どうしてこうなった?
「……ぐっ……ぐふぁっ……」
俺は寝ている思考の中、咳き込みながら段々と意識を戻り始めている感覚に陥る。
完全に覚醒する前段階にて朦朧と頭を働かせた。
いつも道理の感覚ならば悪夢を見ていて寝起きは最悪なはずなのだが、思い返すと気分を害する夢を見ていない事実に全身で安心感を覚えて力が抜ける。
それに伴い徐々に自分の意思がまとまりだして少しだが体も動かせるようになった。
そして、自分が現在の置かれている状況も少しずつだが理解していく。
何故だろうか……体感温度はとても肌寒いと感じた。
自分は多少なりとも温度に耐性がついているので、普通の人間だと相当外気温は寒いのではなかろうか。
それにしても何故寒い?何で寒いんだろうか?
俺は思考の回転数を加速させて徐々に考えをハッキリさせていった。
魔法?そうか!最後にフロウを召喚した際に、約半径50m程をすべて凍らせた気がする。
でも何故?何故凍らせた?
少しずつ回答を導き出して、1つの回答へと結びついた瞬間。
俺は眠っていた思考を一気にフル稼働させて、その場で叫びと共に飛び起きた。
「クレア!!!」
もちろん店主の事も心配しているが、名前を呼ぶなら彼女だなとどうでもよい事を思いながら、炎に包まれて崩壊したボロボロの酒場へと駆け寄った。
その際に胸の中で違和感をはっきりと感じ取る。
そういえば、特徴的な顔立ちの男に心臓をえぐられてたっけか……。
そう思い手を胸元にへ添えると。
「冷たっ!」
思わずその場で立ち止まり視線を胸元へ下ろすと、俺の口からは自然と声が漏れた。
「なんだこれ」
胸元をすべて氷で覆いつくされて、傷口が強制的に塞がっていたのだ。
それだけじゃない。完全停止していたはずの心臓からは微弱な魔力と鼓動を感じられる。
手首を掴みひと鼓動ずつ脈拍を確認してみた。
なんだか信じられないようだが、血液に熱を感じないと言うか、鼓動ごとに冷たい血液が全身を駆け回っている気がする。通りで異常なまでに寒かったわけだ。
そもそも不死身の体を持つ俺でも、完全停止している心臓が回復して再始動するには最低でも1週間はかかるであろう。その間は当然のように眠っているはずだ。
しかし正確には判断できないが、まだ溶け切っていない氷や解けた氷の水のはけ具合などを把握すると、恐らくだが昨日起こった出来事だと推測ができる。
まず、日数が立っているのであれば、恐らくこの場所にはいないだろうがな。
兎にも角にも1日で目が覚めた事は非常にありがたいぞ。
「違う!そんな事よりもだ!」
俺は心臓の事に気を取られていて、クレア達の安否をおろそかにしてしまっていた。
今は自分の事よりそっちの方が優先だ!
すぐさま崩壊した酒場の元へ駆け寄り、自分に肉体強化魔法であるテラパワーを付与した。
「どこだ!」
崩壊した瓦礫をいとも簡単に押しのけていく。
必死の想いを乗せて掻き分けていくこと数秒間、違和感のある空間が目の前に現れた。
「ここか!」
一番大きな瓦礫を軽々と持ち上げると、そこにはクレアと店主が重なるようにして倒れている。
早速2人の安否を確認するために、俺は2人の首元の動脈に指をかざした。
ドクンっ……ドクンっ……。
「よ、よかった……2人とも生きてる」
2人の心臓は正常に機能していて、呼吸の乱れもなく安定している。
ひとまず一安心と言った所か。
恐らくだがあの業火の中でクレアが機転を利かせて倒壊してくる瓦礫を上手く使い、ゼログラビティで空間を作ったと考えられる。
瓦礫を除去していた時の違和感ある空間の正体がそれに違いない。
何はともあれこの状態のまま2人を放置するのもダメだろう。
俺は2人を1人ずつ抱えて、安全な場所へ移動させる事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここならだれも立ち寄らないだろう……」
流石にあの場所は目立って仕方がないのだが、どうやら日が昇り始めた早朝だったらしく、お陰で村人と遭遇することなく自分の隠れ家であるチュートリアルマップまで難なく辿り着いた。
昨日のボヤ騒ぎの後に氷柱がそびえ立ち恐らくその後すぐに爆発が起こったであろう場所だった為、野次馬が数人いるかとも思ったが朝早かった事もあってか誰も居なくて助かった。
そういえば、あわよくば特徴的な顔立ちの男も一緒に氷結させる狙いでアブソリュートゼロを発動したが、辺りにはそれらしき存在は確認できていない。
少しだけでも油断してくれればと思ったのだがな。
「ん……んんっ……」
そんな事を考えていると、クレアが吐息を漏らしながら目を徐々に開いている。
「お、気が付いたか?」
俺はクレアの傍まで近寄ると、手を差し伸べる。
彼女はまだ朦朧としているのか、俺の手に捕まろうとはしなかった。
それにしてもいつ見ても目のやり場に困るメイド服だよな。
一応念のために村人の服Aを上にかぶせているが、起きる動作の過程ではだけ落ちそうになっているのが、いやらしさを上乗せしている気がする。
俺はそんな気はないよと目を逸らし、恥ずかしそうに彼女にもう一度手を強く差し伸べる。
「ほ、ほえ?」
おいおい……寝ぼけてるのか?彼女らしからぬ声が耳に入ってきた。
しばらくすると、俺の手をギュッと握る感触が伝わってくる。
寝ぼけているようだが、ちゃんと起きようとする意思はあるようだ。
そう思い俺は彼女の手を強く引いて、上体を起こそうと試みたが……。
「お、おい?ちょ、ちょっとまて!」
彼女も同様に力を入れて俺の体を引き寄せた。
テラパワーが付与されている状態なのに、彼女のこのパワーは何なんだ?
俺は体制を崩されてそのまま彼女へ覆いかぶさるように倒れ込む。
それと同時に彼女は俺の体を全身を使い羽交い絞めにして。
そして……。
「むぐっ!」
俺は意味が分からないまま、強制的に唇を奪われたのである。




