第3話 親友と、禁断の魔道具
第3話 親友と禁断の魔道具
さて、と。
レベルアップは少々計算外だったけど、とりあえず討伐した魔物を売らなくちゃね。
俺はギルドに入ると、戦利品買取のカウンターに向かった。
窓口は磨りガラスになっていて、受付の奥がどうなっているかは見えないようになっている。
処理中の魔物を別の冒険者が見て「あれ狩ったの誰だ……?」とか噂にならないようにするためだね。
「魔物の買取お願いしまーす」
「ギルドカードはお持ちでしょうか?」
「いいえ」
「先に冒険者登録を済ませてからこちらに来ることも可能ですがそうしますか?」
「いいえ」
「ギルドカードをお持ちでない場合、魔物の売値は通常の1/3となりますが本当によろしいですか?」
「はい、それで大丈夫です」
ギルドカードというのは冒険者が持つ会員証見たいなもので、冒険者登録の際手に入れれるんだ。
名前や冒険者ランクだけでなく、討伐記録、依頼達成記録、依頼達成率などのランク上下の判断材料や預金残高などの情報も載っている重要なカードだ。
本人以外には使えないセキュリティシステムもしっかりしてるよ。
けど、今はまだそれを作る訳にはいかない。
50階層の魔物は駆け出しの冒険者が売っていい代物じゃないからだ。
その点、ゲストとして売れば売値こそ大幅に下がるものの、余計な詮索は一切されない。
どんなに怪しくても、ギルドは冒険者以外の出来事に関し一切責任を持たないからね。
「それでは、手前の魔道具、収納共有器に手を置き、売りたい魔物を共有してください」
収納共有器は、ペアになってる魔道具に触れている者同士で収納魔法の中身を共有できる魔道具だ。
これと磨りガラスの窓口のお陰で、ギルドの待合所にいる冒険者たちには誰が何を売っているのか一切分からない仕組みが出来上がってるのさ。
「H6N6型のグリズリーが5体……ですか。規則上詮索は出来ませんが、とんでもない素材を持ち込まれましたね。何故か傷跡が聖龍っぽいのも気になりますが……あ、いえ、何でもございません。買取価格は金貨3枚と銀貨34枚となります。収納魔法で共有致しましたのでお受け取りください」
受付の人、めっちゃ気になってる。
まあ事情を話したらえらい目に遭いそうだから言わないけどね。
しかし、金貨3枚と銀貨34枚ってことは、正規の売値だと1体あたり金貨2枚だったってことか。冒険者、行くとこまで行けば凄く儲かる職業なんだな……
☆ ☆ ☆
ギルドを出た俺は、服屋、魔法関連のお店、宿屋の順に回って寝床に着いた。
まず、服屋で買ったのはニット帽だ。
確かに、「透明化」の魔法さえ使っていれば銀髪の姿の俺は誰にも見られることは無い。
けど、それに頼りきりだとソロでしか冒険できなくなってしまう。
透明化を見破れる「完全気配探知」を持つ銀髪族なら話は別だけど、黒髪族の冒険者にとってパーティーメンバーが見えないのは致命的だからね。(ちなみに俺は黒髪の状態でも「完全気配探知」は使える。効果範囲は普通の「気配探知」の方が広いから親からもらった経典はいずれ使うけど。)
だから、銀髪を隠せるニット帽が必要だったんだ。
銀貨4枚で買えたよ。
魔法関連のお店で買ったのは回復と火魔法の経典だ。
「聖龍」はどの属性の魔法よりもよく効くから最強の魔法と思われがちなんだけど、実はところどころ落とし穴があるんだ。
よく言われるのが、「H9N9型の魔物には聖龍が効かない」ということ。
例えば、53階層の「H9N9型のゴブリン」は聖龍を放つと3倍返しにしてくるそうだ。
その代わりH9N9型のゴブリンは火魔法にめっぽう弱いから、最初に覚える攻撃魔法は火属性にしたんだ。
回復魔法の方は、まあ単に親に言われた通りにしただけだね。
俺自身は回復魔法が必要になる局面に陥らないような冒険しかしないつもりだけど、これを覚えておけば誰かを助けられるかもしれないからね。
経典2つ合わせて金貨4枚して今日の収支がマイナスになっちゃうのはちょっと悔しいけど、こればっかりはしょうがないな。
宿は、端数の銀貨30枚で泊まれるだけ泊まることにした。
朝晩食事付きで8日泊まれるんだって。
持ち合わせの経典を全て使用して3種の魔法を覚え、俺は寝床についた。
☆ ☆ ☆
「フェンニル様。これで冒険者登録は終了となります。お疲れ様でした」
次の朝、俺は髪を染めて帽子を被ってからギルドへ行き、冒険者登録を済ませた。
冒険者登録をすませると、まずはざっとギルド内全体を見渡す。
そして、視線誘導を使いながらパーティーメンバー候補を探し始めた。
視線誘導は魔法ではなく、手品とかで使われる技術に過ぎない。
これを使うのは、新人冒険者に絡みたがるような野蛮な奴らの視線を外し続けるためだ。
尤も、それだけが目的なら「透明化」の魔法の方が手っ取り早いんだけど……今の俺はパーティーメンバー候補に目星をつけてもいるし、透明人間が話しかける訳にはいかないからね。
「おい、そこの新人さんよぉ。さっき俺らのこと睨んでただろ?」
……ほら、俺が「こいつの意識に捉えられるとまずいぞ」と目星をつけていた男が新人冒険者に絡み始めたよ。
「降りかかる火の粉は払うべきだ」って考える人は少なくないけど、どう考えたって火の粉を全部避けられるならそれに越したことは無いんだよね。
さてと、誰か手頃な冒険者はいないかな……
……!? あれは!!
俺はベンチに佇む1人の男を見つけると、そいつのもとに歩いていった。
まさか、あいつが同じ街にいるとはな。
「よっ、久しぶりじゃないか。ヴァクトさん」
「……うわっ! びっくりした。……ってフェンニルか。……フェンニルじゃないか! 探したぞ。一体どこから出てきたんだ?」
「どこから出てきたも何も、ヴァクトさんが俺の視線誘導を見抜けた試しがないだろ?」
「……ああ、そうだよな」
ヴァクトさんは俺と同じ街出身の親友で、俺より1年半前くらいに成人した。
そんなに真面目なタイプじゃないから……今はLv.8くらいかな?
ちなみに親友とは言ったけど、髪の秘密は流石に言ってない。
結構おっちょこちょいなところがあるので、圧倒的な力を与えると却って酷い目に遭いそうだと思ったからだ。
「ヴァクトさん今レベルいくつ?」
「10だよ」
「あれ、思ったより真面目にレベル上げしてるんだね」
「最初はそうでもなかったんだけどな。餞別が尽き始めてから、このままじゃまずいと思って結構頑張ったぜ」
「なーるほど。そりゃそうか」
「それよりさ、俺パリピ持ってんだけど、使わね?」
「……パリピ?」
分かち合いの指輪、通称パリピ。
パーティーメンバーが魔物を討伐した時、討伐者本人だけじゃなくパーティーメンバーにも経験値が入るという特殊な魔道具だ。
具体的には、例えば俺とヴァクトさんでパーティーを設定し、俺が魔物を倒した場合ヴァクトさんも俺の1/4の経験値を手に入れることができる。もちろん、俺が入手する経験値は変わらずだ。
この魔道具はパーティーメンバーの取得経験値を底上げするのが本来の使い方だが、場合によっては貴族がSランク冒険者とかを雇って他力本願なレベル上げをするのに使ったりもされる。
……ヴァクトさんにも似たような経験をさせてあげるとするか。
「オッケー。パリピ使おうぜ」
指輪をはめ、その手でヴァクトさんと握手する。
パーティーの設定はこれで完了だ。
「微力ながら、俺がフェンニルのレベル上げを手伝ってやるぜ!」
残念ながら、それは真逆だ。
「ヴァクトさん。今日一日だけでいいから、別々にダンジョン攻略しない?」
「はっはーん。10階層の魔物の経験値が欲しいんだな?……もちろんいいぜ、そのために来たようなもんだからな。でもたまには一緒に冒険させろよ?」
「分かってるって。ありがとう」
そう言い残すと、俺は「透明化」を使用して銀髪族だけが使える「瞬間移動」で50層に移動した。
ちなみに昨日「瞬間移動」を使わなかったのは、これが「一度行ったところならどこでも行ける」という魔法だからだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
〔ヴァクト視点〕
「さーてと、10階層の安全部屋にも着いた事だしちょっとフェンニルの様子でも見るとするか」
今朝の時点で、EXPは14920/15000だったのを確認している。もしフェンニルが今の間に経験値を320稼いでいればレベルアップでき……流石にそれはないか。
「フェンニルには悪いけど、しばらくステータス画面の変化を楽しむとするよ。ステータスオープン」
「さてさて経験値の方は……」
……
……
………………。
「……うん!?」
EXP値が明らかにおかしい。
俺が10階層に到達するまでのわずかな時間で、EXPが3750も溜まっている。
これ、フェンニルは既に15000も経験値を稼いだ計算になるぞ。
「あいつ……。一体何をやったらこんな芸当が可能なんだ?」
あ、驚いてる間にEXPが19295/15000になった。
一回の入手経験値が625。フェンニル本人にとっては2500。
これは、フェンニルが討伐しているのが50層か51層の魔物であることを意味する。
「いや駆け出しで50層て、銀髪族かよあいつは!?」
当たらずと雖も遠からぬツッコミを入れてしまうヴァクトであった。
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