第二十二話 中ボス、球状まりも出現!
「R……、駄目だ。また異世界憲法というアイテムが登録されて、しかもロックされてしまった。しかも一条に、とんでもない条文を書かれてしまった。そろそろこの世界をリセットしないと駄目かもしれない」Mが言った。
「そうなの?」Rは設定画面を覗きこむ。
第一条 この宇宙のいかなる者も、球状まりもの承諾を得ずして、その理を変更することを禁ずる!
「ふうん……。でもMさん、これってただの、アイテムの説明欄だよね。ここに書いた設定が、すぐにこの世界に適用されるわけじゃないかもしれないよね?」
「まぁ、それはそうなんだが、さっき俺達の憲法を書き変えようようとしたが、うまくいかなかったんだ。この第一条のせいじゃないかと思うんだが…」
「うーん、そうかも。だとしたら、ほんとにリセットした方がいいね」
アンノが心配そうな顔でRに尋ねた。
「R様。私はどうなるのでしょう? R様にお造り頂いた身だから、R様によって消滅させられるのも、本望なのですけど、できたら私もリセット後の世界に、お伴させていただきたいのですが」
「うん、いいよ!」 Rは右手で「いいね」のサインを作り、アンノに向かって突き出した。
「ありがとうございます!!」
「じゃあ、アンノ君には少し小さくなってもらうね」
Rは右手で三叉の矛を作りアンノに向けた。アンノの身体が、みるみる縮み始める。Rは両手を広げて、自分の身体を見回した。やがてアンノの身体は小さなカプセルに閉じ込められ、動かなくなった。Rは宙に浮かぶそのカプセルを右手でとり、ごくりと飲んだ。
(飲むのかwww) Mが突っ込みを入れた。
「じゃあ、リセットするよ、いいね!」Rは右手を天に向けた。
「ああ」Mが答えた。
Rの右手から、ぎらぎらと変化する七色の光が放射され、世界を包んだ。銀色の泡状の輝きが、そこに重なる。
「きれい……」
「ああ……」
白い光が周囲を包み、それが少しずつおさまり、やがて周囲を闇が包んだ。
「あれ?」
Rがキョロキョロと辺りを見回して、首をかしげた。
「変わってないね」
「むう……。まさかリセットするにも、まりもとやらの許可が必要なのか……」
「ええーーー、それは酷いね!」(どうしよう……)Rはやっと状況を飲み込めたようだ。
(うーーん……)お手上げだな、とはMには言えなかった。そんな二人のセンサーに、前方から近づく何かが感知された。
(R……、前から何かくるぞ)
(うん……。嫌な気配だね)
MはRを落とさないよう注意を払いながら、右目に全神経を集中させる。
(見えた……。黒い下着のようなエロい衣装を着た女だ。歳はRと同じくらいかな)
(そうなんだ、若いんだね! でもエロい衣装は、どうかと思うけどねw)
キラッ、と、女は闇の中に赤い光を放った。Rにもそれが目視できた。Rの目にも、ゆらり、と赤い光が走る。だがRはまだ自制は失ってはいない。赤い光が近づいてくるのを、冷静に見守った。やがて光は少女の姿を見せはじめ、MとRの前で止まった。じろり、とMとRをにらむ少女。一番最初に口を開いたのはRだった。
「こんばんは、あなたがまりもさん? かわいい衣装だねw」
むっとした表情を浮かべる少女。彼女が右手で四角を描くと、そこに設定画面が開いた。Rから眼をそらさず少女は画面を操作した。手慣れたその扱いを見てMの額に焦りの汗がにじむ。
(R、こいつを俺の技で異空間に閉じ込めようか)
(待って……、まだこの人が敵かどうか、わからないよね)
(いやいや、この目には明らかに敵意が宿ってるぞ……)
そんなMの思考が読めているかのように、少女はぎろり、と視線をくれた。Mは震え上がった。その間にも少女は設定画面を操作していた。彼女は「球状まりもの異世界憲法」を開き、第二条を書き込んでいる最中だった。
その透明な設定画面の文字を、Mは裏側から読んでいった。
(第二条……、女神Rは、球状まりもよりも、エロい衣装しか身に付けられないものとする……、だと???)
にやり、と不気味に笑う少女。Mは慌てて右手を上げて叫んだ。
「八塩折!」
ヤシオリとは遠い遠い時代に、ヤマタノオロチを昏倒させたという、強い酒の名称である。その名を持つこの技は、睡眠効果、催眠効果、弱い催淫効果などを与えることが出来る。Mはヤシオリをこの少女に使い、一瞬にして昏睡させようと企てたのだ! 少女の指が速いか、Mの技の詠唱が速いか!! Rは目をきらっと輝かせながら、この数ミリ秒の間の勝負を、笑みを浮かべながら見守っていた。




