女王様の八つ当たり
さて。
「これからどうすっかな~。」ナムは頭の後ろをガリガリ掻いた。
今回のミッションはティリッヒの地球連邦脱退の意志があるかどうかを探ること。なのに根底から状況が変ってしまった。
公安局まで暗躍させて裏工作してるくせに「もしかして脱退します?」なんて聞く方がイカレてる。何が何でもつなぎ止めとく気満々だろーが馬鹿馬鹿しい!
おまけにこのミッションのコンプリートが、やっても無い諜報活動と首相暗殺でチーム全員土星行きになる事だなんて、アホらしいにもほどがある。
こんな茶番には付き合っていられない。とっとと撤収したいところなんだけど・・・。
「モカ、ウチの指揮官と連絡ついた?」
このミッションの指揮官はカルメンだ。彼女が決定しないとこれ以上何も出来ない。ナムはモカに声を掛けた。
モカは部屋の隅でキャスケットの通信機に耳を傾けている。彼女は1人騒ぎをよそにずっとカルメンにコールし続けていた。
「ダメなの。カルメンさん、通信機呼びかけても応答が無いの。」
モカがメンバー達に心配そうな顔を向ける。
「何か大変な事に巻き込まれちゃったんじゃ・・・?」
その時、キャスケットから短く電子音が鳴った。
「カルメンさん!?」
『ゴメンね、ハズレ♡ あ・た・し♡』
ビオラだった。モカは慌てて詫びた。
「スミマセン、カルメンさんがいなくなっちゃて連絡が取れないんです。それで・・・。」
『野蛮女なら今あたしの目の前にいるわよ?』
通信機の向こうでビオラが驚くべき事を言った。
『ただし、100mほど先に、浮浪者風のオヤジと一緒にね。見た事無いヤツよ。野蛮女は知ったヤツみたい。結構親しそうだわ。
ターゲットDのケリがついてホテル出た時見つけたの。様子がおかしかったから尾行してるんだけど、今あたしどこにいると思う?』
「どこなんですか?」
『宇宙港。しかも軍事用の艦隊が停泊するエリアよ。噂の無敵艦隊「メビウス」が見えるわ!』
ビオラの声は少し興奮していた。
宇宙港軍事施設、特に艦隊停泊用の巨大ブースは本来セキュリティレベルSクラスのエリアである。易々と入り込める場所じゃ無い。
ビオラはロディが発明したセキュリティシステム誤作動誘導装置「ごまかしっ子君マークⅡ」を使用して何とか入り込んだ。
火星のバイオテクノロジー研究所に侵入するミッションで使用した「ごまかしっ子君」の後継機器だ。システムの認証画面に接触させるだけで誤作動を起こしセキュリティが解除される。
開発者のネーミングセンスはほとんど進化していないようだが、「ごまかしっ子君」は諜報機器として飛躍的な進化を遂げていた。
問題はあの2人がこの進化形「ごまかしっ子君」と同レベルのセキュリティ解除手段を持っていると言う事である。
未だパーティ会場にいたカルメンがそんな野暮なものを持ち歩いているとは思えない。
だとしたら、あの浮浪者はただ者じゃ無い。
「とにかくあたしはあの2人を追うわね。何か分り次第連絡する。心配しないで!」
『何であんた、そんな事になってんだよ?』返ってきたのはナムの声だった。
『男どーした男は。スタンレー議員の諜報は?』
「うっさい!仕入れた情報はみんなモカに伝えたわよ!大したネタなかったからとっととおさらばして来たのよ、悪い!?」
『あんたが色男サクッと解放したって?信じられねぇんだけど?』
「お黙り!あんた後で覚えてなさいよ!!」
ビオラは通信をぶち切りした。
あたしだってあんな好条件の男、逃がしたくなかったわよ!うまくいきゃ玉の輿だったのに!
でも仕方ないじゃ無い! 本当に首相が厳しい立場にいる事くらいしか情報持ってなかったし、
お ネ ェ だったんじゃ、さすがのあたしも打つ手無しだわ!!!
『いや~ん、アナタのおキモノす・て・き♡ アタシ、一度でいいから着てみたかったの~♡♡
あ、安心してネ、アタシ女にはキョーミ無いから。
でも素でいるとパパがうるさいのよね~。保守派ってウザいわ~。考え方が古くって。アタシ近いうちに政治家なんか辞めてもっと自由に生きるつもりなの♡♡♡
ねぇ、マネーカードあげるからぁ、そのおキモノ譲ってくれない?着付けてくれるとうれしいんだけどな~♡♡♡』
ビオラは脳裏に浮かんだおネェ議員の顔を振り払った。
人の趣向や性癖にとやかく言うつもりは全くないけどこんなオチ、メンバー達、時にカルメンに知られたらどんなに笑われるか!
そのカルメンは今、謎のオヤジと物陰から「メビウス」を伺っている。ゴージャスなドレス姿のままだ。
あたしはあのおネェ議員に着物くれてやってTシャツとホットパンツの姿だってのに!
こうなったら、指揮官の任務すっぽかして何企んでんのか暴いて局長にチクってやる!!
ビオラは凶悪な笑みを唇に刻み、カルメン達を追って闇へ飛び込んだ。




