第二十話 激突、異世界憲法の神vsMとR
(Mさん、なぜ次は異世界憲法の神と戦うの?)
Mの左腕に座り、髪を風になびかせているRが言った。なぜ念話なのかというと、高速で飛んでいるために、声での会話だと声を張らないといけないからだ。
(簡単なことだ。考えてみろ)
(うん……、三柱の神の中で、一番弱そうだから、かな?)
(正解だ)
(えへへ)
東に黒々と、切り立った山脈が見える。それを超えれば砂漠が見えてくるはずだ。時刻はちょうど0:00を過ぎた頃か。この惑星は地球とほぼ同じ自転及び公転を取っており、1日は24時間、1年は365日だ。朝日が昇るまでには、6時間ほど。Mはその間に、可能であれば3柱の神に、奇襲を仕掛けて全員滅ぼそうと考えていた。
(Mさん?)
(ん?)
(相手のこと知らないで、戦闘しちゃっていいの? さっきも全滅しちゃったばかりでしょ?)
(そう……、だな。だがそれは向こうも同じだ。あれこれ情報収集なんてしてたら、奇襲にならないだろ?)
(でも移動しながらでも、さっきみたいに、設定画面で色々情報収集も出来るよね。やってみようか?)
(ああ! そうだな。さっき地の王の名前を見れたんだっけか。異世界憲法の神の名前と、設定したルールを知ることが出来たら、相手のことを少しは知ることが出来るかもしれないな。お願いしてもいいかな?)
(うん、オッケーだよ!)
Rがうれしそうに心の中で叫んだ。さっき勇者アンノを死に至らしめてしまってから、Rは女神としての自信を喪失してしまっていたが、少しはその気持ちが晴れたっぽかった。
(R、お前はよくやってる。あまり落ち込むな。お前やアンノに何のアドバイスもしなかった俺も悪かったのだからな)
(うん、ありがと)
Rは右手を上げ「設定画面」を開き、スクロールさせていった。ルールを変更した者の名前を表示しっぱなしにして、「R」以外の名前がないか、チェックしていく。
(ない……。Mさん、ないよ。地の王の名前はちらほら出てくるけど、他の神様の名前は出てこない……)
(ふむ……、じゃあ登録アイテムはどうかな? 少なくとも『異世界憲法』というアイテムは、登録されているはずだ)
(あ、そうだね……。あった!!)
Rは「異世界憲法」、という名前のアイテムの設定画面を開いてみた。「この世界のすべての神、キャラクター、守護獣、聖獣、幻獣、生物に影響を及ぼす」、というチェックがされ、「発動する効果」の所には、びっしりと憲法の本文が書かれていた。
(うわあ……)Rは画面を埋め尽くす文字を見て、気が遠くなりかけた。
(登録した神の名前は、どうなってる?)
(あ……、『球状まりも』になってるよ)
(球状……w)憲法九条に引っかけてるのかな、とMは考え苦笑した。
(で、ロックはかかってるかな。かかってなければ削除してしまえば、解決しないかな?)
(解決って?)
(「異世界憲法の第三条、ハーレム要素なき異世界は異世界にあらず」、というアレだよ。Rの作ったこの世界を、好き勝手にじられたくないからな)
(ロックは……、かかってないよ! 削除しちゃっていい?www)
(ああ、どうせろくな設定してないんだろうからなw)
(えい!)、Rはアイテム「異世界憲法」を、画面右下のゴミ箱にドラッグ&ドロップした。復元されないように、ロックをかけた上で、ゴミ箱の中で「異世界憲法」を開き、読んでみる。
『第一条 この世界にある全事象は、私、球状まりもが支配する』
(えwwwwww)
(ロックされてたら危なかったな……w)再びMが苦笑する。
(これ、結構すごいチート技だね。私も使おうかな?)
(そうだな……。Rオリジナルの憲法を登録して、ロックをかけて、他の憲法の登録を封じてしまえばそれで解決かも……)
Rは「MとRの異世界憲法」、というアイテムを登録しようとしたが、画面には「エラー」という文字が表示された。
(エラーしたよ……)
(むう……、登録されてるアイテムの数はどうなってる?)
(……。10億個……。ほとんど全部、まりもっていう人が登録したもので、「ダミー」って書かれていて、何の効果もないアイテムばっかりだよ)
(ほう……。何個登録できるか確認でもしようとしたのかな。用意周到な敵だが、どこかネジが一本抜けてるな。そのダミーアイテム、たぶんロックはかかってないよな?)
(うん……w)
(全部削除して、替りのダミーアイテムを10億個登録して、全部ロックをかけろwww)
(10億個、ひいいいい!! 了解だよ)
Rがアイテムを一個一個、ちまちまと消していくのを見ながらMは思う。たぶんこれは、スクリプトか何かで一括登録したのだろう。だとしたら俺が設定してやった方が速いし、Rのためでもある。
(待て。俺がやる。ちょっとRの身体を貸してくれ)
(う、うん……、いいけど、身体を貸すって?)
(こうだ)
(あ……)
Rの身体が、Rの意志とは無関係に動き始めた。画面右下のいくつかのアイコンのうちの一つを押し、ソフトウエアキーボードを表示させ、それをすごい勢いで打ち始める。
(Mさん。すごいね……)
(まあ、俺が努力して習得したわけじゃない。阿頼耶識から他の者の記憶をいただいただけだ)
(あ、じゃあもしかして、私も出来るのかも?)
(あ、そうだった! Rは阿頼耶識の知識すべてを記憶してるんだったな)
(うん、やってみるね)
(ああ)
Rは右手を上げ、人差し指を天に向けた。銀色の光がそこに集中し、Rの意識は阿頼耶識とつながった。
(わかったよ、スクリプトを書いて、自動で設定しちゃえばいいんだね!!)
(そうだ、がんばれ!)
急げばもう少しで砂漠の町に着くだろう。だが今は少し待った方が良さそうだ。Rのスキルがアップすれば、これからの戦いも楽になるはずだ。そうMは考え、飛行スピードをこっそりと落とした。




