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バッドエンドのその先に  作者: つよけん
第1章「反魔王組織」
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門左衛門戦2

『詠唱省略!エアエリア!!』


 俺は咄嗟に無くなった右腕の激痛に耐えながら、左手に魔力を集中させて魔法を発動した。

 無理にでもやらなければ全てを凍らす門左衛門のブレスが、有無を言わずに自分に襲い掛かってくる。

 風属性の初級魔法の効力で、ブレスが触れる直前に空気の壁を張った。


「やっぱり……小さすぎるか!」


 エアエリアの範囲は人の1人分よりやや大きめに発動するのだが、ブレスはそれ以上の範囲の大きさがあった。

 そのまま青い炎は空気の壁ごと侵食していき、覆いかぶさる様にして瞬時に凍り付かせている。

 だからと言ってここで諦めてしまうのか?……大丈夫だ……問題ない……。

 別に何も考えずにエアエリアを、ただ単に発動させたわけじゃない。

 ちゃんとした理由があっての発動だ!

 俺は空気の壁が完全にブレスに飲み込まれる寸前に、その壁を強く踏みしめる。

 足元の安定感を見極めてから、強く前に踏み出して一気にブレスの外へと飛び出していった。

 間一髪の所で元居た場所は青い炎で覆いつくされる。

 何とか全てを凍てつかせる恐怖からは、脱出成功と言った所だろうか……。

 まだまだ悠長な事を言っている暇は無いのだけどね……。


「ぐぁっ!」


 恐怖から、少しは安心感へ変わっていくと共に、思い出したように左腕の切断部分に激痛が走った。

 無意識的に左手は右肩の切断部分に触れる。


「冷っ!!」


 触れたと同時に痛さとは別の意外性のある感覚に思わず声が漏れてしまった。

 見たくは無いのだが……恐る恐る切断部分を自分の目で確認してみる。

 先程まで血が止めどなく流れていた切断部分は、どうやら綺麗に真っ赤に固って凍っているようだった。

 やはり魔法発動を右手から左手に変える初動の差が、完全にブレス攻撃を防げなかったと言う要因の1つだろう……。

 しかし、逆に考えて凍っていた方が戦いにおいては好都合である。

 痛みは消えないが血液を垂れ流して消耗しきった時の、気を失うリスクが無いと言う利点があるのだ。

 端から腕一本無くなってるわけだから、利点も糞もない話なのではあるが……。

 こんな状況になると分かっていれば、回復系魔法の熟練度をちゃんと上げとくべきだったと後悔する。

 片腕の残骸さえあればウィルで完全回復するし、見つからなければ止血程度に傷口は簡単に塞ぐ事が可能だ。

 だけど……詠唱省略が出来ない魔法なんて、ただの敵に対する恰好の的である。


 俺はもう一度『エアエリア』を発動させると、門左衛門のいる方向へと戻っていき地上へ着地する。

 門左衛門もこちらの動きに一早く気付き、追撃準備にとりかかっている模様。

 俺の背筋からブルブルっと身震いが襲い掛かって来た。

 別に恐怖からくる身震いではない……。

 単に門左衛門の吐く息に支配された空間が、俺の表面温度を一気に低下させてのものだ。

 妙に研ぎ澄まされた寒い空間に、自分の吐く息が綺麗に白く輝いている。

 考える暇はなさそうだ……ノープランで門左衛門と渡り合うしか今は方法がないな……。

 そう思って俺は一呼吸ついた後に門左衛門の無力化を念頭に置いて、左側へと回り込むように大きく高速移動を始めた。

 その直後に俺を追いかけるように、青い炎が追走してくる。

 ブレスの間隔は通常の赤い炎と同じ感覚で、放つ・溜める・放つと言った具合にパターンが構成されていた。

 結局は自分が作ったドラゴンの攻撃パターンと同じ汎用型と言う事か。

 ただ炎が熱いか冷たいかの差だけだよな……。

 見た事のない技だったので動揺していたが、種が分かってしまえばそんなに難しい事ではない……。

 問題があるとするならば……。

 俺は青い炎が弱まるタイミングを見計らい、一気に門左衛門の懐へと高速移動する。

 近距離まで近づいたら、まずここで一旦バックステップだ。

 俺が下がった瞬間に目の前で、門左衛門の鋭利な爪がギリギリの所を通過していった。

 爪が過ぎた事を見計らって、直ぐに俺は門左衛門の首元へ拳を立てた。

 ガフッ!

 ドラム缶のような金属に、拳を叩きつけたような音がする。


「痛っ!!やっぱり、固すぎだ!」


 圧倒的にこちら側の攻撃手段が不足している事であった……。

 ヒットアンドアウェーの応用で、すぐに高速移動していた場所まで戻っていき先程と逆回りに走り出す。

 俺の行動を追うようにして、門左衛門は青い炎を吐き出し追走した。

 このパターンに入れば少し余裕も出来る……。

 何とか門左衛門にダメージを与えられる方法や、この場を切り抜ける策を練らないと……。

 ふと門左衛門の向こう側のナナを通り越した反対側の情景に、クレアが必死に盗賊と戦いながら頂上に辿り着いた光景が目に飛び込んでくる。

 あいつらどれだけ数がいるんだ……。

 そんな事を思っていると、唐突に頭の上に電球が浮かんだような気がした。

 あの盗賊達を囮にして、この場から一時離脱する事なら出来るんじゃないだろうか……。

 ツベコベと考えてる暇もない……今は出来る可能性があるならチャレンジしよう。

 俺はもう一度門左衛門の懐に潜り込んむ。

 同じようにバックステップで爪を回避してから、次に攻撃をするのではなく宙に浮いている門左衛門の右翼の下を勢いよくすり抜ける。

 この後のしっぽでの攻撃も予測済みだ!

 難なくテイル攻撃を避けると、俺はクレアのいる方向へ魔法を放った。


『詠唱省略!サンダーレイン!!』


 雷属性の中級魔法を放った上空が、どす黒い雲に覆われる。発動位置はまずまずかな……。

 この魔法は範囲と威力には問題が無いのだが、発動までの時間が少々長引いてしまうデメリットがあった。

 今はそのデメリットを大いに利用させてもらわないと……。

 俺はクレアに向かって大声で叫んだ。


「クレア!!そいつらの事を無視して、ナナと俺の方向へ全力で走って来い!!」


 クレアはこちらに気付き、盗賊の攻撃の隙を見計らいこちらを確認している。

 その際に俺は指を上に向けてどす黒い雲の存在を彼女へと必死に伝えていた。

 意図を汲んでくれたようでクレアは上空をチラ見した後、慌てた様子でこちらへと全力で走りだす。


「待て!この女ぁ!!」


 1人の盗賊がクレアを逃がさないと腕を掴もうとするが、寸前のところで空をきり全力で逃げるクレアには一歩届かなかった。

 そんな盗賊達に彼女は可愛く舌を出しながら、からかう様にして更にスピードを上げる。

 その直後に盗賊達の一辺は、止めどなく無数の電撃が降り注ぐ。

 一応死なない程度に手加減はしたつもりだけど……改めて盗賊達の悲鳴を聞くとおぞましい事をした気がした。

 咄嗟の足止めのつもりだったんだ……許してくれよ。

 俺とクレアは同時にナナの元へと到達した。


「貴方!腕が無いじゃない!!」

「あぁ……痛くて死にそうだ」


 心配そうにクレアが尋ねると、それを俺は一言で回答して門左衛門のいる方向を見た。

 労わって欲しい事は山々なんだけど、今はそんな事をしてもらっている暇はない。

 門左衛門はこちらに向かって攻撃態勢に入っていた。


「おい!ナナ!しっかりしろ!」


 俺はナナに強く呼びかけをする。しかし、なにも反応が返ってこない……。

 俺達が近くに来た事さえも気付いていないらしく、やはり一点を見つめてボーっと突っ立っているだけだ。

 その間にも門左衛門は大きく口を開き、青い炎をこちらへと向けて吐いていた。


「クレア!ナナを担いで盗賊のいた方向へ逃げるぞ!」

「えっ?また何でそっち側に??」


 青い炎は待ったなしに距離を詰められていく。

 クレアも説明など待っていたら青い炎に巻かれると思い、すぐにナナを担ごうとするが……。


「あ、あれ?全然動かないよ?」


 俺も確認するがナナと地面が一体化しているみたいで、まったく微動だにしなかった。

 そんな事をやっている間にも、青い炎は俺達を飲み込もうとしている。

 くそ!俺の采配ミスだ……。最終手段を使う……ごめん……ナナ……俺は門左衛門を殺してしまうかもしれない……。

 俺は右手に魔力を集中させる。


『詠唱省略!……』


 俺が聖霊のヴォルトを呼び出そうとした瞬間だった。


「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 図太い大きな低音の声を辺りにまき散らした後、ドラム缶とドラム缶が力いっぱいぶつかり合うような凄い衝撃音がピッチ山全体に鳴り響いた。

 その音が鳴った直後、青い炎は弱々しく俺達の目の前で鎮火していく。


「まあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 苦しそうに重低音で叫ぶ門左衛門の姿が目に飛び込んでくる。

 一体、なにが起こったんだ?

 俺は状況を飲み込めない状態で、周囲をキョロキョロと見渡していた。

 先にクレアが何かを発見したようで、門左衛門の方へと指をさして呟く。


「お、お父様……」


 ま、まさか!と思い……クレアの指す方向へと顔を向けると……。

 上半身裸で筋肉を強調した髭を蓄えたおじさんが、門左衛門の首元に自前のドデカい剣を重ね合わせていた。

 間違いなく……奴はナナの父親のストロガーヌで間違いない……。

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