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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
水の都ティリッヒの陰謀
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3人でやっと半人前

ティリッヒ共和国議事堂は荘厳な石作の立派な建物で、歴代の首相の肖像がが飾られたロビーには毎日大勢の観光客が訪れる。

今日のような催しがある日ともなると、満員電車の中にでもいるかのような混み合いとなる。

月に1回、共和国議員が抽選で選ばれた小中学生の質問に答える交流会。

マスコミにも公開して行われるこの催しは、子供達の歯に衣着せぬ辛辣な質問と議員のセンス問われる回答の応酬が面白くとても人気がある。

特に今日は、宇宙港350周年式典が近いとあって滅多にお目にかかれない「大物」が参加する予定になっていた。

「来たわ、ダーゲットC!」

シンディが緊張した声で腕のリストバンド型通信機につぶやいた。

広いロビーの一角に警備員や職員達が苦心して整列させた小中学生の群れに混じった彼女は、普段の姿からは想像出来ないほど「変装」していた。

いつもツインテールにしている赤毛はきっちりと三つ編み、カチッとしたネイビーのブレザーを羽織った制服姿。カラーコンタクトで目の色を変えた上にレンズの分厚い黒縁の眼鏡。

頬にはいっぱいソバカスまで描いて、別人になりすましている。

少し放れた所では、同じく変装したフェイとコンポン。シンディと同じようなブレザーを羽織り、目の色、髪型を変えて変装している。

「よぉし!そんじゃ、打ち合わせどおりに・・・!」

「OK!」

ルーキー達のミッションが今、スタートした。

手短に通信機で言葉を交わし、3人は取り巻きを引き連れて現れたターゲットCと向き合った。


ターゲットCは女性である。

白地の上品なスーツを着た五十路にまだ間がある女性議員は、和やかに、いかにも子供が大好き♡と言った笑顔で子供達と対面した。

そんな彼女に子供達は容赦ない。

「どうして議員さんになろうと思ったんですか?」

「お給料はとのくらい貰ってるんですか?」

「同じ議員さんの中で嫌いな人とかいますか?」等々、

この程度はまだ序の口で、

「同じ議員のR氏とK女史が不倫してるって聞いてますが、何か知ってますか?」

「議員になる時有権者に賄賂ばらまいたって噂がありますが、本当ですか?」

「実は年齢偽ってて、お顔も整形してるんでしょ?」

「議事堂の地下にヤバイ感じの隠し金庫があるって都市伝説、あれホント?」などと、

言いたい放題の上エゲツない質問が、本当はそこまで子供が好きじゃないこの女性議員に次から次へと襲いかかる。

しかしさすがと言おうか、ターゲットCも負けてない。

「あらあら、こんなところに週刊誌の記者さんが!」

「大根値切って買うオバサンに人にあげるお金なんてないわ~。」

「あらやだ、若く見えるし整形してるって思うほど美人ってこと?」

「そんな金庫あったらオバサン、お金持って逃げちゃうかもね♪」

こめかみをビミョーに引きつらせながらも終始優しい笑顔を崩さないまま、交流会はつつがなく(?)進行した。

「はい、それではそろそろお時間となります!ありがとうございましたー!」

時間というよりターゲットCの忍耐の限界だろうと思われる頃合いで、司会者役の職員が半ば強引に終了を宣言した。

固まった笑顔のターゲットCが、手を振りながらそそくさと退場しようとした時だった。


「ティリッヒは、地球連邦から脱退するのー!?」


甲高い大声の質問に、ターゲットCの足が止まる。

振り向くと、赤毛を三つ編みにしたソバカス顔の少女が手を上げて挑むような目でこっちを見ている。

ターゲットCは少女に向き直った。この催しに滅多に参加しないターゲットCをとる為に報道各社の記者達が来ている。この質問に答えないわけにはいかない。

「それはありませんよ。ティリッヒは未来永劫、地球連邦と共にあります。」

「でも、改革派の人達が増えて来てるって聞いてるわ。裏じゃいろいろ働きかけてるって。保守派の人達の中にも、改革派に寝返ってる人がいるそうじゃない!」

必要以上に大きい少女の声がロビー中に響き渡る。

ターゲットCは微笑んだ。

「よくお勉強してますね。ティリッヒの伝統を守る我が党の中にも改革派の考えを持つ方もいると聞いています。

でも大丈夫。私がこのティリッヒ共和国の『首相』である以上、地球連邦からの脱退はあり得ません!」

壁に並ぶ歴代首相の肖像画。その一番端に掲げられている第462代首相・アメリア・スージィ・サトラーの毅然とした態度に、共和国議事堂のロビーは拍手喝采に包まれた。


イベントが終わり退場し始めた小中学生にマスコミ達が群がった。

お目当てはさっき首相に現在ティリッヒが抱える深刻な難問をぶつけ、この日一番の見せ場を作った少女。

なかなか可愛い少女だった。ぜひ夕方のニュースで流せるコメントが取りたい。記者達はマイク片手に子供達の大群をかき分け必死に探した。

しかし、どうしたことか誰1人見つける事が出来なかった。

首相が退場したのとほぼ同時に、赤毛お下げのソバカス少女は忽然と消えてしまったのである。


モカはPC画面でルーキー達が無事にミッション完遂したのを確認して安堵した。

小中学生との交流会に紛れ込み、特別参加する首相に直接質問をぶつけてその反応をカメラに納める。それが今回のルーキー達のミッションだ。

切り込み役のシンディは正面から、フェイは右側、コンポンは左側と、それぞれ違う角度から体に仕込んだ隠しカメラで質問された時の首相の様子を撮影する。

その映像を分析することで、首相の真意を推し量ろうというものだ。

3人が送ってきた映像を確認したモカは、眉を潜めた。

シンディに「保守派の人が改革派に寝返っている」と言われた時、首相の目が、一瞬泳いだ。

しかしすぐに真っ直ぐシンディを見返した時の目には、相手をねじ伏せようとする強い意志がうかがえた。

右手で左手の甲を強く握って隠す仕草が見受けられ、退場時足早に去る時には顔、特に口元に手を当てた。

嘘をついている。首相の仕草がそれを物語っていた。

彼女は何か隠している。もう少し詳しく調べた方がいいかもしれない・・・。

モカは一旦映像を切り、PC画面にルーキー達にこっそり付けた発信器の受信画面に切り替えた。

3人はまだ発信器に気付いてないらしく、議事堂内でウロウロしている様子がPC画面地図上に映し出された。

このチームでは諜報機器を取付けられた方がマヌケ。

ルーキー達はまだまだ修行だ足りないようだ。

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