情報収集へ3
見れば見る程、変なおっさんだった。
ダルマみたいな頭と胴体に目と口元意外はほぼ黒い縮れ毛で覆いつくされている。
辛うじて見える手と足も動いていなければ、ほぼ見えない程の剛毛だ。
肥満かと問われれば違う様な気がする。
屋根をぶち破って出てくる事も勢いよく地面に着地するところなどを見ると、身体能力は並外れて高いはずだ。
恐らく本体は極めてスリムだが、体がすべて毛の中に埋めつくされているのであろうと推測する。
何故か想像するだけでも気持ち悪いおっさんだ。俺も人の事は言えないだろうけど。
「そぉれぇでぇ?そっちの冴えない男性はぁどちら様ぁ?」
少しオネェ口調な言い方で、ナナに問い掛けてくる。
それにしても口調といい容姿といい……どちらも相まって強烈な第一印象が俺の頭に焼き付いてしまった。
「この人は、トモキ兄ちゃん」
「お、おう、よろしく……」
ナナにあっさりとした紹介をされて、軽く変なおっさんに会釈をする。
おっさんは俺の事を上から下へと舐めまわすように見ると、軽く頷くようにしてボソッと呟いた。
「君が噂の……」
ん?今、聞き間違えでなければ普通の口調で喋ったような?
本当に聞き取れない程ボソッと呟かれてしまい、俺とナナは頭にクエッションマークを浮かべる。
それを見ていた変なおっさんは毛で隠れていた手を前へ出し、違う違うとあからさまにジャスチャーを取りながら、俺に向かって自己紹介を始める。
「ミスタートモキ?よろしくねぇ♪私の名前はランバーっていうのぉ。情報屋をやってるわぁ」
以外に普通の名前だった。もっと強烈な名前なのかと勝手に思ってたのに。
それよりも第一印象が衝撃的過ぎて、すっかり本来の目的を忘れていた。
俺は気持ちを切り替えて、ランバーへと本題を切り出す。
「ランバーさんが情報屋とナナから聞いていて、聞きたい事があるのだが」
俺の言葉を聞いたナナが頷きながら、言葉を重ねてきた。
「伝説の剣の情報について何か知らない?」
ランバーは伝説の剣と言う単語を聞くと、突然顔色が変わった様に見えた。
少し考えている素振りを見せている。
これは何か知っている感じなので、もう一言押しの意味を込めて俺は発言した。
「何か知っている事があるのか?なんでも細かい情報でもいいから、その情報を売ってくれないか?」
「そうねぇ~、あるにはあるわよぉ?でもねぇ~」
何か不満でもあるのだろうか?
ランバーが出し惜しんでいると、すかさずナナが会話に入ってくる。
「お金ならこれだけあるわ」
腰に下げた小袋を手に持つと、中身をランバーに見せた。
チラッと横目で見ると銅貨や銀貨ではなく、金貨が大量に詰められている。
予想の範囲でしか言えないが、金貨100枚は軽く超えているだろう。
わかりやすく現世の日本円で換算すると、100万円近くの価値がある。
そのぐらいの値段で伝説の剣を売ったとナナに知れたらと思うとちょっと不安が。
俺は額に薄く出た汗を隠しながら、売値の情報は自分の心の奥底にしまっておく事を決めた。
その後、ランバーはマジマジと小袋の中を凝視しているようだ。
考える素振りは見せているのだが、まだ渋っている様子だったのでナナはもう一押しする。
「まだ足りないと言うのであれば、希望金額を言ってほしいです」
「えっ!まだあるの?」
俺の心の声が自然と口から出ていた。
これ以上の値になると、俺の心が痛むのだが。
そんな俺の心境などを気にせずに、ナナはニコっと微笑みながらランバーへもう一押ししている。
しかし、返ってきた言葉は……
「確かにぃ~魅力的な金額だけどぉ~。情報を渡せない理由はお金じゃないのよぉ~」
あれ?ナナは確かお金さえ払えば情報を出してくれるって言ってなかったっけ?
俺はナナの様子を見ると、意外そうな不安顔をしてランバーに話しかけていた。
「こないだはお金さえ払えば、どんな情報でもあれば出してくれるって言ってたじゃん」
「確かに言ったわぁ~でもねぇ~」
ランバーは俺の方向を向くと、指をこちらに向けて再度話し始めた。
「ミスタートモキには出せない情報ねぇ~」
「それはどういう意味なんだ?」
俺は納得のいく説明を求める。
そうするとランバーは目の奥だけでニコっと笑った気がした。
「その情報ならぁ売ってあげてもいいけどぉ?」
そこは情報屋、抜け目ない商売だ。
俺はやれやれと言った感じで、ランバーに応える。
「いくら払えばいいんだ?」
「そうねぇ~金貨3枚かなぁ」
金貨3枚かナナの子袋の中には大量の金貨があるんだ。
そのぐらいの金額ならどうとでもなると思っていたのだが。
「釘を刺して言うようだけどぉ~自分の情報なのだからぁ~ちゃんと自分で払いなさいよぉ?他人の貸し借りは無しよぉ」
俺がナナの方向へ向こうとした時に言われたので、本当に釘を刺された。
金貨3枚か……ファスト村の寝床の隠し場所に今いくらあったっけか?
もし足りない分があるのなら、何とか工面すればいいか。また店主をあてにしそうだけど……。
そもそも、伝説の剣の情報を教えてもらえない理由の情報を掴んで意味があるのだろうか。
聞けたとしても結局はその情報源から、どうやって伝説の剣の情報に辿り着けるんだ。
無いより少しでも有る方が情報としては有効か。
俺は少し考えた後、ランバーに回答する。
「わかった。明日お金を持ってくるから、その情報を売ってくれ」
「えっ!お金の当てはあるの?」
ナナは心配そうにこちらに質問している。
でも簡単な話、このままここから立ち去って後でナナに借りれば問題ない事では?
と思った矢先に、ナナが俺に体を寄せてきて耳元で呟いた。
「おじさんはお金の臭いが分かるらしくて、後で私から借りようとしても無理だからね。小袋を開けた時に全部記憶してるみたいだから……」
お金の臭いってなんだよ。ただの鉄臭い物だろ。
いや、ここは異世界か……自分の予想以上の事が起ってもおかしくないな。
この変なおっさんも俺の中では規格外の存在だからな、注意して今後接していかないと。
俺はナナの呟きに言葉を返した。
「ファスト村の俺の寝床に少しだけだが貯金はある」
それが伝説の剣を売った収入源の一部なんだがな。
考えるだけで虚しくなるので、そのまま続けるように喋りだす。
「だから、今夜は一度ファスト村に戻ろうと思うが、ナナはどうする?」
「私はクレアの事や門左衛門の事も気になるし、一度アジトに戻る事にするよ」
丁度、日も暮れてきた頃だったので、俺達の方針がここで決まった。
「話し合いわぁもう済んだぁ?」
ランバーが俺達の会話が終わったドンピシャのタイミングで話しかけてきた。
この変なおっさんはもしかして読唇術みたいな事でも極めているのか?
情報屋と言う商売人だから出来ても当然か。
俺はランバーの方向を向いて、面と向かって応答を返した。
「また明日ここへ同じ時間帯に来るから、ナナもそれでいいか?」
「それでいいよ」
ナナの返答を聞いた後、ランバーに軽く挨拶を済ませると俺達は各々に行動を始めた。




