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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
衛星都市マッシモの奇跡
14/403

半裸の美女はムチがお好き♡

人なつっこい笑顔は変らない。

ナムは大して疲れた様子もなく、立ち上がろうとするフラットに手を差し伸べた。

「とっととずらかろうぜ。

外にも結構ゴロツキ連中がいるんだ。援軍来ちまう。」

「・・・。」

フラットはおとなしくその手に掴まった。

この少年がただ者ではないのはわかっていた。

さっきの戦いぶりでさらに強く確信した。かなり高度で特殊な訓練を積んでいる!

(コイツは「戦士」だ 。しかも並の力量じゃ、ない!

俺としたことが、なぜ今まで気付かなかったのか・・・?)

不思議に思うフラットの目にナムの悪趣味なジャケットとTシャツが飛び込んできた。

(コレだろうな、理由は・・・。)

思わず苦笑した。こんな非常識な出で立ちである。素性を見抜ける者などほとんど居まい。

宇宙人でも見るかのようにうろんな目をする者ならば、それこそ大量にいるのだろうが。


バチッ!


何かが爆ぜる音がして、突然世界が暗転した。

「高度な訓練を積んだ」2人は言い合わせた様に、手近なコンテナの裏に飛び込んだ。

「うわ、援軍来たし。」

ナムはジャケットの内ポケットから小型の暗視スコープを取り出した。

トルーマンが逃走に使おうとしていた通用口。そこから銃を構えた男達が侵入してきた。

左右に散開する様子が見える。その数ざっと10人強!

「そんな物まで持ってるのか?!お前、本当に何者だ!?」

「俺? 諜報員。」

「嘘つけ!ただのスパイが銃を持ったマフィア相手にあれだけ戦えるワケないだろう!?」

「・・・鍛えられ方が余所とは違うんだよ。」

なぜかナムの声には苦々しいものがあった。

「さて、どうすっか。

って、考えるだけ無駄だな。強行突破っきゃないっしょ!♪」

「・・・おい、無茶言うな!」

スコープを借りて状況を見ていたフラットが呆れたように意義を唱える。

「他に手はないし?」

「・・・なんで嬉しそうなんだ。」

「何とかなるさ。さっきの連中も傭兵崩れってワケじゃなかったし。

地方都市でセコイ悪事働いちゃってるチンピラマフィアくらい、どーってことないって!♪」

「・・・。」

陽気にサムズアップするナムに、フラットは酒場で死んだ(と、まだフラットはそう思っている)ごんぶと眉毛の弟分を思い出した。

よく諦めた表情で肩を落としていたのを覚えている。彼の苦労がしみじみ察せられた。

「よっしゃ、行くぜぇ!!!」

武器の棍棒を構えなおし、気合い充分のナムがコンテナの影から飛び出そうとした、その瞬間!


バチッ!


再び音がした。

格納庫内の中央、一カ所だけがスポットライトを当てたように明るくなった。

「へ?」

出鼻をくじかれナムが固まり、入口付近で身を潜める新手のマフィア達も目を見張る。

光の中に女が1人、立っていた。

驚いた事に 半裸 である。元はタンクトップと思われる着衣が裂かれ、白い素肌が顕わだった。

両手で隠す胸の双丘は今にもこぼれ落ちちゃいそう。

垣間見えてる深い谷間が魅惑的。男達の目線はそこに集まり、ほぼ例外なく釘付けになった。


「助けて・・・♡」


女がゆっくり顔を上げた。

男達が息を飲む。怯え震えるか弱い女は目が覚めるように美しかった。

輝くストロベリーブロンドの髪が波打ち、アメジストの瞳には真珠のような涙が宿る。

バラ色の唇は艶めかしく半開き。何か言いたげに戦慄いて男達を誘っていた。


「私、怖い・・・。お願い、助けて・・・♡♡♡」


女がよろばうようにマフィア達の方へと歩き出す。

おぼつかない足取りの、謎の彼女がフラリとよろめき倒れかかった。

その瞬間。

物陰に潜むマフィア達が、目を血走らせて一斉に、女を目がけて飛び出した!

下心満載の親切心。

それが彼らの仇となる。


ひゅん!


乾いた音が空を切った!

手を差し伸べる男達が大きく仰け反り、身体をビクビク痙攣させて、床に次々沈んでいく。

「電磁ムチ」の威力である。高圧電流を纏う細いファイバー製のコードがしなり、コンクリートの床をピシリと打った。

半裸の美女は髪をかき上げ、男達を見下し嘲笑した。


不信な女に惑わされなかった少数派のまじめな(?)マフィアが慌てて銃を構え直す。

しかし引き金を引く間は少しもなかった。利き腕に走る激痛に為す術も無くうずくまる。

闇に紛れたスナイパー。その存在に彼らが気がついたのは、最期の1人が撃ち抜かれ殲滅させられた瞬間だった。

「うっわ、来やがったよ!面倒くせぇ~・・・。」

呆然となるフラットの横で、ナムがうんざり肩を落として項垂れた。




元・裏路地酒場のウェイトレス・ビオラはナム達に背を向け、ホットパンツのポケットから何かを引っ張り出した。

黒地のセクシーなストラップレス・ブラ。

慣れた手つきで胸元を覆い、破れたタンクトップを脱ぎ捨てる。

「これブランド物で結構高かったのよ。アンタ後で弁償してよね!」

「へーへー。」 

生返事するナムは「スパーン!」と頭をどつかれた。

張り倒された首が「ゴキ!」と鳴るほど、情け容赦無い平手打ち。

痛いなんてモンじゃない。目から火花が飛び散った。

「てめぇ野蛮女!なにすんじゃい!」

「喧しいクソガキ!ま~た勝手に暴走しやがって!」

照明の光が届かない闇の中から別の女が現れた。

元・裏路地酒場の女店主・カルメンだ。


「ちょっと目ぇ放したら面倒ばっかり! いい加減にしろこの未熟モン!!! 」

「そーよ、おバカね!少しは身の程、考えなさいよ!!!」

「俺の面倒なんか頼んでねぇよ!全部済んで帰るとこだったのに!

だいたいアンタら、何してたんだよ今まで!

酒場ぶっ潰れた後2人まとめてバックレやがって、またどっかで男漁ってたんだろが!」

「し、しつれーね!まじめに仕事してたわよ!」

「そ、そう!

アタシらは局長の命令で、ちゃ~んとコークス&イーブカンパニーの内状、調べたんだぞ!」

「そんなんバックヤードのモカがアイザックさんのデータ分析するだけでもできるじゃんよ!

さては コークス&イーブカンパニーの社内にイケメン野郎がいたんだな?!

そいつ取り合って無駄なバトルかましてたな!?」

「はぁあ?!違うし!ナニ言ってんのよアンタ!!!」

「男日照りの色ボケみたいに言うな!このスットコドッコイ!!!」


・・・ ゴホン !


わざとらしい咳払いが激昂した3人を我に返らせる。

酒場で見たあの喧しいだけの無駄な口論。その再現を阻止したフラットは、カルメンが肩に担いだ改造ライフルを眺めた。

「お前、あの時の狙撃手だな?裏路地で車を破壊した・・・。」

「あら、バレた?」

カルメンは舌を出しておどけるついでに、「カワイ娘ぶンなよトリガーハッピー!」と小声でつぶやくナムの足を、ヒールの踵で踏んづけた。

「悪いけど、アンタの復讐はとめさせてもらうよ。

あんな奴でも連邦政府地方自治補佐官、手を出したらただじゃすまない。

・・・でもアンタの気持ちはよくわかる。

あの腐ったゲス野郎は、アタシが撃ち殺してやりたいくらいだ!」

「・・・。」

フラットは何も答ず押し黙った。


その様子を見ていたナムがビオラに聞いた。

「あの人の事情、判ったのか?」

「ついさっきね。アイザックさんが手に入れた情報よ。

彼の父親は『ビーナス・フォース』の犠牲者。

お兄さんも『マッシモ騒乱』で命を落としているわ。」

「『ビーナス・フォース』? 『マッシモ騒乱』? なんじゃ、それ?」

「呆れた!あんたミッション前にモカが用意した資料、読まなかったの?!」

「ンな時間なかったじゃんよ!昼飯も食ってるヒマ無かったんだぜ!」

「一食くらいなによ!諜報員は情報が命でしょ?!

ったく、コレだからアンタときたら!!!」

怒ったビオラにナムの耳をつまみ上げる。

その耳に、フラットのつぶやきが聞こえてきた。


「・・・先の『大戦』で敵の星間ミサイルが金星宙域を襲った。

宇宙護衛艦『ビーナス』が盾になる形で衛星コロニーマッシモと市民を護り 撃沈 。

戦後マッシモでテロを目論んだ『金星解放自由同盟』の組織が連邦政府軍に追い詰められ、貧民街に立て籠もった上、住民を巻き込み 街ごと自爆 。

・・・用意した資料とやらには、そう書いてあったか?」


重く沈んだ暗い声に、カルメンが首を横に振る。


「アタシたちのような裏社会の人間で、そんな与太話に騙される奴はいない。

『マッシモ動乱』は、『ビーナス・フォース』の真実を隠す 偽装 だ。

宇宙護衛艦『ビーナス』には、地球連邦政府軍の正規軍人なんて1人も乗っちゃいなかった。

乗っていたのは、マッシモ自治政府が金で雇った 無戸籍の傭兵 達。

・・・あんたの父親も、その1人だった。」


敵のミサイルの盾になった とは、そういうことなのだ。

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