ガチテロ最中の誘拐事件!?
ナムはフェイとコンポンに飛びつき、2人を抱えて近くの巨大オブジェの影に転がり込んだ。
オブジェは現代アート風にアレンジした馬の彫刻。その腹の下で2人に被さり地面に俯せる。
ロディ、A・J、スレヴィが後に続いて飛び込んで来たタイミングで、何かが大量に降って来た。
鋭いガラス片が混じったビルの瓦礫が公園中に降り注ぐ。午後の公園で憩いの一時を楽しんでいた人々の悲鳴があちこちで飛び交った。
「ちょ、これマジッスか?!」
「火薬オンリーのクラッシックな爆弾やな。せやけど爆発規模からして素人の造りやあらへん。いきなりなんやねんな、これ!?」
スレヴィとロディが頭を抱えて伏せたまま喚いた。
「モカ!?」
ナムは飛び起き、ガラスや瓦礫が散乱する公園内を見回した。
公園内は爆発に怯えてオフィス街からなだれ込んできた人々でいっぱいだ。おまけに地面で爆ぜた瓦礫が粉じんを巻き上げ視界が効かない。
ジャケットの内ポケットからスコープを取り出し目に当てる。映像を特殊カメラに切り替えて、近くにいるはずの少女達を捜した。
モカ達は見当たらない。代わりにとんでもないモノを見つけてしまい、心臓が凍る思いを味わった。
小機関銃を構えた男達。突然現れた武装兵が逃げ惑う人々に銃口を突きつける!
「A・J!!」
鋭く叫ぶナムの声に伏せていたA・Jが飛び起きた。
左手でナムが投げ渡したスコープを受取り目に当てると、右手をミリタリージャケットの内側に突っ込む。
ショルダーフォルスターから抜かれたのは45口径の改造銃。セーフティの解除と同時に怒濤の勢いで乱れ打つ。
突然の奇襲に混乱する武装兵達の隙を突き、ナムが棍棒で、スレヴィが拳でたたき伏せた。
「拳2発、蹴り1発で1万と1千エンや!♪」
「んな事言ってる場合じゃねぇよ!」
ナムはジャケット襟に付けたピンバッチ型通信機のスイッチを入れた。
「モカ、無事か?視界が悪くて居場所が確認できない。シンディとマルギーは一緒なんだろ?!」
返事は返ってこなかった。
「リグナムぅ!さっきこの俺に命令したな!?何様のつもりだ!!」
ダッシュしてきたA・Jが不吉な予感に固まるナムの胸ぐら掴んで揺すぶった。
「名前呼んだだけだったのに俺の指示察してくれるなんて、さっすがエーちゃん♪
って、今それどころじゃねぇーーー!!」
「ナムさん!」
空を指さして叫ぶロディの声に、3人同時に天を仰ぐ。
どこからともなく飛んできた、最新型の小型ドローンが全部で4機。
ドローンは空中で距離を取って制止し、それぞれが頂点となる事で描く長方形の内側に、光を照らしてビジョンを映しだした。
『・・・我々はギド・ワルズ革命軍。
マイルズの市民よ!我々はマイルズD-21地区を占拠した!
この区域にいる者は速やかに投降せよ!いかなる理由があろうとも、区外に出ようとする者は血の粛清をもって処罰すると忠告しておこう。
我々の要求はただ一つ。このマイルズ・コロニーの地球連邦離脱だ!』
立体ホログラフィ映像だ。
機関銃を構えた手下を従えた強面の中年男が不穏際なりない事をほざいている。
ナム達は目を丸くして固まった。
ガチテロである。
しかも独立を目指した武力行使の強行テロ。「ギド・ワルズ革命軍」は地球連邦政府軍のテロ組織ブラックリストに名を連ねる厄介な反社会組織だ。
呆然とビジョンを見上げるロディがポツリ、と聞いてきた。
「マジッスか・・・?ナムさん、どうします?」
「いや、どーするってお前・・・。」
考えるまでもない。即座に撤収すべきだろう。
連邦政府軍が一目置く武装集団がお出ましになった以上、まだ見習いの諜報員では相手にならない。
ナムは頭の後ろを掻きむしる。
その時、ピンバッチ型通信機が短く鳴った。
『・・・えれぇ事になったなぁ。派手にやらかしやがるぜ。
いきり立ちゃぁ要求が通ると思ってんだ、これだから田舎のテロリスト共は面倒くせぇ!』
一方的に回線が開かれた。
こんなマネが出来るのはモカだけだ。彼女がいつもかぶっているキャスケットに仕込んだ通信機は、局長・リュイからの司令を伝えるために強制的に回線を開く機能が付いている。
しかし今、通信機から聞こえてきたのはモカの声ではない。
背筋が凍り、一気に全身総毛立つ。
なんで、こいつがここに居る?!ナムはピンバッチに噛みつく勢いで怒鳴った!
「てめぇ、いったいどういう事だ!!」
『まぁ落ち着け、小隊長。
俺ぁ、お前らが心配で助けに来てやったんだぜ?そう邪険にするこたぁねぇだろぉ?』
「ふざけやがって!どこに居る!?モカをどうした?!」
『安心しろ。怪我一つしてねぇよ!
こっちは任せとけ、お嬢ちゃん達ゃ俺が責任持ってお守りしてやっからよ。後の事ぁ任せたぜ!』
モカ達が拉致された。しかもミッションを続行しろと言っている!
このミッションがモカを狙った罠だとはわかっていたが、こんな状況は想定の埒外だ。
まさか、自らモカを追ってここまで乗込んでくるなんて・・・!
怒りと同時に虫唾が走る。ナムはキレてピンバッチにがなり立てた。
「てめぇ・・・!覚えてろよ、エメルヒ!!』
『・・・今、俺を呼び捨てにしたのは見逃しといてやる。
この前も言ったがな、俺ぁお前らの局長の上官だぞ?もちっと敬えや!』
通信機の向こうでエメルヒが面白そうに笑った。




