拳が振り下ろされた!


グシャッッッ!!!


機械兵の体内に深く沈んだ「局長」の手が、何かを掴んで引っ張り出した。

エネルギー制御盤。機械兵の「心臓」である。

機械兵を倒すにはこれを破壊するしかない。

千切れたコードが火花を散らす「心臓」は、容易く握りつぶされた。

機械兵はただの鉄くずとなり、そのまま永遠に動きを止めた。




警備員室のトルーマンは座っていた椅子から転がり落ちた。

(なんだあいつは!?

機械兵を倒しただと!? こんな事はあり得ない!!! )

目の前のモニターには「局長」と呼ばれた男の姿が映し出されている。

その「局長」が画面の中で顔を上げた。

ダークブラウンの髪、やや浅黒い肌。

身長が高く、まだそう年を重ねていない、若い男。

非常に整った顔立ちだが、黒い双眸には冷たい 殺気 が宿っている。

格納庫内の映像を捉える機械兵のカメラ・アイ。それを見上げているのだろう。

しかし戦くトルーマンは、自分が鋭く睨まれた感覚にとらわれゾッとした。

その時。

突然、モニター画面が暗転した!

格納庫の中の様子が見られなくなった。何が起こったかわからない。

床にへたり込むトルーマンは、しばしの間放心した。

徐々にこの事態が呑み込めてきた時、彼は改めて戦慄した。

「局長」が機械兵のカメラ・アイを破壊したのだ。

身体の震えが止らなかった。




改造ライフルが再び火を噴き、機械兵のカメラ・アイを打ち抜いた。

残るは2体。「局長」は身を翻し、手近な機械兵を襲撃した!

機械兵のAI頭脳はかなり高い確率で敵の攻撃を予測し防ぐ。その殺人兵器が「局長」の早さに追いつけない。

「局長」が腰の鞘からナイフを抜く。刃渡りの長いコンバット・ナイフ。その切っ先を機械兵の頸部装甲溶接部分に狙いを付けて叩き込む。

深く刺さった白刃に「てこの原理」で体重をかける!

機械兵の首が千切れて飛んだ!頭部が無惨にゴトリと落ちた。

首が無くてもなお動く。機械兵が闇雲に腕を振り回し辺り構わず暴れ始めた。

その肩に手をかけ勢い付けて「局長」がヒラリと宙を跳ぶ。

彼は機械兵の背後に降り立ち、大砲級の改造ライフルを至近距離からぶっ放した!


ベコォン!!!


背部装甲への一撃は、機械兵の胸部を突き出るように変形させた。

この衝撃で制御盤が無事であるなどあり得ない。

機械兵はガクン、と膝をつくとそのまま動きを停止した。


残る機械兵はあと1体。

その個体もカメラ・アイが損傷し、的確な狙撃は困難だった。AI頭脳は無差攻撃を選択した。

マシンガン装着の腕を振り、デタラメな方向へ銃口を向ける。

そこには「局長」ではなく、ナム達がいる。

「局長」は忌々しげに舌打ちし、すぐに機械兵との間合いを詰めた。

銃の腕を振りかざす機械兵の懐に入り、左腕でマシンガンの銃身を、鋼の腕ごと跳ね上げる。

そして振りかぶった右の拳を、胸部装甲に叩き込んだ!


ズガーーーン!!!


最後の機械兵は停止した。

腕のマシンガンは宙に銃口を向けたまま、撃たれる事なく沈黙した。




コークス&イーブカンパニーの格納庫に静寂が戻った。

しかしフラットは指一本動かせず、ジッとその場に立ち尽くす。

悪い夢でも見ていたようた。なにもかもに現実味がない。

あまりにも壮絶な修羅場だった。お陰で命は助かったが、安堵よりも恐怖が勝る。

畏怖の念にとらわれた彼は、心の中で絶叫した!


(俺は 奴 を知っている!)


フラットの脳裏に様々な場面が浮かんでは消える。

裏路地で出会った少年、ナム。

不法投棄のゴミ捨て場で彼が見せた、去り際の素早い身のこなし。

この格納庫でネーロ・ファミリーのマフィアを見事に倒してみせた戦い方。

それに感じた既視感(デジャブ)。恐怖にも似た不穏な感情。

戦うナムとよく似た者を、フラットは確かに知っていた。


(俺が奴を知ったのは、「大戦」時・・・ 戦場 でだ !!!)


戦くフラットの脳裏に再び、ある光景が呼び起こされた。

フラッシュバックと呼ばれるそれは、今、目の前で起った修羅場の何万倍も凄かった。

人類史上最悪と言われた「大戦」時の激戦区。

中隊レベルの敵兵団に追い詰められたフラットの分隊。

兵力差は絶望的。死を覚悟したその刹那。

突然現れた1人の男が、たった一丁のライフル片手に敵兵団へと切り込んで行った。

そして・・・・・・!!?


身体の震えが止まらない。

目眩と共に吐き気を覚え、とても立ってはいられない。

茫然自失のフラットは、ヘナヘナその場にへたり込んだ。




警備員室のトルーマンもまた、恐怖に駆られて戦いていた。

床に尻もちついたまま、真っ黒なモニター画面を凝視する。


「ば、化け物だ・・・!!!」


彼は飛び上がるようにして立ち上がった。

警備室の出口を目指し、必死の形相で走り出す。

しかし、その出口で とある少年 に出くわした彼は、恐怖を忘れて足を止めた。


(なぜここに? コイツは確か、死んだはず・・・???)


頭をよぎった疑問を最後に、トルーマンの意識はぷつりと途切れた。


「その顔、ナムさんにこっぴどくやられたようッスね。

でも、俺からも借り、返しとくッスわ♪」


ナムの舎弟・ロディが足を戻してニッコリ笑う。

なかなか強烈な 蹴り だった。床に沈むトルーマンの顔は、ナムが殴った時より歪になった。

「俺でもアンタくらいのチンピラなら、余裕~で倒せるんッスよ。ウチの部隊のシゴキ、半端じゃないんで♪。

・・・実戦は苦手だから、滅多にやンないッスけどね。」

そう言うと、ロディはつなぎのポケットからワイヤーを取り出し、トルーマンを後ろ手に縛り始めた。




まったく何事もなかったように。

「局長」は平然と歩き出した。

倒した敵にはもう一瞥も与えない。散らばる破片や残骸を無慈悲に踏みつけ、フラットやナム達の方へ足を向ける。

「局長、済みません・・・。」

カルメンが直立不動の姿勢で彼を迎え、小さな声で一言詫びた。

そんな彼女に見向きもせずに、「局長」が立ち止まったのはナムの前。

勝手に単独行動しちゃった挙げ句、危機に陥りなお暴走した、見習い諜報員の目の前だった。


ドコォン!!!


カルメンがビクッと身をすくめ、ビオラも咄嗟に目をそらす。

床にへたり込んでるフラットも「ひぃっ!」と小さく悲鳴を上げた。

バツが悪そうに突っ立つナムが 膝蹴り を喰らったのだ!

いきなり髪を鷲掴み、乱暴に引き寄せられてからの腹部を狙った強烈な一撃。手加減など微塵もない、情け容赦ない蹴りだった。当然、ナムは床に崩れ、嘔吐きながらのたうち回る。


「減俸。」


冷酷な声で「局長」が告げた。


「当面、基地の便所掃除でもしてろクソガキが!!!」


改造ライフルを肩に担ぎ、「局長」が再び歩き出す。

そのまま格納庫の出口へ向かう。腰を抜かしたフラットに、まったく目もくれなかった。

彼は夜の暗闇に消えて行った。

コークス&イーブカンパニーの格納庫にはフラット達と機械兵の骸、苦悶に呻く見習い諜報員が残された。


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