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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
水の都ティリッヒの陰謀
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議員と醜聞と諜報員と

ラミレス議員は焦っていた。それも、非常に追い詰められていた。

最近やらかした「小さな」不祥事がマスコミにバレたお陰でいろいろと風当たりが強いのだ。

まさか先日のパーティで知り合った雑誌モデルが年齢を偽っているとは思わなかった。未成年とわかっていたなら誘ったりしなかったのに!

モデル本人には金を掴ませ黙らせた。マスコミには「事実無根」と一貫して事実を否定している。

しかし国政を預かる議員たる者、そういう噂が立つこと自体許されない。特に(ワイフ)がいる身では。

ここ3日ほど彼は業務多忙を理由に自宅へ帰っていない。鬼の形相で自分を待ち受ける古女房を思うだけで全身から汗が冷たい噴き出してくる。

爽やかな笑顔で親しく市民と交流しながらも、ラミレス議員は内心、死刑台へ向かう囚人のように怯え戦いていた。


いつも顔を合わせて言葉を交わす健啖な老人ランナーに挨拶しようとした彼は、いきなり右手をがしっと掴まれた。

「良かった、お会いできて!俺を覚えてますか!?」

まだ少年と言っていい年の若者が笑顔で目の前に割り込んできた。

・・・見た事無い顔である。ラミレス議員はチラリと隣のSPに目線を走らせた。

SPがサングラスに仕込まれている高性能のスキャナーで少年の網膜を読み取り、地球連邦政府機関のデータベースに登録された個人情報を検索する。

「戸籍保有。地球・日本国の心臓外科権威ドクター・タッカーのご子息です。」SPが素早く耳打ちしてきた。

次の瞬間、ラミレス議員の笑顔が営業用から本物になった。


お会いできて光栄極まる。そんな笑顔で少年は両手で掴んだラミレス議員の右手をブンブンと振り回した。

「先日はありがとうございました。いや俺、もう感動しちゃって!」

「先日、というと?」

「あ、やっぱり忘れちゃいました? 」

「い、いや~、ははは・・・」ラミレス議員は必死で考えた。・・・俺、何かしたっけ???

「ほら、1週間前の夜ですよ。」

「1週間前の晩?」 モデルの未成年とやらかした夜じゃないか。

「兄ちゃん、何があったね?」 健啖老人ランナーが好奇心に駆られて聞いてきた。

少年はキラキラした目で語り出す。

「俺、実は母親とケンカして家出したんですよ。どこ行こうか迷った時にあの無敵艦隊『メビウス』がティリッヒに来るって聞いてここに来たんです。

でも地球から来るまでで結構金かかって、ホテル代なくて夜の街歩いてたら変な奴らに絡まれちゃって・・・。ネオリッツ・ホテルの裏通りでしたよね?」

高級ブランド店や5つ星ホテルが建ち並ぶティリッヒの目抜き通り・セントラル・ナディア通りにある「ネオリッツ・ホテル」は、未成年モデルと出会ったパーティーがあった会場だ。

「怖くって抵抗してたら騒ぎを聞きつけて助けてくれたんですよ。しかも俺が家出してきたって言ったら、親身になって朝まで話を聞いてくれたんです。

宿泊するホテルまで世話していただいたのに、お礼を言う前に名前も言わずに帰ってしまわれて・・・。

お陰で助かりました。あ、今日は家出じゃないですよ?『メビウス』見たいんで親の許可取ってからまた来ました。母がお礼したいって言ってるんです。是非お名前を教えて下さい!」

ほぉぉ~、と周囲から感嘆の声が上がった。

「いやぁ、さすが我らがラミレス議員さんじゃなぁ。ご立派ご立派!!」

「兄ちゃん、この人な、ティリッヒの改革派議員さんの中じゃ、結構有力な議員さんなんだぞ!」

「えぇ!?そうなんですか!?」少年は驚いた。ラミレス議員の顔をしげしげと見直し少し表情を曇らせる。「あれ?そういえばちょっと違う人、のような・・・?」

「・・・人違い、ですね。」 SPがこそっとつぶやいた。

そしてさりげなく少年の手からラミレス議員の手を解放し引き離そうとした。

その時。

「あぁ、思い出したよ。キミはあの時の・・・いやぁ、奇遇だねぇ!!」

え!!? SP達が一斉に目を丸くして議員を見た。


正気を疑う取り巻き達の目線は痛いが、かまってなどいられない。コレは起死回生のチャンスだ!

どこの誰と間違えたのかは知らないが、相手が名乗っていないのなら都合がいい。あの夜、俺は未成年のモデルなんかとはやらかしてない。この少年の未来のために朝まで語り合っていたんだ!

マスコミにそう信じさせるには、もう少し詳細を合わせる必要がある。

「あれからどうなったか、とても心配していたんだ。ちょっと時間はあるかな?もし良かったら詳しく話を聞かせておくれ♪」

取りあえず、自宅へ連れて行って今の話を(ワイフ)にしてもらおう。

ラミレス議員は少年の肩に親しげに手を掛け、一緒に歩き出す。その顔は死の淵から生還したかと言うくらい、嬉々と輝いていた。


ロディは自分のタブレット端末を確認する。大丈夫。発信器・盗聴機類は正常に動いている。

まったく、後ろ暗いヤツは隙だらけッスね。仕事がやりやすくって有り難いッスよ。ロディはごんぶと眉毛をしかめた。

市民と親しく交流を交す爽やかで実力のある共和国議員。その正体は若い女好きの恐妻家。「やらかした」スキャンダルでビミョーな窮地に立っている。この程度の情報はとっくに入手済みだ。

しかもナムがその道で権威を持つ医者の息子とわかった時の、あの笑顔ときたら!

何も知らない善良な市民達が拍手で見送る中、今にもスキップしそうなほど浮れた議員に連れられて去って行く兄貴分が、肩越しに振り向きにやりと笑った。

そんな彼に、ロディもこっそりサムズアップしてみせる。

あ~あ、知らないッスからね。ナムさん、薬の売人の次に人の差別するヤツ、嫌いなのに。

あの議員、プライベート洗いざらい暴露されちゃうんだろな。ザマミロだけど。

「ターゲットA、諜報開始。Bの追跡に移行します。」

ロディは歩き出しながら、腕時計型通信機に報告した。

目指す方向には立派な造りの「共和国議事堂」がそびえ立っていた。

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