大きくなりました
無事にクレアを救出してジョーカーを倒した後、俺は聖霊の事について彼女に色々と質問責めにあっていた。
この洞窟内ではまだ魔物も多く潜んでいるので、落ち着いて話をする意味も込めて一旦村に戻る事となる。
いい機会だから、店主と一緒に聖霊の実演実証をすれば色々と信じてもらえるだろう。
そんな事を思いながら敵から身を隠しつつ、何事もなくショショ洞窟を抜け出した。
暗がりから外に出ると日差しが高い位置で照り付けている。
朝一にこの洞窟に入り随分と時間が経った気がしたが、時は意外と進んでいない……。
……はっ!?
俺は彼女から目を逸らす。
そういえば……クレアの装備品はすべて破壊されていて、今もボロボロのインナーとショーツだけの姿だった。
スタイルは抜群だし、出るとこは出ていて引っ込むところは引っ込んでいる。
かなり目のやり場に困るんだが……。
目を逸らしつつチラチラと見ている俺に気が付いたのか、彼女は目を細めながらボソッと呟いた。
「変態……。」
「いやいや、不可抗力だろ!!」
「ふんっ……どうだか……。」
彼女はこちらにそっぽを向いた状態で、少しだけ足早になり俺の前へと出た。
いやいや……前に出られる方が、目のやり場に困るって!
俺は咄嗟に自分が着ていた村人の服Cを脱ぐと、彼女の傍まで駆け寄って片手で目の前に突き出した。
「ほらよ!」
「え?何?―――汗臭っ!」
そういえば昨日悪夢を見たせいで、全身汗まみれになっていた事を思い出す。
他の代用品も持っていないので、仕方ない部分もあるのだが……。
「嫌なら無理に着なくても大丈夫だぞ。ただ……その格好のまま街には入りたくないだろ?」
「べ、別に着ないとは言ってない!―――あ、ありがとう…。」
なんだか面と向かってお礼を言われるのも、少し調子が狂う気がするな……。
彼女はすぐに俺が渡した服に袖を通す。
少しサイズが大きい為か、服の長さが丁度お尻が隠れるまで掛かっておりワンピース風になっている。
なんだろうか……隠せるようにと渡した服だったが、見えそうで見えない感があるせいで、ばっちり見えていた時よりも際立ってエロい……。
彼女は着替えが終わった直後に、長すぎて手が出せないぶかぶかの袖をプラプラとさせながら、襟元を持ってクンクンと臭いを嗅いでいた。
「やっぱり、臭いわ……。」
「も、文句言うなら返せ!」
彼女は俺が怒る姿を楽しむかのように、舌をちょっぴり出してこちらをあざ笑った。
そのままくるりと後ろを向き、村の方向へと上機嫌で歩き出す。
やはり似ている……。
一瞬だけアリシアと過ごした日々が蘇った気がした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
村は洞窟からそう遠くない場所に位置している為、あっさりと村に到着した。
「おや?あんた、見かけない顔だね。」
村の入り口付近の畑で作業していたおばちゃんが、クレアに愛想よく話しかける。
そして、俺には睨みを効かせる。
「あっ、こんにちわ。この辺りの魔物の討伐関係でお邪魔させて貰ってます。」
「あらまぁ……それは心強いわ。でも無理はしないようにね。何も無いところだけどファスト村でゆっくりしていけばいいわよ。」
「はい、そうさせてもらいます。」
クレアは村人の優しい言葉に笑顔で応対した。
その後に村人は、もう一度俺を睨みつける。
俺はその睨みを受け流して気にも止めないようにしていた。
無言のままクレアを置いていく気で前へと進み出す。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
クレアが歩み出したと同時に、村人は彼女の耳元で内緒話をするように話しかけていた。
「……あんた、あの問題児とはどう言う関係だい?悪いことは言わないから早めに縁を切らないと不幸になるわよ……。」
おい、全部聞こえてるぞ……。
いつもの事なので、別にいいのだがな……。
俺は無言のまま、もう一段階歩くスピードを早めた。
「え?ちょ、ちょっと!待ってってば!おばちゃん、ごめんなさい!」
クレアは手と手を合わせて、おばちゃんに謝りながら急ぎ足で俺の後を追った。
俺はそのまま酒場の近くまで来ると、少し遅れたタイミングで彼女が隣まで追いつく。
「だから、待ってっていってるじゃない……。」
「ついたぞ。」
俺は彼女に一言かけると、酒場のドアをゆっくりと開いた。
扉が開いたと同時に、中から異様な殺気が発せられる。
おい!まさか!?
慌てて店内へと入ると、店主は俺が起きた時と同じ様に机で堂々と本を読んでいる。
荒らされている痕跡も、何か起こったような形跡も、何も見受けられなかった。
ただ一つ言えることは異様な殺気だけが、この空間を支配している事は間違いない……。
店主はこちらに気付き、そっと本を閉じながらその場に立つ。
「……本当に帰ってきやがった……。」
店主はかなり驚いた顔をしていた。
安否は心配してくれていたようだったが、本当に帰ってくるとは思っていなかったのだろう。
今は店主の反応は、どうでもよい事だ。
まずはこの空間の殺気について調べなくては……。
「マスター!この部屋へ他に誰か来なかったか?」
「ん?いや、誰も来ていないが?」
殺気は更に濃さを増していく。
少し遅れた感じで、クレアが店の中へ入ってきた。
その瞬間に空気の流れが変わった気がした。
やばい……攻撃が来る!
俺は彼女の剣を咄嗟に奪い取り、頭上で両手を使って身構える。
すると……金属と金属の重なる音が店内へと響き渡った。
「ちょ、なに?」
「俺にもわからん!!!」
店主もクレアも予想外の事態に、目が点になっている。
咄嗟の判断だった為、増加系魔法を使用していなかったが、思いのほか攻撃は軽かった。
敵の武器はナイフ系で間違いない。
的確に敵を分析しつつ、俺は力を入れて敵の攻撃を跳ね飛ばした。
敵は後ろに飛ばされていったが、まるで猫のような身のこなしで後方宙返り一回転……そのまま綺麗な着地を決めて見せる。
俺は次の攻撃に備えて、剣を目の前で構えつつ敵を凝視した。
まだ続きそうだったこの戦いは、お互いの目が合った事により、あっけなく終焉を迎える事となる……。
「あっ……。」
俺とクレアと敵の3人の声が、見事に一致した。
俺はこの子の事を知っている。
反応から察するに……どうやらクレアもこの子の事を知っている様子だった。
その子はナイフの構えを解くと、気が抜けたように喋りだす。
「トモキ兄ちゃんじゃん……。」