第一話 フィールドマップを作ろう
まずRは、何もない空間を宇宙で満たし、そこに太陽と、いくつかの惑星を置いた。ちょっと気を許すと、惑星の軌道がおかしなことになったが、そこは女神のパワーを使ってなんとかした。惑星は、いい感じにその運行を進めた。
「夜空の星もないとさみしいよね……」
Mは応えなかった。彼はRの心の中で、茫然となって横たわっていた。千年以上にも及ぶ、女神との長いバトルから解放されたことによる、燃え尽き症候群だった。
「Mさん? 大丈夫?」
「ん? あ、ああ……」
大丈夫ではなかった。Mは無気力に、Rの心の中でごろごろとしていた。だがRには今は、何もできなかった。
「この世界が順調に回り始めたら、女神さんも作ってあげるからね」
まるで子供をなだめるかのようなRの発言は、新たな女神としての自覚もゼロだった。Rは女子高生気分のままで、鼻歌を歌いながら、この異世界を創造していった。地球に似た惑星を手のひらの上に浮かべ、くるくると回しながら、フィールドを作っていく。海底が隆起して陸となり、さらに山や谷やくぼ地が出来た。そのまま眺めていると、雨が大地に注がれ、川や湖や沼が出来た。これもまたいい感じだ。
「Mさん、すごい?」
「あ、ああ……」
Mの生返事。だがRは気にしない。惑星をそっと元の軌道に戻し、しばらく観察した。
「あれ? もう生き物が……」
何かが海をピコピコと動いている。Mは、むく、と起き上がり、Rの目を通してそれを眺めた。生まれたのは地球の原初の生物とほぼ同じ、単細胞生物であった。Rが時間の進みを速めているのか、みるみるうちに生物は進化し、光合成をおこなうシアノバクテリアとなった。これにより、地球は酸素に満たされていった。
大陸の形状は、パンゲア大陸に似ている。地球ではパンゲア大陸が分裂して、6つの巨大な大陸が生まれたのだった。果たしてこの、Rが作った惑星ではどうなるのか。
時がどんどん過ぎ去っていく。植物が地上に生い茂り、陸地を緑に変えていった。やがてプレートテクトニクスにより、大陸が割れはじめた。大陸の分化は地球とは全く違った形で行われた。もしここに人間が生まれたとしたら、恐らく地球とは全く違う位置に文明が生まれ、違った形で戦争が起こり、違った形で進化してくことになるのだろう。もしかしたら宗教も異なるものになるになるかもしれない。
「そろそろ建物を……っと」
そう言ってRは時間の進みを遅くし、少し身体を小さくしてその惑星の上空を飛びながら、橋や、町や村、お城などを置いていった。気にいらなかったら一瞬で撤去して、もう一度置けるから簡単だ。惑星はみるみる、RPGのフィールドっぽさを増していった。
ここまで来るとMも興味津々で、Rの仕事を眺めていた。もともとMにも、あたらしもの好き、なんでもやりたがりな部分あり、そんな気持ちが大きくなって、Rに口を出したくてしょうがないという状況となっていた。
(違う……、そうじゃない……。水源に文明を……、その後文明の間に街道を作るのだ……。ああ、じれったい! そこじゃないだろ!)
Rが首をかしげながら、町や村を、置いたり消したりしている。それはともかく、これで異世界の舞台であるフィールドは、無事完成したのだ。