第二十一話 勇者がラスボス、だと? いやそれ以前に中ボスがチートだと?
前門の虎後門の狼。
と、いう状況にすると面白いけど……、さて、どうしようかなぁw
「Mさん?」
「ん?」
スクリプトを作り始めたRが、ものすごい勢いでソフトウェアキーボードに入力しながら言う。
「後ろから何かが、高速に接近中。何なのかわかる?」
「え?」
Mは背後に意識を集中するが、小鳥のような小さな生物が急速に近づいているような気配しか、感じ取ることは出来ない。
「小さな鳥のようだが、正体はわからないな。スピードが異常に速い。警戒しておいた方が良さそうだ」
Mは背後に向き直り、目に意識を集中し、その機能を高めた。
「見えた……、アンノがこちらに高速で飛んで来ている」
「そうなの! じゃあ問題ないね」
(いや……)、Mは思った。アンノにも空を飛ぶ能力があるなんて、いくら勇者とは言え、チートすぎるだろwww 突っ込みを入れたMであったが、Rは反応しなかった。不穏な気配を感じ、MはRの表情を盗み見た。Rの目は何かの決意に輝き、その口元には笑みが浮かんでいた。
(R……、何を考えてる?)
(ん?)
(お前の目に、尋常じゃない決意の輝きが見て取れるんだが……、何を考えてる?)
Mの目を、ちらっと見るR。その眼が妖しく輝く。
(この世界の本当のラスボスは、アンノ君にしようと思うの。そのために、アンノ君には色々と覚えておいてもらわないとね)
(何??)
混乱するM。そんなMとRに向かって、アンノが接近し、急ブレーキをかけた。
「女神様! スライムと戦ってレベルアップして、勇者限定スキル、『飛行』を覚えてきました!! 私もぜひ、ボス戦に参加させてください!」
「うん、大歓迎だよ。いっしょに中ボスを倒して、経験値をゲットしようね!」
「はい!」アンノの目がキラキラと輝き、コイーン、コイーン、という音がして、Rの信仰度が上がった。MはRを左腕に抱え、困ったような表情をしていた。なんだこの展開は!! 俺の出番がほとんどないじゃないか!!
(大丈夫だいじょうぶ、私とアンノ君がやってるのは、戦闘ごっこ、ただのロールプレイングゲームだから。本当の戦闘は、Mさんにお任せだよ)
(それはそれで、どうかと思うが……)
ピッ!! Rがスクリプトの実行を開始した。中ボス、「球状まりも」が設定したダミーアイテムが削除され、Rの設定したダミーアイテムに、置き換えられていく。しかもそれには、Rによるロックがかけられている。
「スクリプト実行開始! これで安心だね!」
だがMの不安は消えない。
「R……、ちょっとやっておきたいことがあるんだが、もう一度身体を借りてもいいかな?」
「う、うん……」
Mは「Rのダミーアイテム」、と名づけられた設定を開き、「MとRの異世界憲法」と名前を変え、「第一条 この宇宙はRが作ったものであり、何よりもRの意志が尊重される」、と設定してエンターキーを押した。
ピ! エラー……、設定に矛盾があります。
命令を拒絶します。
「なに?!!」
Mは慌てて設定を書きかえる。「第一条 この宇宙はRが作ったものであり、Rの意見が最大限尊重される」
ピ! エラー……、設定に矛盾があります。
命令を拒絶します。
Mは画面をアイテムリストに切り替え、「憲法」で検索した。
2件ヒットしました。
(1)MとRの異世界憲法
(2)球状まりもの異世界憲法
「しまった……、ちょっとチンタラしすぎた!!」Mは歯軋りした。
「この、球状まりもというのが、当面の中ボスなのですね?」アンノが言った。
「うん。でも大丈夫、私とMさんと、それにアンノ君までいれば、余裕で勝利まちがいなしだよ!」
「ですね!!」
Mは恐る恐る、「球状まりもの異世界憲法」を開いて第一条を確認してみた。
第一条 この宇宙のいかなる者も、球状まりもの承諾を得ずして、その理を変更することを禁ずる!
(こ、これは……、チートすぎだろ……)Mは眩暈を覚えた。そんなMの気持ちを知ってか知らずか、Rとアンノは遠足気分で浮かれていた。Mは頭を抱えた。




