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バッドエンドのその先に  作者: つよけん
第2章「伝説の剣の行方」
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額の傷2

 門左衛門が巨大化をしてしまいナナの部屋は少しばかり散らかってしまった。

 幸いにも部屋全体を覆いつくす前に巨大化は止まったようで、被害は最小限にとどまっている。

 クレアは気を失いソファーで寝かせて、門左衛門は剣になったままで呼びかけても返事はない。

 剣に存在感は残っているので、時間が経ち回復さえすれば元に戻るだろうと思っている。

 今は悩んでても仕方が無いと判断し、俺とナナは簡単に部屋の片付けをする事となった。


『詠唱省略!フレイムボール!』


 俺は自分の手に魔力を注ぎ込み、その場に魔法をとどまらせる。

 片付けに必要な事なのかと言われれば、普通なら魔法なんて必要ない事なのだが。


「この瓶へ慎重にフレイムボールを入れてくれれば、魔力維持でコントロールしなくても半永久的に発動したままになるわ」


 ナナは自信満々に説明をしてくれる。

 魔法瓶と言うらしく見た目はただの牛乳瓶にしか見えない。

 俺は言われた通りにその透明の瓶の中へとフレイムボールを慎重に入れ込み、コルクで出来ている蓋でギュッと瓶を密閉状態にした。

 中に閉じ込められた燃え盛る輝きは、自分の魔力供給を遮断しても衰える事なく、部屋全体をやさしい光で包み込んでくれる。だからさっき部屋の中が明るかったのか。

 正直、この現象には驚きを隠せない。

 自分の知らない設定と言う事もあるのだが、純粋にこの技術そのものにワクワクする気持ちと興味の方が大きく感情を揺さぶられていた。


「ど、どういう原理なんだ……」

「あれ?トモキ兄ちゃんも知らないの?……ふふーん」


 俺の呟きにナナは鼻高々に発言をした。

 なにやら妙に自信満々に胸を張って、自分の胸に手を当てると、彼女はその場でポーズをとった。

 その後に一呼吸置いてから、彼女は再度言葉を発する。


「そう!これは何を隠そう……私が発明した魔力維持理論を元に研究開発した試作品の魔法瓶なのだ!」

「なっ!今なんて!?」


 おい待て!発明?発明って言ったのか!

 俺は妙に食らいつくようにナナへと近づいた。

 ナナは不意打ちを食らい驚いたように少し顔を赤くさせている。


「ま、魔力維持理論の事?」

「違う!発明!発明したって言ったのか?」

「そ、そうだけど……」


 こんな近くにも自分が作った設定以外の事を作り出す人物がいたとは……。

 そこのソファーで気を失っているクレアもそうだが【創造者】としてこの世界を作った俺にとって、想像以上の事が起っている事実は本当にありえない事なのだ。

 本当ならば過去に起こった悪夢の出来事が終わった瞬間に、そこですべてが終了していたはずなのだが……。

 だけど、今ここに未来があり、時間は無情にも流れてしまっている。

 ダメだ!また考えてしまっている。考えすぎるのは俺の悪い癖だな。

 俺は瞼を強く閉じるとため息をつきながら、左手で髪の毛をクシャクシャっと触った。

 もうここは俺が作った世界じゃないと再認識をして、改めてこの世界感を違う世界として受け入れる事を心に誓った。

 そして俺は、目を開ける。


「どうしたの?」

「うわぁ!」


 ナナが不思議そうな顔をして、こちらを見上げている。

 距離がかなり近い事に思わず声が出てしまった。

 自分が無意識のうちに勝手に近づいた事を今更ながら再認識する。

 あれ?そういえばナナってこんなにも可愛かったっけ。

 今まであまり意識していなかったから気が付かなかったのか?

 いやいや!何を俺は考えているんだ!思考の中で大きく頭を横に振る。

 どうやらそんな俺の動揺にいち早く気付いた様子で、ナナは意地悪そうに喋りかけてきた。


「もしかして、トモキ兄ちゃん照れてるの?」

「そ、そんなわけあるか!」


 その回答をした後、更にナナは俺の顔を目掛けてグイっと背伸びをして顔を寄せてくる。

 手で押しのければそれでいいはずなのに、体がそれを拒絶しているようだった。

 俺は求めてるのか?いや、俺には心に決めた人が。


「私だって……ちゃんと成長してるんだから……」


 ナナの吐息が生暖かく肌で感じ取れる。

 見た目は2年前とほとんど変わりは無いのだが、中身はだいぶ変わっているようだ。添い寝の件もあるしな。

 少し子供っぽさは残っているものの、大人の女性であると言う雰囲気を醸し出している。

 そんなナナに感化された俺は、生唾を呑み込んでその場で硬直状態に陥った。

 どっちが子供なんだかと、少し思い知らされている気がする。

 最後の力を振り絞り、俺は言葉を発した。


「ちょ、ちょっと……まっ」


 ナナの唇と俺の唇が重なる5秒前。

 アリシア……ナナなら許してくれるよね……。

 俺は覚悟を決めて目を瞑った。


 ……。


 ……あれ?


 俺は5秒経っても唇に感触が無い事をおかしく思って目を恐る恐る開けてみる。

 ちゃんと目の前にはナナの顔があった。だけど何か様子がおかしい。

 落ち着いてナナを観察してみると、プルプルと小刻みに震えていた。


「ど、どうかしたのか?」

「むぅ」


 ナナは不機嫌そうな声を出す。

 状況が今一つ理解できなかったが、1歩後ろに下がってみるとすぐに状況を把握した。

 ナナはつま先を立てて背伸びを目一杯としている。

 俺を必死に見上げている形のナナにとって、俺の唇の位置は背伸びしても届かない位置にあったのだ。

 自分も覚悟を決めてキスぐらいならと目を瞑った事が仇になったらしい。気を使ってかがめばよかったのか。

 いや、俺から行くのが礼儀だろうか。まだ必死にその状態をキープしているナナに失礼ではないのか?

 俺は覚悟を決めて緊張で心臓の音が破裂しそうになりながら、もう一度ナナに1歩近づこうとした。


「んっ、んん?」


 その行為がおこなわれる瞬間に、クレアが微かな声を出しながら目を覚ました。

 俺とナナは反射的に距離を取ってしまう。

 少し残念な気もするが改めて思うとその場の空気とは言えど、とんでもない事をするところだった。

 クレアは目を擦りながら、周囲の状況を理解しようとしている。


「気が付いたか?どこか痛い所は無いか?」


 俺は平然を装って、クレアに話しかけた。


「うん、大丈夫……痛っ!!」


 クレアは額の傷を押さえると、苦しそうに遠い目をした。


「クレア!」


 ナナがクレアの隣に座り彼女の体を支える。

 先ほどみたいに傷跡は光を発してはいないが、少し痛みが生じているらしい。

 確かウィルはクレアの傷跡をすべて完治させたはずなのに、何故か額の傷だけが残っている。

 これは早急にウィルに聞く必要があるな。

 俺の右腕やナナの門左衛門の爪が食い込んでしまい生々しく完治しきれてない額の傷も含めて、ウィルにはいろいろとやってもらわないと。


「ねぇさん……ありがとう。ちょっと、頭が痛かっただけだから大丈夫だよ」

「無理しないでもう少し横になってなさい」


 クレアとナナの会話が終わるタイミングを見計らい、俺はナナへと問いかける。 


「ナナ」

「トモキ兄ちゃんどうしたの?」


 さっきの事を思い出して少しだけお互いにモジモジしたような気持ちになったが、俺は速やかに彼女に要件を伝えた。


「門左衛門を封印する前に額を怪我しただろ?今も少し残ってる奴だ」

「ん?この傷?それならもう回復したし痛くないよ?」

「回復してる事は知っているが、傷跡が残ってるだろ?」


 俺の話を聞いてナナは考えながら額の傷跡を手で擦っていた。

 そのまま俺は話を続ける。


「傷跡って残ってるの嫌だろ?だから、完治させてやろうかと思ってだな」


 ナナは少し考えてから、結論を出した。


「えっと、このままでいいよ」

「え?どうして?」


 俺の驚きの反応を見て、彼女はすぐに回答する。


「別に深い意味も何もないんだけど……確かに目立つところに傷跡があるのは気になるよ。でもクレアと同じ個所に同じような傷があるのってちょっと姉妹っぽいかなって思っちゃって」

「え?私の傷は全部完治したんじゃ?」


 クレアはナナの回答に驚いた顔で俺に問い掛けてきた。

 そりゃ額の傷跡だから姿見でも見ない限り自分じゃ気付かないだろうしな。

 誰かに指摘されれば別だろうが、俺も気が付かなかった事だし申し訳ない。


「俺もさっきまで気が付かなかったんだが、クレアの額の傷は完治してなかったみたいで……」

「そうなんだ……」

「でも、今からウィルを召喚するからその理由もハッキリするし対処方もあるかもしれないしな」


 少し落ち込み気味だったクレアをフォローするように、俺は彼女に言葉をかけた。

 しかし、クレアはこちらに微笑みかけて答えを導き出す。


「でも……ねぇさんと一緒と言うのも悪くないので、私の傷跡も残したままにしてもらいたいです」

「そういう事なら、このままにしておこう」


 それを彼女達が望むのならば、彼女達に任せよう。

 2人は嬉しそうにお互いの事を見つめあっている。

 だが、俺にはウィルに確認しておかないといけない事はある。

 傷跡をすべて完治させたはずなのに、額の傷だけ残った理由はどうしても知らなければならない気がした。

 俺の右腕の件もあるんだ、ついでで聞いても問題ないだろ。


「じゃぁ、俺の腕を完治させるだけの魔力量でウィルを召喚するぞ?」


 彼女達はコクリと一緒に頷いた。

 俺は机に置いておいた干乾びた右腕を用意すると、さっそくウィルを召喚するために魔法詠唱を始める。

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