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バッドエンドのその先に  作者: つよけん
第2章「伝説の剣の行方」
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呪い

 俺は閉店作業中の忙しそうにしている店主に声をかける。


「マスター」

「どうした?」


 今日分の売り上げを器用に帳簿に付けながら、店主は軽い返事を返した。

 少し前までは俺の酒代だけしかついていない帳簿だろうに、生意気にも何列も書いている動作をしている。


「以前に閉店時間を短縮するとか何とか言ってなかったっけ?」


 それはクレアと初めて出会った時の話だ。酔っていたせいであやふやにしか覚えていないがな。

 確かにあの時にゴブリンの脅威は無くなったであろうが、もう少し警戒して営業時間を短縮してもいいんじゃないだろうか。

 俺の言葉を聞いた店主は帳簿をきりの良い所まで書き終えた後、こちらを向いて喋りだした。


「こないだのゴブリンを退治してくれたおかげか、この辺の脅威は少なくなったらしいからな。元に戻した。」

「こっちは営業時間が伸びる方がありがたいが、少しだけ安易な考えじゃないか?まだ残党も残ってるかもしれないしな」


 店主は帳簿をたたんで棚に片付けると、俺の言葉に対しての回答を述べる。


「なんだ?心配してくれてるのか?」

「いや、別にそう言う意味じゃ」


 俺の照れ隠しに気付いているのか、店主は軽く微笑みながら喋りだした。

 それと同時に外の片付けをしていたクレアが店内へと戻ってくる。


「確かに2~3日は続けたさ。でも、クレアちゃんがここに来てから伸ばしたんだよ」

「私の話ですか?」


 店主の喋り声に自分の名前があった事に、彼女は外に出ていた重そうな看板を軽々と持ちながらこちらに反応を示した。

 店主はチラッとクレアの方向を見ると、再度話始める。


「お前が数日来ないからどっかで野垂れ死んだんだと思い、誰も店に来なくなって収入が無い酒場もそろそろ潮時かと考えている時に、クレアちゃんががふらっとココを訪ねてきたんだ」

「なるほど、それで護衛を兼ねた店番を頼んだわけか?」


 俺がタイミングよく店主の話に割り込むと、彼は違うと首を横に2回振った。

 ふと横から物音がすると思い目線を動かすと、俺の隣に作業を終えたクレアが椅子に座ろうとしている。


「マスター後は私から話すわ」

「ん?あぁ、そうしてくれ」


 店主はクレアの言う事を承諾し、彼女に会話の主導権を渡す。


「その日は確か貴方が門左衛門との死闘の末に寝込んでいた2日目の日の事だったかな。私はこの今着ているメイド服を返す為に前日に洗って綺麗にたたんで置いておいたの」


 俺はクレアの真剣な表情に、ただならぬ雰囲気を感じ取った。

 話の途中で店主は、俺達に水を差しだしてくる。

 彼は気を使ってくれたのだろうが、正直な感想を述べると酔い足りていないのでお酒の方が良かったと心の中で思った。

 クレアはその水を片手で持つ動作と共に、流れるように続きを話す。


「いつも通りの朝だったのだけど、そのたたんで置いといたはずのメイド服がどこにも無いのよ」

「誰かに盗まれたとか?」

「アジトでの事だったから、それは考えにくいわ」


 そりゃ隠れ家であるアジトで誰かが盗んだとなると大騒ぎだな。

 何故か店主は俺に対して疑いの目を向けている。


「なんだその目は」

「気絶してる振りしてお前ならやり兼ねないと思っただけだ」

「まて!そんな事する訳……」


 俺の言葉に店主があらぬ事を言い、クレアまで疑いの目をこちらに向けてくる。


「いやいや!クレアまで!?」


 俺は必死に無いとアピールをする羽目に。

 その後、数秒だけ沈黙が流れたがクレアは糸が切れたように突然と笑いだす。


「嘘よ嘘。貴方が取ったのなら、何故私が今着ているのよ」

「そうか!夢遊病って奴か」


 店主よ……もう話をややこしくしないでくれ。

 その言葉を聞いたクレアはもう一度軽く笑って流すと、続きを淡々と話し始めた。


「夢遊病も少し考えたけど」

「考えたのかよ」

「必死になって探してるとナナが私の寝室に顔を出してきてね」


 俺の突っ込みは無視して、彼女は尚も話を続けた。

 ナナが話しに出てきたってことは、ナナが勝手に持っていったと言う可能性?

 そんな事を考えていたが、予想とは遥か上の回答が返ってきた。


「ナナにここに置いといたメイド服知らない?って尋ねたら『どうしたの?自分で着てるじゃない』って言われて慌てて確認すると本当に自分がメイド服を袖に通してたのよ」

「え?それってクレアが夢遊病って事にならないか?」


 俺の言葉を否定するように彼女はまた話始める。


「自分が勝手に着たと言う事も視野に入れて不気味だったので、ナナにお願いして私と一緒に寝てもらったのだけど私のせいじゃない事が分かった……」

「と言うと?」

「ナナ曰く『突然、たたんであったメイド服がドス黒いオーラを発したと思ったら一瞬で消えて一瞬でクレアの身体に纏わり付いた』って」


 どういう現象なんだ。俺の想像を遥かに超えた事象に困惑の色を示す。

 クレアは水を口に運ぶと、店主が横から話に入ってくる。


「それで貸した張本人の俺を訪ねて来たってわけだ」


 クレアは水をカウンターに置くと、店主に共感するように首を縦に振って続きを話す。


「メイド服を返すだけのつもりだったけど、不気味な現象の正体も知りたくてマスターに相談したの」

「なるほど。でも、働いてる理由とは何ら関係もないのでは?」


 俺の言ってる事は間違いではないはず。

 しかし、この後の話が一番重要だったらしい。

 店主はいつにも増して神妙な面持ちで、俺に向かって言葉を紡いでいた。


「俺も最初は半分疑いしかなかったが、その日に返してもらったはずのメイド服が突然目の前から消えるのを目の当たりにして、信じざるおえなかったんだよ。翌日クレアちゃんがメイド服を抱えてまた来た時はゾッとしたしね。だから購入先の人に直接話を聞きに行く事にしたんだ」


 なんだか雲行きが怪しくなってきたな。また面倒事に巻き込まれる予感だ。

 戦闘が絡んでない話なので請け負う事はそこまで抵抗は無いのだが、伝説の剣の事もあり完全に許容オーバーな案件だ。


「それで、購入先の人とは話あったのか?」

「会って話し合うことは出来たよ」


 俺は話を前へと進めるべく話を合わせると、店主もその流れに乗って会話を再開させる。

 ん?そういえば店主に奴、さり気にエール飲んでるじゃないか。


「その人曰く『呪い』が掛かってる可能性が高いって言われた」

「呪い?」


 俺は初めて聞く単語に、言葉を発しながら首をかしげた。

 クレアは落ち込むように目線を逸らしている。

 まず呪いってなんだよと言いたい。

 自分が設定した覚えのない言葉に、俺はまた困惑の表情を浮かべた。

 次から次へと新しい事が増えやがって、この世界はどうなってしまうんだ?

 俺の表情を伺った後に、店主は話を再開させる。


「その人は人間や魔族、表の世界や裏の世界まで何でも知っている人で、セカン街で知り合ったんだ」


 俺は話の内容にすごく引っ掛かりが生まれた。

 セカン街でなんでも知ってる人ってまさか……。


「少しコネがあって、このメイド服とバニー服を譲りうけたんだけど、まさかこんな呪いが付与されてるとは考えもしなかった訳であって……まず袖を通してくれる人がいた事が奇跡な様なものだけど」

「あの時は着る物もなく仕方なかった部分もあるからな。それで気になったんだが、もしかしてその人ってランバーって名前だったりする?」


 俺がランバーの名前を出すと、2人は驚いた顔をしてこちらを向いた。


「やっぱりそうか。今日の昼頃に用があって尋ねたんだよ」

「そうなのか。相当変な人だっただろ」


 俺は店主の言葉に、苦笑いしながら納得の意味を示し軽く頷いた。

 それに合わせるようにしてクレアも軽く頷いている。

 どうやら伝説の剣の内容の事だと分かってくれているように、目線で合図を送ってきてくれてるようだ。

 でも、呪いって服が自動的に呪われた人の元へ戻る仕組みだけなんだろうか?

 俺は気になった事を、2人に質問を投げかけてみる。


「それで呪いって悪影響あるのか?」


 その言葉を言った途端に、明らかにクレアの顔色が赤くなった事が見て取れる。

 やはり元に戻るだけじゃなく、何か他にも悪影響があるのか?

 そう思っていると、クレアはモジモジしながらも、勇気を出して重い口を開いてくれた。

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