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バッドエンドのその先に  作者: つよけん
序章「リスタート」
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ショショ洞窟

「敵襲ダァ!」


 洞窟内のゴブリン達が、慌てふためき騒ぎ立てている。

 その原因は俺がショショ洞窟へ上手く潜入出来たせいであろう。

 騒ぎ立てられているのに、上手く潜入出来ていないのでは?と思う人も多いだろうが、あえて敵を撹乱させる為の爪痕を残した作戦である。

 ちなみに自分の存在は、バレないように擬態の様な工夫しているので安心感は抜群だ。

 別に正面突破しても洞窟を攻略する事は安易に可能だと思うが、昨日は油断してやられてしまった事もあるので慎重策を取って行動をしている。

 それにしても随分と指揮力の高い敵だな。

 ここまで多数のゴブリンがちゃんと統率を取れた動きをしているのも、ジョーカーがよほど優れたリーダーシップを発揮している事に敵ながら天晴れと賞賛せざるおえない……。

 自分が知っているジョーカーとは、また異なったジョーカーなのかもしれないな……。


「おっと……。そろそろ敵と行動を共にしないと逆に怪しまれるな」


 俺は慌てふためくゴブリン達の合間を縫って、状況に溶けこみながら奴らと行動を共にする。

 想定していた通りで洞窟内は入り組んだ地形になっているが、よくよく見ると単純な作りで割と覚えやすくなっていた。

 混乱に乗じて洞窟内を探索するべく、俺は小走りで駆けていく。

 最深部近くまで辿り着くと、その更に奥の別れ道の一方から声が反響して聞こえてきた。


「言うわけないでしょ……」


 間違いない……この声の主はクレアの声だ。

 まだ生きていた事を確認出来た事で、心配の糸が一つ解けていった。


「往生際が悪い奴め―――まあ良い……今はまだ吐かなくてもすぐに完成する自白剤を使えば勝手に喋るだろう……。それまでに死にたくなかったら、いつでも回答を待っているぞ」


 ジョーカーの声もその後に聞こえてきた。

 やはり、クレアがもつ何らかの情報が入手したいらしい。

 それにしても、情報を引き出す為に自白剤を使うとは恐ろしい事を考えるやつだ。

 もしも、自白剤を投与されていたならば、情報を引き出された後に副作用で幻覚や記憶障害、挙句の果てには死ぬ事もある恐ろしい薬。

 そんな物を生み出してしまった自分も、恐ろしい気持ちになってしまう。

 何にせよ……まだ彼女は無事なのだ。

 早く助けてあげなければ……。

 俺は声がする別れ道の手前まで隙を見計らい足を進め、岩陰へとゆっくりと隠れて奥の様子を確認した。


「……案外、いい体付きをしてるな……。」


 俺の本音がぽろっと口から飛び出した。

 彼女の鎧は剥がされており、ボロボロになった見えそうで見えない黒いレオタード姿のまま鎖に吊るされている。

 少し痩せ気味の体つきでモデル体型だったので、現世で写真集を売り出せばぼろ儲け出来そうだ。っと冗談はさておき……。

 彼女が鎖に繋がれてもがく姿は、あの時の頭痛の予兆と完全一致した瞬間だった。

 予想が外れてくれれば良かったのにと、心の中で思う。

 暗くてよく見えなかったが、生々しい傷があるように思える。

 拷問跡だろうか。

 俺の不覚のせいで痛い思いをさせてしまい、本当に申し訳ない……。


「何事だ」


 一瞬、ジョーカーが俺の存在に気付いたのかとヒヤヒヤしたが、どうやら俺が起こした騒動の事に気づいたらしく、近くにいたゴブリンに鋭い眼光を浴びせていた。


「外カラ、侵入者、対処中、デス」


 睨まれた奴は相変わらずの片言を使い、額に汗を流しながら必死に説明している。

 ゴブリンが話し終えた瞬間……奴の頭と胴体が分離して、重力に導かれるまま地に落ちていった。

 なんだか昨日も同じ光景を別の形で見た気もするな……。


「そうか……無能な奴らは、本当に無能のままだな……」


 そう言い残してジョーカーは、ゆっくりと俺が来た道を戻って行く。

 俺は奴の姿が見えなくなるまで、固唾を飲んで見守った。

 どうやら俺の存在には気付かれていない……。

 チャンス到来だ!

 すぐにクレアの近くまで小走りでかけていく。


「ひぃっ!」


 クレアは俺の顔を見るなり怯えた様子で目をつぶる。

 俺はそのまま彼女の目の前に立ち、小声で囁いた。


「大丈夫か?」

「大丈夫なわけないでしょ!」


 おい……そんな大きな声を出されたら、見張りに気付かれるだろ!


「オイ!キサマ!」


 流石に気が付かれたか!?

 別れ道付近で見張りをしていたゴブリンが話しかけてくる。


「持チ場、戻レ!イクラ、魅力的、デモ、手ヲ、出セバ、ジョーカー様、ニ、殺サレル」


 そういう事か……。

 途中まで堂々と洞窟へ潜入していた事をすっかりと忘れていた。

 緊張感をもってクレアとジョーカーの様子を伺っていたのだ、記憶が吹っ飛ぶ事も人間だれしもある事だ……。

 見張りは2匹か、邪魔になりそうだから先に始末しておこう……。

 俺は背中に備わった棍棒を手に持って呟いた。


『詠唱省略。テラパワー。テラディフェンス。テラスピード』


 筋力系強化の上級魔法3連発を一気に自分にかける。


「武器ヲ、持ツ、ドウシタ?」

「お前達は、不運、ココで、終わりだ!」


 俺はゴブリンの片言を真似しながら、超スピードで見張りの背後に立つ。


「え?なんで!?」


 クレアがその光景を目にして、ありえない顔をしていた。

 それもそのはずだ。

 だって彼女の目には、下級ゴブリンが上級魔法を使っているように見えるのだから。

 仮に魔法が使えたとしても低級魔法をかろうじて扱えるゴブリンウィザードぐらいしか思い当たらないな。

 まさかゴブリンの正体が俺だと言う事もこの分だと望み薄であろう。

 俺が奴らの背後に回った理由……入口付近で直ぐに倒す事も出来たが、殺した後に見つかる時間を出来るだけ伸ばしたい事を考慮したものだ。

 そのまま見張り達を奥の彼女が吊るされてる場所の手前まで蹴り飛ばす。

 よろめきながら奥へ入っていった見張り達は、何が起こったか分からずにこちらに振り向いた。

 持った棍棒を片手に握りしめて、奴らの首元に半円を描くように一振りした。

 豪快に通過していく棍棒はゴブリンの首を殴打で吹っ飛ばすと予想されるが……。

 しかし、奴らの首元には棍棒ではありえない切り口が首に刻まれ、先ほどジョーカーが切り落としたゴブリン同様に重力に導かれるまま首が落ちた。


「……同士討ち?」


 彼女にはそう見えても仕方がないだろう。

 すこしからかってやろうと思ったが、この状況で不謹慎だなと良心が働く。

 酔ってたら確実にからかっていただろうけど。

 俺はもう一度、クレアに向かって歩み出す。


『ミストイリュージョン解除』


 その言葉を言った直後、俺の周りには水蒸気の白い霧が発生していて覆い包まれる。

 ミストイリュージョンとは水系上級魔法である。

 変身する対象物がないと成立しないのだが、どんな人や物・モンスターなどのあらゆる物体を霧の力を借りて体へとまとわり付かせ、形状を変える事により対象物へ変身する事が可能になる魔法。

 潜入捜査には、持ってこいの魔法である。

 霧が徐々に晴れていき、ゴブリンの姿は完全に自分の元の姿へと変わっていた。


「助けに来たぞ」


 俺の姿を見て、彼女は言葉を失っていた。

 すぐさま持っていた棍棒のまとわり付いた水蒸気を払い除けて、彼女の剣をあらわにする。

 その剣を軽く一振りして、彼女が吊るされていた鎖を切断した。

 彼女はそのまま落下し、俺は優しく抱きかかえる。

 柔肌から熱が伝わってくる。


「あ、ありがとう……」

「俺のせいで辛い思いさせて悪かったな」


 彼女は薄っすら涙を浮かべていたが、恥ずかしそうにくしゃくしゃっと手で涙を拭っている。

 強気な発言と強がりな眼光が、俺へ強く突き刺さる。


「な、なんで助けに来たのよ!怪我は大丈夫なの?」

「お、俺は大丈夫だが……」

「あれだけ大怪我を負ったのに、回復魔法を使っても2~3日はかかるはずよ!」


 それは中級魔法までの話だな。

 上級魔法ならばほぼ完治する事ができるだろう。神級なら見ての通り、完治している。

 彼女は俺の胸を音がするぐらい強く殴った。


「痛い……」

「あ、あれ?」


 俺の反応があまりにも鈍いので困惑をしている様子。

 胸をまさぐられて、傷が完全に治っている事を念入りに確認している。


「あ、あれ?あれ?どうして?」

「お、おい……さすがに胸を触られてると刺激が強いんだが……。」


 くすぐったいと気持ちいの中間ぐらいだろうか……。

 ちょっと癖になりそう……。

 彼女は予想以上に俺の胸をまさぐっていた事に、正気を取り戻し気が付いた。

 頬を赤く染めて、恥ずかしそうに俯く。


「あっ、ごめん……」

「それより……お前の方が酷い怪我な気がするんだが……」


 俺は彼女の素肌をマジマジと見つめる。

 彼女は自分の姿を見て、とんでもない姿でいる事に気が付き、恥ずかしさが更に上昇していた。


「バカっ!変態っ!どこ見てるのよ!」


バシーン!

 俺の顔がもげるかと思うぐらい、彼女の平手打ちが俺の頬にめり込んだ。

 完全に不可抗力だと思うのだが、これぐらい許してくれよ。

 それにしても彼女の体に違和感を覚える。

 確かにスタイルがいいとか、いやらしい格好をしているとか、注目すべき箇所は多々あるのだが。

 先ほどは遠目でしか確認出来ていなかった傷の正体だ。

 どうやら拷問を受けた後の生々しい傷跡は、何処を探しても見当たらなかった。

 じゃぁこの傷はなんなだ……。

 彼女の全身には、無数の傷跡が跡となって入っているのである。


「見た……よね……」

「見た……」

「……変態……」


 自分から聞いておいて、理不尽すぎるだろ。

 だけど……今回の彼女の言い方は、先程感情的になって引っ叩かれた時よりも、悲しげに聞こえてくる。

 彼女は一呼吸置いた後に、重そうな口調で語りだした。


「私はね……。2年前の半壊の中で数少ない生存者の1人だったのよ……」


 俺の判断ミスから発生した過ちの被害者だったのか……。

 2年前に起こったこの異世界での大事件。

 俺の悪夢の元凶が、この事件である。

 丸い惑星のほぼ半分が大爆発を起こして消し飛んだ忌まわしき出来事。

 無論、そこにいた全ての人や物が、消しとばされて何もない大地と化した。

 俺と元仲間2人以外は、生き残ってる者は居ないと思っていたが、奇跡とは起こりうるものなのだな……。


「出会ったばかりなのに、なぜか貴方には喋ってもいい気がして……」


 俺は少し混乱する。

 やはりこの子はアリシアなんじゃないかと……。

 一瞬の静寂が起こった後に、彼女は何か語ろうとしていた……。

 しかし、彼女が言葉を言いかけた途中で、空間に違和感が生じる。

 俺は彼女を急に宙へと放り投げた。

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