生み出されし魔法
何故だろうか……。
このどうしようもなくピンチと言う状況なのに、自然と楽しいという感情が笑顔となって溢れ出してくる。
そりゃ笑いごとじゃないと言われれば、誰もがこの状況を見て不謹慎だと思うだろう……。
門左衛門には生きていて欲しい……しかし、ストロガーヌに殺される寸前。
ストロガーヌにも門左衛門を倒す理由がある……やらなければ守れない物もあるから。
クレアは武器を持っていない……盗賊にカモられるのも時間の問題だろう。
ナナはどうしようもない状況……クレアが必死に行動をしてくれているが状況は一切変わっていない。
そうだ……笑うべき所は一つもない……。
それだったら、何故に笑っている?
俺は何故笑っているんだ?
その答えは俺の頭の中で直接的に響いた言葉が、自分の元々の立ち位置に気付かせてくれたからだ……。
「創る楽しさって……やっぱ俺は好きだわ」
独り言をボソッと呟くと、俺は左手の掌を大きく開いて前に出すと魔力を集中させる。
頭の中に勝手に浮かんでくる呪文を、スラスラと口を動かして丁寧に発音をした。
『地上に干渉を許されぬ無機質の尊い生命の塊よ……今ここに力を震わす事を願う……』
俺は無属性魔法発動条件を唱えると、周囲は異様な光に包まれた。
明らかに通常の魔法初期起動とは全く別物である。
「なんじゃ!これは!!」
ストロガーヌは率直な感想を述べていた。
もう一度攻撃態勢に入っていた彼だったが足を止めてこちらを見て驚いている。
それと同様にしてクレアもこちらの状況に驚いた顔で見入っていた。
俺は一気に魔力を放出させて言い放つ。
『メタルバインド!!』
呪文を唱えた瞬間に地面は軽い震動を始めて、段々と何かが近づいてくるように大きな振動へ変わっていった。
立っていられない程の大きな揺れではないが、異様な空気が周囲を包み込んでいる……。
それにいち早く気付いたのは門左衛門だったらしく、一瞬油断していたストロガーヌの目を盗み逃げ出そうと試みていた。
それじゃ……早速ですが驚いてもらいましょうか!
これが【創造者】である俺の底力だ!
必死に翼を羽ばたかせて上空に逃げようとしている門左衛門。
先程より少しだけ高く飛び上がった本体だが、図体が大きい為飛翔時間に少々の難がある。
このぐらいの距離ならまだ範囲内だ。
「逃がすものか!!」
ストロガーヌは俺に気を取られていた事を反省して、再度両足に力を込めて飛ぶ準備を始めていた。
その最中に突然と地面から突き出すように地響きの正体が飛び出してくる。
えぐれた大地の中からは、門左衛門へと一直線に向かう一本の鎖。
後を追う様にして他の地面からも次々と鎖が飛び出してきていた。
息もつかさぬまま高速で移動する鎖は、あっという間に門左衛門の周囲を取り囲む。
それを追う様にしてストロガーヌも門左衛門めがけて飛び上がった。
門左衛門は囲まれた鎖を邪魔だと判断して、爪で攻撃したりしっぽで振り払おうとしていたが、まったく歯が立たない。
そういう頑丈な作りじゃないと、お前を縛る事は出来ないだろ?
俺は開いていた掌をグッと握りしめると、門左衛門を取り囲む鎖を一気に集約させた。
「まあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
門左衛門の体に無数に絡みつく鎖は、門左衛門の動きを完全に制限させる。
翼を封じられた門左衛門は、一気に地上へと急降下を始めた。
俺の束縛に対してストロガーヌは、めずらしく称賛の声を上げている。
「小童も、たまにはいい動きをしよるわ!!」
ガハハっと笑いながら、門左衛門との距離を縮めていた。
俺は決してストロガーヌを助太刀しようとした訳ではない……。
なので……ここはひとつ大人しく退場してもらおう……。
「ストロガーヌ!下だ!!避けろ!!」
俺は行為的に鎖をストロガーヌへと向かって放っていた。
彼は驚いた様子で高速で上昇してくる鎖を確認する。
「な、なにをしている!!」
「す、すまん!!新しい魔法のせいか上手く制御が出来ない!!」
嘘である……。これぐらいのホラが丁度いい言い訳となってくれるだろう……。
一本の鎖は見事にストロガーヌの足に巻き付くと、上昇はそこでガクっと止まった。
早くこの鎖を外せ!小童!!と言いたそうに口を動かし怒鳴られそうだったので、俺は迷わず2次災害を装いながら彼の体を左右に振り回す。
「うわぁ~、せいぎょができない~、うわぁ~」
自分の演技力の無さに少々恥ずかしさが込み上げてくる。
今はそんな事どうでもいい……。
俺は振り回していたストロガーヌを、クレア達の方向へと投げだした。
「少しでも認めたワシがバカだったわ!!」
と言葉を残して彼は為す術もなしに吹っ飛んでいく。
これでもう一つ心配していたクレア達と盗賊の件は、ストロガーヌに丸投げできた訳だ……。
さてと……これで誰も邪魔者が居なくなった……。
俺が放ったメタルバインドが絡みついたまま、重力に導かれるまま門左衛門は地上へ叩きつけられる。
「まあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
落ちた瞬間に山全体が揺れ動き、どれだけの巨体が落下したのかが身に染みて感じ取れた。
もうこれ以上……門左衛門の苦しむ声は聞きたくない……。
俺はゆっくりと門左衛門の傍へと歩み寄る。
そのまま左手を鎖を解こうと必死に動く門左衛門の大きい頭へとそっと乗せた。
「やっぱり……そうか……」
俺は門左衛門が何故ナナを殺そうとしていたかを、触れた瞬間に理解する。
表に出している殺気とは裏腹に、体の中では悲しむ優しい気持ちが溢れ出していたからだ。
そうだ……たとえ門左衛門がドラゴンだったとしても、根っこからこんな残忍な事をする奴じゃない……。
ナナに幼いころから育てられてたんだ……突然悪い事をする可能性は極めて低いはず……。
こんな異常な状態になる方法は、1つしか考えられない……。
誰かが意図的に門左衛門を好戦的へと感情をコントロールさせた奴がいる。
誰かが意図的にナナの自由を奪った奴がいる。
だけど、こんな魔法や設定は自分が作った覚えはない……。
……そうか……もうその思想は捨てた方がいいのかもしれないな……。
俺がメタルバインドを新しく魔法として作ったように、この異世界の理は常に変動しているのかもしれない……。
固定観念を捨てろ!もっと柔らかく物事を考えるんだ!
…………。
……。
もしも【創造者】である俺と同じ様に、魔法を作り出す事が出来る者が他にいるとすれば?
俺は何故かハッと思い出したように山を登る最中、盗賊達との攻防を思い出した。
「あの時に確か……1人だけ怪しい奴が遠くにいたような……」
断定は出来ないがそいつが主犯の可能性は拭えない……。
あの時に頂上にいたナナと門左衛門以外の人間だと考えると、それが妥当な判断であるだろう。
一瞬だったとは言えど、顔はバッチリと覚えている。
特徴的な顔立ちをしていたので、忘れようにも忘れられない。
山を降りたら直ぐにそいつを探しだして、直接事情を聞き出さないとな……。
もしかするとそいつは……魔法を生み出す何かを知っているのかもしれないしな……。
仮説にすぎないが自分の中で納得いく答えを生み出し、俺は次の行動へと移った。
「俺が……今すぐに楽にしてやるからな……」
門左衛門に触れていた手で軽く2回ほど頭を撫でると、俺はそのまま魔法詠唱に入った。




