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バッドエンドのその先に  作者: つよけん
第2章「伝説の剣の行方」
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同じ魔法2

 俺は奴の懐に入ってすぐに拳を下から上へと振りぬいた。

 彼の顎に自分の拳が痛々しくのめり込んでいる感触がヒシヒシとリアルに伝わってくる。


「ぐっ……はぁっ!!」


 俺の拳が顎からゆっくりと離れていき、奴は声を上げながら飛び上がり後方へと吹っ飛んでいった。

 ここまで爽快ないいパンチを顎に入れたのは、生まれて初めてな気がするな。

 それにしてもいいパンチを決めてしまったぜ。

 そんな事を思っていると奴はそのまま地面に転がる様にして倒れ込んだ。


「意外とあっさりとケリがついてしまったな」


 敵と少しの間しか戦闘をしていなかったが、剣さばきも一流、暗殺術も恐らく一級品、おまけに時を止められる魔法まで使えるとなると、もう少し苦戦を強いられれるかとも思ったのだがな。

 俺は慎重になりながら、しばらく倒れ込んで動かなくなっている奴を確認する。


「気を失っているだけか」


 念のために時を戻した際に、何かで縛っておかないとな。逃げられても面倒だしな。

 恐らくナナと門左衛門の件にも深く関わっているはずだ……ちゃんと追及しないと。

 それにしてもコイツの顔を見るたびに、顔に特徴がありすぎて笑いが込み上げてくる。

 マジマジと見ると本当にひどい顔だ。そう言ってる自分が酷い奴なのかもしれないが。

 もしもサンプルのネタ要員としてコイツの様なキャラデザインが上がっていたとしたら、当然と言うべきかこんな顔をした奴は絶対に採用しないであろう。この世界のイメージが崩壊してしまいそうだ。

 確かにインパクトは大事だが世界観が関わってくるとなると、一周回って無しの方向に流れるであろう。

 だけど、今は目の前にいるのも現実だ。

 最近だとこういうあり得ない異世界事情にも、創造者としてそろそろ受け入れる事が出来ているらしい。

 自分が知らない設定でも、ここまで頻繁に出現すれば慣れると言うものだ。

 本当に自分が作った世界とは根本的に変わってしまったのだと、再認識させられた気がする。

 さてと……魔力量には自信があると言えど、時を止めている時間にも限度がある。

 そう思うと俺は奴に背を向けて、燃えているがそこで止まっている店に目を向けた。


「もう少しちゃんと確認した方がいいですよ?」


 突然、後ろから刺すような殺気と声が自分の元へ伝わってくる。

 やばい!と思った時にはもう、胸元をショートソードで貫かれていた。


「ぐはっ!」


 背中から見事に心臓をえぐるように通り、肋骨まで綺麗に貫かれている。

 なんだかジョーカーと戦ったていた時の様なデジャブを感じてしまう。あれも油断からの悲劇だった。

 2年も戦闘から離れると洞察力や感覚はすべて鈍っているのは分かっている。

 薄々は気付いていた事だが、ここまで酷い物だとは思っていなかった。

 流石に門左衛門と戦った間までの時間では、完全に感覚は戻る訳がないよな……。

 痛いほど痛感した。いや、本当に痛いぞ……。

 くそ!意識が遠のいていく気がする。

 俺は痛みで気を失いそうになったが、目の前のクレアと店主の顔を思い浮かべて踏みとどまる。


「が、がはっ!」


 俺は目を見開いて口から大量の血を吐きながら、無理矢理に体を前進させて、彼の突き刺した剣を強引に引っこ抜く。

 抜いた箇所から大量の血液が噴出して、よろよろとよろめきながら敵の方向へと振り返った。


「おやおや?自ら死に近づきますか?」

「がっ、がはっ!!」


 奴の言葉に俺は反応して喋ろうとしてが、大量の血を口からもう一度噴射した。

 冷静さを失って勢いで喋ろうとしたが常識的に考えて発言は一切出来ない状態だろう。

 無駄な出血を出した事に後で後悔をする。

 流石に自分の肉体は不死身と言えど、痛みは伴い気も直ぐに失なってしまう。

 少しの油断から生じた事。自業自得か。

 血をほぼ失って気力だけで立っている状態。

 心臓をつぶされたんだ……脳にある酸素量が完全になくなるとこちらの負けだ。

 刻一刻と迫る時間の中で、一瞬で勝負を付けなければならない。

 一か八か……これにかけるしかない!

 俺は自分の手を傷口から体内に入れて、食道から溢れ出す血の流れを直に握りしめると、肺一杯に空気を吸い込む。

 これで口から血を吐き出す事なくしゃべる事ができるだろう!


「なっ!?血迷ったか!?」


 自分の行動に敵も度肝を抜かれたのか、血の気が引いた驚いた様子で発言していた。

 俺は目一杯のかすれた声で、この止まった世界からの脱出を試みた。


『〇〇〇〇!!』


 今まで色が反転して動かなかった世界が、色を取り戻し再び動き始める。

 当然だが店の炎も動き出し、火柱が空高く上がっていた。

 前方には敵の姿は無い。死にぞこないが何をしても無駄だと判断して逃げたのか、それとも近くで何をするのかを気配を消して覗いているのか……。

 それだったら後者の方が、この作戦を発動させるにあたって理想的だ!

 俺は自分のありったけの魔力を一点に集中させて高めていく。

 そして、かすれた声で魔法を詠唱した。


『詠唱省略!フレアボール!!』


 俺は火属性の上級魔法を空高く打ち上げる。

 一見意味のない行動かと思うが、これをやっておかないと全滅してしまう可能性があるのだ。

 ぐっ!流石に意識がとぎれとぎれになってきた。早く2手目を発動させないと。

 俺はかすれかすれの声で次の魔法を詠唱する。


『詠唱省略!フィジックスバリア!!』


 少し大きめの魔法を無効化する上級魔法を、民家がある方角に張り巡らせて、輝きの障壁を作った。

 これで今から起こる連鎖で、ファスト村の人達を巻き込まずに済む。

 俺はガクッと膝を地面に付けて、満身創痍の状態になった。

 最後の詰めだ……。

 集めた魔力を最大限にひねり出して、ガラガラ声で最後の魔法を詠唱する。


『詠唱省略!顕現せよ!フラウ!』


 店からの炎が熱気を放っている中で、目の前に綺麗な無色透明な氷の結晶が集まってくる。

 結晶はある程度大きくなると、カチカチと音を立てながら、角ばった人型の形になった。

 すべての氷の変形作業が終了したのか、一瞬だけ冷気が肌を舐めるように通り過ぎていく。

 向こう側が透き通って見える結晶の頭部分に、2つの目の様な輝きが灯り、フラウは迷うことなく喋りだした。


「じゃんじゃかじゃーん!ってトモキ様!瀕死じゃないですかー!」


 少しチャラチャラした口調で俺に話しかけてくる。

 もう目の前は真っ黒だ。辛うじて声がするぐらいの感覚。

 最後の一言を言えば、最後の詰めだ。

 俺は倒れ込むと同時に、誰にも聞こえない声でフラウに命令する。


『アブソリュートゼロ……』

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