呪い2
「深い……意味は無いのだけど……」
クレアは悪影響の事を話そうと頬を真っ赤に染めると、恥ずかしそうに体をモジモジと動かし小さくなっていた。
なんだ!俺の脳に直接的な電流がビリビリと流れ出して、妙に男の感情を刺激する心の高鳴りは!
俺はクレアの心を揺さぶる雰囲気に生唾を飲み、いやらしいメイド服の短いスカートから覗いている太ももから目が離せなくなっていた。
瞬時に自分が興奮状態である事を理解したが、考えて対処できるほどの思考力が奪われているようだ。
体が勝手にクレアの事を求め始め、今すぐにでも襲い掛かりたい、そんな気分にさせてくる。
震える手を必死に前へ出さないように、力いっぱい握り拳を作って耐えようとした。
ダメだ!このままだと体の制御が付きそうにないぞ!
その間10秒ぐらいの出来事だったのに、体感時間で1時間ぐらい耐えているような気がした。
例えるなら頭の中で理性のリミッターが、急激的なハッキングにより、すべてオールグリーン化されているみたいだ。
だめだ!我慢が出来ない!俺は次の瞬間、衝動的にクレアへ抱き付こうとした。
その時だった……。
「これが悪影響だ」
店主の声が耳元まで届き、俺がクレアに手を出す一瞬早く、物理的に頭に強い衝撃を与えられる。
その衝撃は思いのほか強く、俺はカウンターテーブルに突っ伏す形で顔面を強打する。
「ぐはっ!痛っ!何しやがる!」
俺は店主に罵倒を浴びせた。
それを聞いたクレアは、いの一番に言葉を発する。
「これが悪影響の1つなの!」
彼女の大きめの声が店内を響き渡る。
恐らく店主は俺を正気に戻すために分厚い本の角で頭に直接的に衝撃を与えてくれたのは分かるが、流石に強さが普通の人間を殴る強さじゃないだろうと言うところに怒りが込み上げてるわけであって。
しかし、さっきのクレアの一言で怒りの矛先は路頭へと迷い、カウンター越しの店主に掴みかかろうとしていた俺はグッと感情を抑えつけて途中で断念をする。
そのままの流れでドサッと音を立てて椅子へと腰を下ろした。
その様子を見たクレアは、少し安心した様子で続きを話し始める。
「呪いの1つの正体は催淫効果があって、ちょうど今頃の時刻を過ぎると他の人へ感染するわ。今のがいい例ね」
「感染……だと……」
俺はクレアの方向を思わず見ようとすると、店主は自分をどついたであろう分厚い本を目の前にかざす。
「クレアちゃんを今見たら、また叩く事になるがいいか?」
「それは遠慮したい」
そう呟くと俺は目の前の店主へ目線を向ける。
いや待て。何故店主はクレアを見ても平然としていられるんだ?
「マスター。なんでクレア見ても平気なんだ?」
「あぁ、これだよ」
店主は首元にぶら下げていたシンプルな十字架の形をした銀のネックレスを見せてくる。
ただのネックレスの様にしか見えないが。
「ランバーさん所に相談しに言った時に、これを身に着けていれば催淫効果は表れないよって譲り受けたわけだ」
「なるほど。で?俺の分は?」
「ある訳がないだろ」
俺は店主の何気ない一言に少し顔を歪めた。無いのは当たり前の事なのは分かるが、ただ少し言い方が気にくわない。とは言えど、この先の話を濁すのも嫌なので怒りをそっと胸の内へと潜めて続きを聞こう。
ん?そういえば気のせいだろうか、さっき頭を殴られた箇所がジンジン痛みが増してきた気がする。
そんな俺達の会話が途切れた頃を見計らい、クレアは再度話をする為に口を開いた。
「さっきの続きだけど呪いの悪影響は、他人に感染する悪影響だけじゃないみたいなの」
「そうなのか?」
俺はクレアの方向を見ずに回答をした。しかし、先程からすごく気になる事がある。
なにせ俺が座っている位置から太ももだけがチラチラと視界に入ってくるのだ。
別に催淫にかかっていなくても、何かその太ももが気になって気になって仕方がない。
俺は彼女に手を出しちゃダメだと強く念じながら、自ら説明の続きを促す事にした。
「ちなみに、その悪影響ってのは?」
「そ、それは……」
クレアは再度モジモジしているようで、恥ずかしそうに言葉を濁す。
右太ももと左太ももがキュッと中央で締め付けられて交互に上下して擦り合わせている仕草が、たまらなく俺の心の高鳴りを高揚させてくれた。
やばい!手が太ももの引力に引き寄せられてしまう!
いや待て!これをやってしまったら、本当にただの変態の称号をもらうだけだ。
耐えろ耐えるんだ!
そうだ!手をフリーにしているから勝手に動いてしまうんだ。
そう思い俺は目の前にあった水が入ったコップを手にかけようとするが。
「あっ!」
想像以上に手が震えていたらしく、コップが横になぎ倒されてしまい、見事にクレアの太ももへダイレクトで水がかかる。
「ひゃぁぁぁぁぁん……」
「わ、悪い!」
予想とは斜め上のクレアの甲高い生々しい色気ある声にビックリしたが、俺は咄嗟にクレアの太ももを拭こうと行動を起こそうとする。
これは事故だ!好意じゃない!好意でやっているわけじゃないからな!
そう言い聞かせると辺りを見渡して拭く物が無いと判断をして、俺は無我夢中で上着を脱ごうと試みる。
「ちょっ、ちょっと貴方、何を!」
クレアはびっくりしながらも、少し息を荒めぐったりした様な感じで言葉を発していた。
その言葉につられて俺は彼女と目線を合わせてしまう。しまった!と思った時には時既に遅し。
やばい!催淫効果の相乗効果も加わって、自分の意志とは別に体が勝手に動いてしまう!
その直後だった、ある程度予測はしていたが先程と同じ痛みが頭部へと衝撃的に伝わってくる。
思いのほか衝撃が強かったようで、俺は椅子から床へと転げ落ちる。
「そこまでにしとけよ」
目が少し霞む中、俺は見上げる様にして店主の顔を見た。
相当きつく殴られたようで、催淫効果は覚醒したが頭痛がひどく残っている気がする。
「今のはわざとらしかったぞ」
別に悪気があったわけじゃないが、店主の一言がかなり重く感じた。
「すまん!今のは不可抗力とは言え、デリカシーに欠ける行為だった」
俺はクレアの方を直視しないように気を付けながら、その場で謝りの言葉を発した。
すると彼女は肩で息をするように回答する。
「う、うん……わたしは、らいじょうぶらから……」
あれ?クレアって酔う程飲んでたっけ?
と言うよりも一瞬で酔った感じで、呂律が回っていないのか?
俺の頭痛が少しづつ浸透していく中、そんな事を考えていると店主が喋りだす。
「たぶんクレアちゃんは頭真っ白な状態だから変わりに説明するが」
俺は倒れてる状態から頭を抱えつつ膝をついて立ち上がる。
そのまま店主へ文句をぶつける。
「痛っ!本気で叩き過ぎだ」
「あれぐらいしないと催淫効果は取れないはずだ」
店主は素っ気ない回答をすると、先程の説明の続きを話しだした。
「2つ目の悪影響は、本人自身の体にも催淫作用が現れるんだよ」
「え?」
もしかして、今クレアがぐったりしている理由って……。
俺の表情は恐らくその理由を想像してしまい間抜けな顔になっているだろう。
店主は自分の今の顔色を伺った後に、悟った様に言葉を発する。
「その様子だと察してくれたようだな」
確かに察してしまったよ。要するに水が太ももに当たった瞬間にだな……。
と俺は頭の中でクレアのいやらしい事を想像している途中に、先程からしていた頭痛が突然変異的にドンっと強い痛みを伴い脳内を侵食し始めた。
「ぐぬっっっ!?」
「どうした?」
俺は思わず変な声を出し頭を抱え、それを見た店主は少しだけ気遣ってくれた。
この感覚は……。軽い予知能力に近いこれから起こる事を暗示してくれる予兆。
だけど、これを見てしまうと大体が不吉な事が起こる……。
今まで何とか乗り切ってきた実績もあるので、頭痛はするが半分諦めるようにして情景を受け入れるべく経過をしばらく待った。
その後、以前と同じように自分の感覚が研ぎ澄まされたようになって、目の前が白黒の映像へと変わっていく。
そして痛みがゆっくりと引いていくのと同時に、映画のフィルムを細切れにしたような映像が脳裏へ投影されていった。
今回も何枚ものフィルムが重なって走馬灯のように映像が流れたが、この情景を目の当たりにして違和感と危機感をすぐに覚える。
何枚も映像が出てきているのに、燃え盛る炎に包まれた光景しか映っていない。
しばらくその情景が流れていると、ふと映像の上端に映る時計が目に付いた。
そこで映像は終わりハッと目の前が白黒から一瞬で色のある世界へ。
ある危機感を直観で覚えていた俺は、すぐさまに店内の時計を確認する。
先程の予知の映像とほぼ同じ刻を示していた。
「まずい!この場所からすぐに逃げろ!!」
俺はそう叫ぶが、時既に遅し……一瞬で店内は爆発が起こった様に燃え盛る炎で覆いつくされた。




