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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
ぶっ込み指令!極秘ファイル奪還作戦
168/403

街中での修羅場は控えめに(?)

酷く旧式の小型輸送機がマイルズの空に飛来した。

輸送機はS&M社ビル上空で旋回した後、何かを放出して飛び去った。

屋上に降り立った二つの人影は、素早くビルの中に消えた。

それを目撃した地球連邦政府軍・特殊歩兵部隊隊長は、慌ててマイルズ・コロニーの宇宙港に連絡を取った。輸送機の正体を確認するためだ。

宇宙港にその輸送機の記録はなかった。あり得ない。植民型コロニーでは宇宙港ゲートを通過しなければ航空機は侵入できないはずである。

愕然とする隊長に通信が入る。

上官から聞かされた「事実」に彼はもっと驚愕した。

ギド・ワルズ革命軍首領・エドワード・ヴァレンの身柄拘束。

ついでに後始末はアーバイン合衆国の自軍に任せて撤収するよう命じられたが、すぐには理解出来なかった。

驚く事が多すぎて、思考がついていかなかったのだ。


S&M社ビルの正面玄関に陣取ったギド・ワルズの武装兵達は「キュルッピン」の放心状態から覚醒した。

首領逮捕の情報は、別の小惑星にあるアジトからの宇宙無線で知った。「ぐわぁ!」と短い悲鳴を残して途切れた最悪の事態を伝える通信は、武装兵達を大混乱に陥れた。

ギド・ワルズ革命軍は、滅亡した。マイルズで戦う戦士達の士気は急速に落ちていった。

「落ち着け、取り乱すな!」

その場の指揮官と思われる男が辛うじて檄を飛ばす。

彼は即席のバリケート越しに敵の様子を確認しているところだった。

「我々はマイルズ独立のために命を捨てに来たのではないのか!?今こそその心意気を見せるときだ!!」

スコープを覗きながら背後の部下達に喚く。

連邦政府軍の動きがおかしい。撤収しようとしているように見える。

それは困る!ビルの爆破で奴らを道連れに玉砕する作戦だというのに!指揮官はスコープを覗いたままで怒鳴った。

「おい!どうなっている、何故爆破が起きない!?ビル内の実行部隊は何をやっている!?」

返事は、ない。

その代わり、指揮官の首に太い腕が絡みついた。

「・・・終了。」

指揮官は絞め落とされ、ガクッと意識を失った。

「味気ねぇなぁ。俺もアジト襲撃の方へ行きたかったぜ。

あみだクジで仕留める相手決めんの、止めて欲しいんだがな。俺、クジ運無ぇからなぁ。」

テオヴァルトが不服そうに愚痴った。

彼の足下は倒れて白目を剥くギド・ワルズの武装兵達で埋め尽くされていた。

指揮官の声に答えがなかったのも、道理だった。


ベアトリーチェの通信機はビーズ編みのオシャレなチョーカーネックレス。トップの部分に仕込んである。

その通信機が鳴った。サマンサからだ。

「あら。余裕ね、もう済んだの?」

『まぁね。嫌になるわ!数はいないし意気地は無いし。ほんの2,3人相手してあげただけで全員降参しやがったの。話にならないったら!』

39階の社員通路をヒールを鳴らして歩きながら、ベアトリーチェは悲しそうに微笑んだ。

太陽系広しと言えどアイアン・メイデン(サマンサ)に襲撃されて正気でいられる猛者は少ない。ましてやビル1棟と心中するなんて馬鹿げた作戦で使い捨てられる者が、腕の立つ猛者のはずもない。

マイルズにいるギド・ワルズ兵士のほとんどは、僅かな金で雇われた傭兵だったのだろう。作戦の内容も知らなかったに違いない。酷い話だがよくある事である。

『そっちはまだなの?ねぇ、手伝いに行っていい?』

「だーめ♡」

『もう!マックスが指揮取ると役割分担が雑で困るわ!

あみだクジで決めるなんて!私もリュイの奴と直接アジト襲撃したかったのに!』

「アタシだって不満なのよ?こんな街中のビルの中じゃ馬力がある銃使えないんだもの。でも・・・。」

ベアトリーチェの笑顔が変貌する。

憂いを秘めた慈母の微笑から、肉食獣が獲物を見つけた時の凶暴な笑みに。

「たまにゃぁ、素手でぶっ潰すのも悪くねぇ・・・!!♡」

『あらあら、敵さんお気の毒♡』

通信は切れた。

ロディの調べでは39階に終結した武装兵は20名強。

華奢な両手にメリケン・サックをはめて迫り来る巨乳の女に、非常階段の入口で上の階に突入しようと準備していた男達は、目を剥いて固まった。


悲鳴が聞こえた気がして、モカはハッと振り向き見上げた。

連なるビルの向こうにS&M社の高層ビルが見える。

気のせいだとわかっていても落ち着かない。実際あのビル内で起ってる事を思えば決して幻聴などではないのだから。

「よぉ、お姫ちゃん。無事で何よりだ。」

公園内に散乱する瓦礫を蹴散らして歩いてくる巨人が呑気な声を掛けてきた。

着ているコンバットスーツがボロボロである。ギド・ワルズ革命軍アジトでの修羅場はさぞや壮絶だったのだろう。

「副長こそ、ご無事でよかったです。あの、局長は・・・?」

「アイツがそう簡単にくたばるかよ。俺よりピンピンしてやがる。」

懐から琥珀色の液体が入った小瓶を取り出し一口飲むと、マックスはモカと並んで件のビルを見上げた。

「リグナム達ゃ、まだあそこか?」

「はい。全員無事だそうです。でもファイルの回収は出来ませんでした。」

「あぁ、そりゃ気にすんな。後の事ぁリュイがやる。お前を回収しとけっつーご命令だ。撤収するぞ。」

「きゃ!?」

義腕の肩にひょいとモカを担ぎ上げのしのしと歩き出したマックスの背後で、S&M社ビルの上層部ガラス壁が吹っ飛んだ。

「・・・ウチのヨメにゃ、派手にするなと言っといたんだがな。」

そうつぶやきつつも、マックスはわざわざ振り返りはしなかった。

倒壊する所だったのがこのくらいで済んだのなら上等だろう。

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