第五話 世界を街道でつなげよう!
「Mさん?」
「ん……」
「南西の小さな村で、餓死者が出ちゃった」
「なん…、だと? ちょっと拡大してみてくれ!!」
「うん」
Rはカメラをズームインして、南西の大陸の一番南の小さな村の、貧しそうな小屋の中の人物をクローズアップした。その人物はぴくりとも動かない。ただの屍のようだ。
「モブは疲れ知らずじゃなかったのか……?」
「疲れ知らずと、不老不死は別ものだよ、Mさん」
「ぬううう……」
美少女(?)天然女子高生の、Rごときに論破されたMは、ちょっといらっと来たが、気を取り直していつものように、冷静に分析する。
・コンピューターゲームの仮想世界なら、モブキャラが餓死するなんてありえないこと。つまりこの世界は、コンピューターゲームのようなシステムではない。ただ、それはRがコンピューターゲームの世界観を知らないからという可能性は否定できない。
・なぜ南西の島なのか。たぶんそれは、交易がうまくいってないから……。は!!
「おい、R!! 街道を設置しろと言ったろ!!」
「え?」
「この南西の大陸の村は、南極に近く農業は出来ない。植物も生えないから船も作れない。あるのは魔法鉱石が取れる鉱山だけだ。しかもそこには鉱石を餌とする、硬い殻を持つエビやカニの化け物がいるし、ファイヤブレスを吐くファイヤードラゴンもいる。どう考えても庶民では採掘は出来ない。これでは餓死して当然だな」
「うう……、そうなんだ……」
「まず時間を止めろ、その後ゆっくり考えよう」
「うん……」
時が止まった。Rはいろんな角度から、ポニーテール惑星を眺める。
「ほんとだ……、危険な山や森や、谷や海を越えないと、農家のある村にまで行けないんだね」
「うん、そうだ。街道が出来ることによって、商人がいろんな町や村の特産物を運ぶことで、貿易を発展させていく。それが文明や文化、風習などを各地に伝え、人間は急速に発展していくんだ。そうしないと人間はいつまでも最弱モンスター、スライムのままなのだ」
「ウィザードリィというゲームでは、スライムは結構厄介な敵だったけどね」
「まあ、ね……。日本ではスライムは最弱キャラとして名高いが、海外では結構な厄介物だな」
「うんうん」
なぜRがウィザードリィを知ってる……?、とMは訝ったが、たぶんインターネット上の動画での、ゲーム配信でも見たのだろう。Mがそんなことを考えている間に、Rは着々と、お城や町や村、洞穴の入口などの間を、黄色い道(街道)でつなぎ始めていた。MはそんなRの様子をみて、自分もやってみたくてうずうずしたが、ここはRに任せておくしかない。なぜなら、この世界の女神はRだから。
街道の敷設と同時に、狩人や商人、冒険者達が、わらわらと道を歩き始め、大渋滞が発生した。
「Mさん、すごいよ!! 街道が活気に溢れ始めたよ!!」
「そうだな」
餓死者は一人出してしまったが、それ以降は順調だった。鉱石が取引され、金属に精錬され、お弁当箱に加工され販売されることによって、冒険者達は街道を離れて旅することが可能となった。魔法石が販売され精錬されて魔法ギルドに買い取られることによって、魔法の研究が盛んとなった。こういったことが、人類を発展させるイノベーションが、街道を使うことで次々と突破されていった。世界はみるみるうちに、活気づき始めた。
「すごい……」
Rは女性が宝石でも見つめるかのように、うっとりとした目で「ポニーテール惑星」を眺めた。その目はきらきらと、新たな野望に萌えていた。