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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
衛星都市マッシモの奇跡
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修羅場の始まりはショッキングピンク

(・・・厄介な客だな。クソ面倒くせぇ。)


そう思ってはいても顔に出さないのがプロというもの。

非常に愛想いい笑顔のまま、「商談」を続ける。


「では極秘案件と言う事ですな?」

『最初からそう言っているだろう!』


卓上モニターに映る痩せぎすの神経質そうな男が、高飛車に返答した。

ますます面倒くさくなった。


「しかしですな。ご依頼内容を鑑みますと非常に危機的状況です。

それこそ 人命 に関わる。しかるべき所にお申し出るのが筋かと存じますがねぇ。」

『それが出来ないから貴様に任すのだ。さっさと言い値を言え!』

「・・・承知しました、承りましょう。」


何を言っても無駄らしい。これ以上の問答は時間の無駄でもある。諦めて引き下がった。

(チッ、偉そうに無茶振りしやがって!

せめて可愛い物言いすりゃぁいいモンを、これだから政治屋の官僚共は・・・。)

不満を堪えてデスクの引出しを開け、一枚のカードを取り出した。

キラキラ光る金色の特殊アクリル樹脂製のカード。それを指先につまみヒラヒラとモニターの男にひけらかす。


「こいつで50枚、前払いでいただきましょう。」

『マネーカード50枚!? おいそれは・・・?!』


モニターの男が蒼白になった。

マネーカードとは、1枚で100万エンの価値がある高額プリペイドカードの総称。

それが50枚ともなると・・・。


「しかるべき所にお申し出ます?」

『・・・いいだろう。』

驚いた事に、今度は相手が条件を呑み引き下がった。

『その代わり、早急に片づけろ!

絶対に公に露見する事なく、だ! わかったな!?』


(アッサリ引き下がりやがった。もっとふっかけりゃ良かったぜ。)

喚く男のだみ声を小気味よく聞き流し、別に立ち上げているPCの画面を確認する。

すぐにマネーカードを発行する特殊銀行から電子メールが届いた。手続き完了の通知だ。今日中に信頼出来る輸送会社がカードを届けてくれるだろう。


「覚えてろよ、AS風情 が・・・!」


相手は通信を切るタイミングを誤った。

忌々しげな呪いの言葉で、無事「商談」は終了した。


(けっ、その「AS」に頼んなきゃならねぇ状況作ったンは、てめぇだろが!

・・・まぁ、ああいう腹黒い客がウチにとっちゃぁ上客なんだがよ。)

いささか気分を害してチェアの背もたれにもたれる。

(とにかくこんな厄介で危ねぇ依頼は「あいつら」に任せるに限る。

うまくいきゃぁもっと儲かるぞ・・・!)

デスク隅に置かれた電話の受話器をとった。

その顔には本物の笑みが浮かんでいた。




『謎解きミステリー!

20年前の動乱最中、忽然と消えた 秘宝 の行方を追え!

今明かされる真相とは!?

今夜9時放送!どうぞご期待下さい!!!』


高層ビルが建ち並ぶビジネス街。

地下鉄道ステーション入口に備え付けられた大型ビジョンが、ハイテンションで今夜の番組を紹介している。

しかし帰路を急ぐサラリーマン達は見向きしない。次々と大型ビジョンの下をくぐり、地下行きのエスカレーターへと吸い込まれていく。


金星星域の人工衛星都市・マッシモ。


そびえ立つビルの間に落ちる夕日は、地球で見るより大きく眩しい。ここは地球人類が宇宙開拓に乗り出した500年前から現存する、最古の植民コロニーの一つだ。

地球連邦政府が特別に自治を許した直轄都市で、人口は約300万。

主な産業は金星地下資源の採掘・売買。それを武器に発展し今では太陽系有数の大都市となった。


そしてこの街でも、煌々と輝く高層ビルの影には薄汚れた裏路地がある。

地球連邦政府特別自治コロニー付補佐官 ネビル・サンダース は、裏路地粗末な雑居ビルの入口から出るなり舌打ちした。

「なんで私がわざわざこんな所にまで出向かねばならんのだ!」

「申し訳ありません、補佐官。先方の要求ですので・・・。」

後から出てきた銀縁眼鏡の秘書が小声で詫びた。

サンダースが直面した「早急にケリを付けなければならない極秘案件」の商談に応じる条件として、先方が付きだしてきたのは「依頼者本人と対峙する事」。

今回のようなTV電話もよし、密会場所を指定するのもよし。

「自分のオフィスまでご足労いただけるンなら、喜んでお迎えいたしますぜ♪」と言われた時には怒りで血圧が跳ね上がった。


「あの男は AS だぞ!

無戸籍のならず者に、何で頭を下げに出向かねばならんのだ!」


秘書の後に続いて雑居ビルから出てきた大柄な男が、わずかに眉を潜めた。




ASとは、無国籍、無戸籍の人々に付けられた忌名である。

開拓有史500年の間に太陽系各地では幾多の戦乱・紛争が多発した。人類史上未曾有と語られる「大戦」が終結したのもまだほんの10年前のことだ。

戦争は難民を生む。戦後の混乱の中、国を失い自らの証明が出来なくなった彼らの多くは、人道支援も得られず闇に飲まれていった。

犯罪に手を染める者、テロ組織を結成し牙を剥く者、裏社会のビジネスに走る者。彼らの生業はその多くが法治国家で「違法」となる。

いつしか彼らは「疎外すべき無国籍者(alienate stateless person)」=「AS」と呼ばれ、蔑まれるようになっていった。

いつの時代でも弱者への差別や偏見は根強い。

それを払拭するのには、まだ相当の時間と努力が必要だった。




現在太陽系に存在する国や自治都市国家は約50万。

その8割が加盟する「地球連邦」の中枢政府官僚たるサンダースを裏路地のいかがわしい通信屋まで足を運ばせた あの男 も無戸籍者(AS)である。

本来なら信用には値しない。自宅のPCでやり取りする気にはどうしてもなれなかった。

だから人目を避けてもぐりの通信屋を利用したのだが、怒りと嫌悪は増すばかり。腸が煮えくり返りそうだった。

しかし、今回の厄介事を あの男 の言う「しかるべき所」に依頼するわけにはいかなかった。

身の破滅が迫っている。手段を選んでなどいられないほどの。


(ふん!考えてみれば便利な男だよ!

公に出来ない厄介なトラブルを裏で請け負う、諜報傭兵部隊 の 司令官 とはな!)


鬱屈した思いを持て余し、サンダースは部下達の誘導で路地の出口へと向かう。


ドン!


「・・・!?」

突然、何かにぶつかった。

前を歩いていた大柄な男。彼のボディガードが急に立ち止まったのだ。

隣では眼鏡の秘書も立ち竦んでいる。

この男は知的な顔立ちの美形。しかしその美貌が一変し、目が大きく見開かれ茫然自失、「カックン」と顎が落っこちた間抜けな顔になっていた。

(何があったって言うんだ???)

サンダースはボディガードを押しのけ、秘書の目線の先を見た。


カックン。


音を立てて、顎が落ちた。




裏路地の目立たない場所に留め置いた、黒塗りの高級車。

サンダース達が乗ってきた車の側で、少年2人が談笑している。

1人はまだ10代半ばのごん太の眉毛の少年。

黒髪の短髪、黒い糸目、少々太り気味だが特におかしい様子はない。

問題はもう1人の方だった。

年は17,8歳位だろう。

殺風景な裏路地でなくとも、異彩を放つ出で立ちだった。


(ショッキングピンクの迷彩柄のジャケット?

その下に青紫のラメが入った黄色と水色のストライプTシャツ??

テラテラ光る玉虫色のスリムパンツに、赤地に緑の水玉模様スニーカー???

あのピンクの帽子はシルクハットか?へしゃげている上、よくみると両サイドに羽がついとるじゃないか!?

・・・なんだ、あの出で立ちは? いったいなんの冗談だ???)


サンダースは顎を落としたまま、絶句した。


初めて投稿します。

少しずつになると思うのですが、

頑張ります!!!

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