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バッドエンドのその先に  作者: つよけん
第1章「反魔王組織」
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巻き込まれる運命2

 俺はストロガーヌに呼ばれたらしく、クレアの案内で廊下を歩いていた。

 朝に起こった一悶着が原因だろうか……場の空気は少なくとも良い雰囲気ではない気がする。

 確かにナナの存在を隠してしまった自分に非がないわけじゃないが、あれはナナ側にも非があったと主張したい。

 誤解を生んでしまったのも事実だったので、その場はとりあえず謝る事で治める事が出来た。

 しかし……クレアは何故かまだ不機嫌そうにしている。

 どうしたものか……。

 しばらく石廊下を2人分の歩く音だけが虚しく響き渡っていた。

 俺は後ろからクレアの姿をボーっと眺めている。

 そういえば流石に店主から借りた際どいメイド服はもう着ていないのだな。いや、普通の事か……。

 一番最初に酒場で出会った頃の鎧を身に纏い、威風堂々と凛々しく歩いていた。

 あれ?背中に背負っていたツーハンドソードを持っていないな。

 あれから封印した門左衛門がどうなったのかが気にはなる所でもある……。聞いてみるか。

 俺はこの空気をなんとか打破するべく、勇気を振り絞ってクレアに話しかける。


「……そ、そういえば、ツーハンドソードはどうしたんだ?」

「今はナナに預けてますよ」

「……そ、そうか……」


 クレアからは淡白な回答で終止符を打たれた。

 もう1度具体的に聞けば済む話なのだが、なんせ封印した後の事を自分でもどう聞けばいいかわからないのだ……。

 そう言われてしまっては次の言葉に困ってしまう。

 仕方がないと思考を変えて、続けて質問を投げ掛けてみた。


「そ、そういえば……この場所は何処なんだ?」

「反魔王組織のアジトですよ」

「……あ、はい……」


 これまた淡白に、ご回答ありがとうございます。

 検討は付いていたので、もうちょっと詳しく教えて欲しかったな……。

 でも部外者の俺が聞ける内容でもないか……。秘密基地っぽいし。俺が知らない所だからな……。

 1人で勝手に納得をして、さらに頭に浮かんできた質問を問い掛けてみる。


「それで……なんで俺はストロガーヌに呼ばれたのか知ってる?」


 クレアはこの質問に対してはいい反応を示してくれる。

 少し考えた後に遠い目をしながら回答に応じてくれた。


「きっと、ねぇさんと添い寝してた事がバレたので、殺されるんじゃないかな?」

「……ははっ……そんな……バカな……」


 俺の額からは汗がにじみ出てくる。

 よくよく考えると……ありえない話でもない気がしてきた……。

 クレアがストロガーヌにその事を伝えたとしたならば……。

 完全にストロガーヌの逆鱗に触れている事に間違いはない。

 いやそれでも……クレアはいい子だ……そんな事するはずがない……と勝手に思っていた。

 そもそもだ……俺はこの子の何を知っているのだ?知らない事の方が多すぎるのでは?

 確かにナナやストロガーヌ、アリシアやヴァッシュなど……俺が作ったキャラクターならばある程度性格は理解できるのだが、クレアに対してはアリシアと似ていると言うだけであって、初めて出会ったあの時から自分が把握出来ていない知らないキャラクターなのだ……。

 もしも……クレアの設定が生真面目で報告は包み隠さずストロガーヌに話すと言う物だったら……。

 完全にアウトだな。

 考えただけでも逃げたい……兎にも角にも逃げ出したいぞ……。

 額からの汗は次第に頬を伝い顎の下で雫となって落下していった。

 そんな俺の焦りを悟ったのか、クレアは少し鼻で笑いながら喋りだす。


「冗談です。嘘ですよ」


 え?冗談?嘘だったのか?

 俺はホッと胸を撫で下ろした。


「そ、そうか……そうだよな!」


 いかにも焦ってませんアピールをして、平然を装っていた。

 全然ビビってませんでしたよ……はい、ビビってません!

 いざ本当にストロガーヌに殺意を抱かれたとしても、逃げればいい話だしな……。

 問題はない……。

 クレアのこの冗談のおかげで、場の雰囲気が少し和んだ気がした。

 だけど彼女はまだ不機嫌そうにしている気がする。


「まだ朝起きた時の事を、怒ってるのか?」


 この緩んだ空気を利用して、不機嫌な理由を探ってみよう。

 そうすると意外にもクレアの口からは、予想外の回答が返ってくる。


「え?なんで怒る必要があるの?ナナが好意を寄せている人なのに、別に裸のお付き合いをしていてもおかしくはないのでは?ただ……特殊なプレーがお好きなようでびっくりしただけよ」

「いやいや!特殊なプレーなんて一切してないから!」


 俺は必死に弁解をする。と言うよりも怒ってなかった事に驚きを隠せない。

 ナナの未来の旦那様宣言を真に受けての反応か……。

 だけど彼女は自分の回答とは裏腹に、まだ不機嫌そうな雰囲気を出している。


「でも、さっきからずっと怒ってる様にしか見えなくてな……」

「そうですね……何故だかわからないんだけど、どうしてか貴方とナナの添い寝を見てから、急に胸が苦しくなってムカムカしてきただけよ」


 ん?それはつまりどういう事だ?

 まさかとは思うが、クレアまで俺に……。

 いやいや……それは流石に考え過ぎだろう。

 そうこう考えてるうちに、どうやら目的地に着いたようだ。

 奥の突き当たりに1つの扉が見えた。

 どうやらこの奥にストロガーヌが居るらしい。


「先に中に入ってて。私はナナを迎えにいって後で一緒に合流するわ」

「おう、わかった」


 俺はクレアの言葉に返事をすると、彼女は来た道を戻っていった。

 重そうな分厚い木の扉をグッと力を込めて押しこみ部屋の中へと入っていく。

 部屋に入った瞬間にストロガーヌの罵倒が聞こえてきた。


「遅いぞ!!小童!!」


 俺は案内されてこの部屋に入ったんだ……遅いも何もないだろ……。

 と理不尽な事に不服を思っていると、ストロガーヌが机の上にあった干からびた何かを俺に投げつけてきた。


「ほらよ!」

「うわっ!あぶね!」


 俺は咄嗟に左手で、それをキャッチする。

 これは一体なんなんだ?と物を確認してみると……。


「干からびた手?これってもしかして……」

「そうだ……お前の右腕じゃ」


 どう言う風の吹き回しだ?確かに干からびていても自分の部品さえあればウィルの力を借りて回復は可能である。

 後でファスト村に帰る途中に回収しにいこうと思っていたのだから、行かなくて済むのはありがたいのだが……。

 だけど……俺を嫌っているはずのストロガーヌが善意だけで持って帰ってくるはずが無いと、最初っから疑いの目を彼に向けた。

 絶対、裏がありそうだ……。例えば……反魔王組織に入れとか……。

 今の反魔王組織の状況を見るに、嫌いでも俺のような戦力は喉から手が出るほど欲しい人材だろう。

 しかし、それだけは回避しないとな……もう面倒事は門左衛門だけでコリゴリだ……。

 色々諦めてもう余生を平平凡凡と生きていきたいのが今の願いです。

 ストロガーヌは不機嫌そうな顔を浮かべながら、俺を睨みつけて渋々と喋りだす。


「別にお前の為に回収してやった訳じゃないぞ……ナナがどうしてもと言うから仕方なくじゃ……」


 そういう事か。ならば有難く頂戴しておこう。

 俺は一応お礼を言う事にして、面倒くさいのでそのまま帰ろうと試みた。


「どうもお世話になりました。それじゃこれで帰らせてもらい……」

「まだじゃ!バカ者!!」


 『ます』と言い切る前に、大声で怒鳴られた。

 まだ何か用事でもあるのか……今度こそ勧誘か何かか……。


「お前はもう戦場には戻らないと報告を受けておる」


 確かに止むを得ない場合以外は、極力戦闘は避けたいと思っている。

 以前にクレアとナナの勧誘を断った事がしっかり伝わってるらしいな。

 ストロガーヌは更に睨みを強めると、ハッキリとした口調で言葉を紡いだ。


「だからサド王国の秘宝である伝説の剣Xキャリバーを返してもらいたい」


 その言葉を聞いて俺の心音が1オクターブ跳ねあがった。

 俺の動揺をストロガーヌは一早く察知して煽りをかけてくる。


「どうした?あれはもうお前には不必要な物じゃろ?」

「そ、そうだな……」


 返したいのは山々なのだが……。

 正直に真実を告げれば許してもらえるものなのだろうか……。

 いや……俺を嫌ってるストロガーヌが簡単に許してくれそうにはないぞ……。

 かと言って適当に取ってくるなどと言い訳をして、そのまま逃げてしまおうかとも思ったが、地の果てまで追いかけられて安静に暮らす事が出来なくなりそうだ……。

 色々と脳内で考えているときに、クレアとナナが部屋に入ってきた。


「ほ、本当に起きているトモキ兄ちゃんだ……」

「お、おい……」


 ナナの驚きの声と共に、彼女は俺へ抱き付いた。

 抱き付かれる事は想像してたが、これはこれでストロガーヌの導火線に油をしみ込ませた気がする。

 案の定……彼の睨みに拍車がかかっていた。

 抱き付くのをやめろと彼が言わないのは、ナナに対しては強く物を言えないからだ。

 設定上でストロガーヌは親バカって事になってるからな。嫌われたくない一心で我慢しているらしい……。

 ストロガーヌはプルプルと体を震わせながら、改まって真剣な声で俺達に喋りだした。


「丁度いい。お前達にも聞いて貰いたい事がある」


 それを聞いたナナは俺からすぐに離れると、ストロガーヌの話を真剣に聞き始める。

 つられてクレアも同じように真剣の眼差しを彼に向けた。

 俺だけが上の空で、ストロガーヌの発言に耳を傾ける。


「クレアには少々刺激的な話になるかもしれないのじゃが……」


 Xキャリバーとクレアにどんな関係があると言うのだ?

 俺は考えを巡らせてみたが、思い当たる節がない……。

 まずクレアが俺が作った設定外と言う事から、俺が作った伝説の剣とは何も関係が無いと思っていた。

 答えはすぐにストロガーヌの口から導き出される。


「クレアがアリシアと判断する方法が1つだけあった事を、このヘタレ元勇者が導き出してくれた」


 え?なんで俺がそんな事を導きだせたんだ……ってまさか!

 俺は自分の作った設定で重要な事を思い出して言葉を発する。


「Xキャリバーの伝承の儀式……」


 ある一定のレベルとイベントをクリアする事により、サド王国の秘宝であるXキャリバーを入手する事が可能だった。

 この異世界での最強の武器であるXキャリバーは、そう簡単に入手出来ないように設定されていない。

 フラグを全部知ってるのだから難なくこなせたと言うのが、実際の所の自分の気持ちではあるが……。

 ここからがクレアをアリシアとして認識できる重要なポイントなのだが、フラグの1つにアリシアの聖水が必要だったのだ。

 設定的にサド王国のアンティエーゼ家の血筋の人間ならば、誰の聖水であっても儀式は成立する。

 仮にアリシアの兄であるヴァッシュの聖水でも成立するのだが、奴もどっちかと言うと勇者を嫌っている立場だ。

 当然の事だが聖水を差し出す気は最初っからなかったらしい。仮にヴァッシュが聖水を差し出してきたとしても、俺は絶対に使う事はないんだがな……アリシアだったからこそ受け入れる事が出来た。

 そうして必然的にアリシアから貰う事となり、無事に儀式は成功を収めてXキャリバーの所有者となったのだ。

 簡単な話……クレアに聖水を提供してもらい、儀式を成功させれば彼女がアリシアだと言う証拠になる。


「そ、それって……私の素性が分かるってことだよね?」


 クレアは不安そうな顔でこちらに質問を投げかけてきている。

 もしもクレアがアリシアだったとしたら……。

 俺はどんな顔をして彼女に顔向けすればいいのだろうか……。

 少しでも可能性があるのならばとも思う……。

 だけど、俺にその資格はあるのだろうか……。

 結果を知りたくないと言う気持ちもある……。


 俺がとやかく考えているうちに、素性を知ると判断を出していたストロガーヌがクレアに回答をしていた。


「簡単に説明するとその儀式をおこなう事によって、クレアが王族の親族か、はたまた一般人の姫に似ていただけの女の子か、と言う事がわかるだけじゃ。何も不安がる事はないぞ」

「う、うん……」


 クレアは何かを心配しているような感じで、頷きながら少し俯き加減に下を向く。

 それを見ていたナナが、クレアの頭を撫でながら言葉を発した。


「クレアがもしもアリシア様だったとしても、今は私の可愛い妹に変わりないよ。だから心配しないで」


 その言葉を聞いたクレアは、ナナの胸の中へ泣き崩れていった。

 不安の正体はハッキリとしていないが、きっと記憶が無い部分を知る事をすごく恐れている気がする。

 根拠は何も無い事だが……たぶんそんな気がした……。

 俺も彼女の素性を知る事の判断をしないと……。

 しかし、喉元まで出てきた言葉は、そこから先へ進もうとはしなかった。

 そうか……俺にはこれ以上知る資格はないと……そう思考回路が判断したらしい……。

 もし彼女がアリシアだったとしても、中身はクレアなのだ……。

 俺が愛したアリシアとは別の思想を持った同一人物である。

 ならばこれ以上知った所で、本物でも偽物でもどっちにしろ、後悔する瞬間が訪れるだろう……。

 だからこそこれ以上は関わらない事を俺は望んだ……。

 帰ろう……ファスト村にある、あの酒場へ……。


 だが……そう簡単に……この運命からは逃れる事は不可能だった。

 ストロガーヌが後ずさりをしている俺の気配を察すると、更に迫力を増した威圧感と共に喋りだす。


「それで……Xキャリバーは今は何処に保管してあるか教えてもらおうか……」


 この事を言い訳するだけで、事がもっと大きくなりそうな予感がした。

 なのでこの際はっきりとXキャリバーがどうなったかを伝えるべく、俺は深呼吸を2回した後に喋りだす。


「ごめんなさい!」


 俺は深々と頭を下げた。

 謝罪の気持ちを一心に込めて、出来るだけ大きな声でストロガーヌに謝る。


「貯金が底をつき酒場代が払えなくなった時に、かなりの高額で売却してしまいました!」


 それを聞いた事により、しばしの沈黙が流れる。

 クレアの泣きじゃくり嗚咽交じりの鼻水をすする音が妙に目立って聞こえていた。

 その後ストロガーヌは呆れ返っていたが、急に電池が新品に変わったように大きく息を吸い込む。


「この……ドあほぉがぁぁ!!!!Xキャリバーを取り戻してこい!!!!」


 ストロガーヌのかつて聞いた事のない声が、部屋中をかけ跳ねまわった。

 そして俺はこの後、半強制的に反魔王組織の団員として活動を余儀なくされたのである。

ココで第1章の終了です。

第2章まで期間があきますので、ご報告までに……。

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