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バッドエンドのその先に  作者: つよけん
第2章「伝説の剣の行方」
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額の傷

お待たせしました、ここから第2章の始まりです。


伝説の剣を取り戻しに奮闘する彼らの行動をお楽しみください。

 ストロガーヌの説教じみた話が終わり俺とクレアとナナは部屋から出て、しばらく来た道を戻るようにして歩き出していた。

 俺は頭の中で『これからどうしようか……』と眉間にシワを寄せながら考えていると、ナナが嬉しそうな声で話かけてくる。


「これでトモキ兄ちゃんといつでも一緒に行動出来るね!」


 彼女のはしゃいだ声は暗い石廊下の奥へ浸透していった。

 半強制的とは言えどXキャリバーを売ってしまった俺は反魔王組織に加入されてしまったみたいだ、仕方がないと言えば仕方がない。

 俺は諦めたため息混じりの声を出して、言葉をなげやりに発する。


「Xキャリバーを取り戻すまでだからな」

「買い戻すの間違いでは?」


 目の下を赤く腫らしたクレアが痛い所を鋭いツッコミをいれてきた。

 先程まで泣いていた事を感じさせないように、強気の感情で取り繕っている気がしている。


「ははっ……」


 俺の空笑いが一段と暗い石廊下の奥へと浸透していった気がした。

 そして、しばらくの沈黙に包まれながらひたすら歩いていると、1つの扉の前で足が止まった。


「ここが私の部屋だよ!」


 元気いっぱいのナナの声と共にその扉が開かれた。


「うわっ!眩しい!!」


 俺は思わず声が出てしまう。

 今まで暗かった石廊下を歩いてきたせいも加算して、部屋の中を覗き込むと太陽が差しているのと勘違いさせるような明るさが、瞳孔に滑り込んできた。

 ハッキリとした事は分からないが、恐らくアジトは窓1つない地下の空間にあると思われる。

 これだけ明るいと逆に不自然に思えるが、何かの魔法の1種を応用して明るくしてるんだろう。

 俺はそんな事を思いつつ必死に光に慣れようとしていると、急に視界が暗くなった。


「うぁっ!!」

「まあぁ!」


 自分の顔に何かがぶつかって、そのまま後ろへと転倒する。

 なにか聞き覚えのある鳴き声が聞こえたような……。


「こらっ!門左衛門!うれしいからって突然トモキ兄ちゃんに飛び掛からない!」


 ナナが門左衛門に向かって注意をしているのか。

 って!え?門左衛門?

 俺は顔にへばり付いた門左衛門らしき個体を倒れた状態のまま持ち上げてみた。

 目の前には丸っとした卵形の体に、手触りの感触でゴツゴツした固い青い鱗の様な物で背中をコーティングされている。

 腹側は柔らかくプニプニとしていて、コウモリの様な羽とトカゲの尻尾みたいな物が見えた……やけに早く尻尾を左右に振っている気がする。

 徐々に目線を上げていくと細長く伸びる首に凛々しい小さなドラゴンの顔が口を開けて鳴き声と共に俺に挨拶しているようだった。とても上機嫌だと雰囲気で読み取る事が出来る。

 まさしくナナに門左衛門と言われた個体は、2年前の幼少期の頃の姿をしたドラゴン……門左衛門で間違いなかった。

 俺は半信半疑のまま、クレアに尋ねてみる。


「もしかして、この門左衛門はクレアのツーハンドソードなのか?」

「あれ?貴方が封印したんじゃない?当たり前の事でしょ?」


 間違いは無いらしい。

 俺は門左衛門を抱きかかえながら、そのまま上体を起こす。

 確かに封印に成功した事を見届けたが、この後の事は何が起こってるかなど知るよしもないのだ。恐らくだが門左衛門は剣と実体を共有して、どちらにでも自由に変貌がかのうなのであろう。

 それだったら確かめてみるか。


「クレア。すぐに門左衛門を剣に実体化する事は可能なのか?」


 クレアは俺の質問に対して少し表情を歪ませてみせた。


「そ、そうね……私の剣だものね……」

「なんでそこで微妙な反応をして落ち込むんだ?」


 あからさまにクレアの声と行動が沈んで見えた。

 俺がクレアに問いかけていると、代わりにナナが質問に答えてくれる。


「だって、門左衛門は何故かクレアの言う事をきかないんだよ」

「なるほど、そういう事か……」

「古くからの知人である私の言う事なら聞くんだけど」


 そう言うとナナは門左衛門へ命令を出した。


「門左衛門!剣に戻って!」

「まあぁ!」


 ナナの一言で門左衛門は忠実な鳴き声を発し、一瞬でツーハンドソードへと変異した。

 その剣からは前に感じた存在感や威圧感のオーラがひしひしと伝わってくる。

 それをナナは重そうに手に取ると、そのままクレアに渡そうとして発言した。


「だから、こうやって剣を渡そうとしても……」


 バチッ!!

 クレアと剣の間に電気を帯びた障壁が現れて、火花を散らしてこれ以上両方の距離が縮まる事はなかった。


「見事に拒否られてるってことか」

「そうみたい」


 俺とナナの会話を聞いたクレアは、更に落ち込んだ様子で表情を歪める。

 だったら俺の言う事は聞くのだろうかと思い、門左衛門に向かって声を発してみた。


「門左衛門!ドラゴン化!」

「あっ、ちょっとトモキ兄ちゃんまっ……」


 待つもなにも既に言ってしまったのだが……。何か言うとまずい事でも言ったのか?

 剣はウネウネと柔軟になっていき、変異を始める。

 ここまではさっきの剣に戻った時と同じ光景だった。ここまでは……。

 それはすぐに思い知る事となる。

 変異は先程の幼少期の小さいドラゴンの姿を通り越して、更に大きさを増していった。

 これってまさか……。

 焦りながらナナは喋りだす。


「ドラゴン化って言っちゃうと、成人期のドラゴンになっちゃうんだよ!」


 ナナの部屋は少し大きめの作りをしていたが、巨大な門左衛門を収納するには心もとない空間だ。

 巨大化は止める事もままならぬまま、周囲の家具を巻き込みながらどんどんと大きくなっていく。


「小さくする方法はないのか?」

「一度、変異が起っちゃうと完全体になるまで変異は止まらなくって……」


 非常にまずい事になっていた。

 あれ?そういえば扉付近にいた俺とナナは部屋の外へ避難したが、クレアの姿が見当たらない!

 まさかまだ中に!

 もう巨大化は扉に覆いかぶさり、中の様子は伺えない。


「クレア!」


 俺とナナはほぼ同時に大きな声を出して、彼女の名前を叫んだ。


「わ、私はまだ大丈夫よ!」


 大丈夫と答えてはいるが、巨大化する門左衛門の脅威は拭えないだろう。

 どうする事も出来ないのか?いや……無理も承知で1つ方法を思いついた。

 俺は無我夢中でクレアに叫ぶ。


「クレア!門左衛門に出来るだけ近づけ!」


 クレアと門左衛門の電気を帯びた障壁を何とか利用できないだろうか。

 門左衛門がそれを拒否しているとするならば、何らかの形で拒否反応が出るはず。

 見当もつかない賭けだがやらないよりやる方がマシだ。


「きゃっ!!」


 部屋の中でクレアの悲鳴が聞こえてくる。

 たぶん俺の言う事を信じて、門左衛門に出来るだけ近づいているのであろう。


「クレア!頑張って!!」


 ナナも必死にクレアにメッセージを送っていた。

 バチッ!!バチバチバチバチッ!!

 ものすごい火花が散る音が、塞がれた扉の前からでも大きく聞こえてきた。

 効果はあるのかが今一つ分かりにくいが、少しだけ壁が軋む音が弱くなった気がする。


「大丈夫だ!そのまま頑張って門左衛門に近づけ!」


 俺は再びクレアに声をかける。

 更に火花が散る音が強くなった気がした。


「あ、熱い……」


 微かにクレアの声が漏れ聞こえる。

 そりゃあれだけの轟音で火花を散らしているんだ、自分の体に当たっていても不思議ではない。

 ナナは不安そうに胸のあたりで両手をギュッと握りしめている。

 崩れかけていた壁が徐々に徐々に軋む音を緩めてきていた。

 あと少しかもしれない!


「止まる予兆があるから、もうひと踏ん張りだ!!」


 俺は額に汗をにじませながら、クレアに渾身の大声でエールを送った。

 その時直後……轟音の火花の音が、破裂音に変わり中で爆発が起きた事が分かる。

 くそ!失敗したのか?と思った矢先に、扉の前を塞いでいた門左衛門が伸縮していく。

 中に入れそうなぐらいの隙間が出来ると、俺は中へ飛び込んでいった。


「クレア!」


 俺は彼女の名前を叫んだ。さっきまで明るかった室内は、真っ暗闇に包まれている。

 少し埃が舞っていた様子だったが関係ない。

 後ろの方で金属音が無造作に落ちる音がした。

 どうやら門左衛門は剣に戻ったらしい。

 こんな狭い部屋に巨大化させてしまって、更に強制的に剣に戻す事となった門左衛門にも悪い事をした気がした。


「ナナ!門左衛門を頼む!」

「わかった」


 ナナはすぐに返答を返してくれた。そっちは任せて早くクレアを見つけないと……。

 俺は周りを注意深くよく見渡す。

 ん?なんだ?この薄く光を放っている小さな物体は……。

 俺はすぐさま光る方向へ移動をすると、そこにはクレアが気を失って倒れている。


「大丈夫か!クレア!」


 良かった……気を失っているだけであって息はしている。

 生きているなら問題ないな、無茶をさせてしまって本当に申し訳ない。

 でも、なぜクレアの額に光が宿っているんだ……。

 俺は光を放つところをじっくりと凝視すると、それは以前にウィルの力を借りて治したはずの傷跡の一部だったのである。

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