第十四話 旅の支度と「アーマー・アーツ」の噂
プロットや結末なんて、全く考えずに書いていることに、お気づきだろうかw
だが、それがいい。
Rは少し退屈し始めていたので、勇者アンノと仲間たちの旅立ちを、急がせることにした。まずRはアンノに、旅立ちのための準備は今日の昼までに行い、昼食を食べ次第、北の港町に向けて出発します、と宣言させた。
「え……、そんなに早くに……」 ミコン姫が驚いたが、すぐにうれしそうな表情になった。
その後の展開は早かった。お城の者達は大慌てで、アンノ、ミコン姫、そして赤毛の兵士のための旅の支度を始めた。城下の町には、さほど洗練はされていないながらも得意なスキルを提供する「職業」というものが存在し、それを町のため、お城のため、国家のために、提供していたが、その中からいくつかの職業の者達が集められた。雑貨屋、武器職人、防具職人、裁縫師、武芸者、格闘家、魔術師、僧侶、冒険者、芸術家、発明家、ライター、遊び人、宿屋の主人、などであった。もちろん興味本位でわいわい集まってきただけの、無職の者達もいて、お城の前の広場は、まるで市場のようににぎわっていた。
アンノは商人からキャンプ用品、雑貨、食料などを購入した。購入、と言ってもお金は必要ない。この世界では、感謝の言葉と笑顔が何よりの報酬であり、また今回の件で言えば、「港町の調査」、という目的が達成されれば良いのであり、そのための手段を彼らは喜んで勇者アンノに提供するつもりなのだ。
次にアンノは、魔術師たちから役立ちそうな魔法を封印したカードを教えてもらった。特に最初に教えてもらったカード、「セーフボックス」は便利で、容量無限の透明な金庫を、どこでも自由に使えるようになるというものだった。3人はそのカードを使い、セーフボックスをひとつづつ身に付け、さきほど購入したアイテムを収納した。
「攻撃のための魔法はないの?」
「インスタントの攻撃魔法なら、カードでも可能ですが、スキルとして身に付けるなら、体力の半分を魔力というものに還元するための、手術を受けなければなりません」
「ほう……、その手術は簡単にできるの?」
「ええ……。ただ手術をしてから数日は、激しい運動や魔法の使用は禁止、お風呂も禁止、となります。一回手術をすると、二度と元には戻せません。通常の体力と違い、魔力は粉末にした魔法石の吸引でしか回復できません。手術はこの町だけでなく、大きな町の魔術師ギルドなら、できると思います」
出発までの時間がないこともあり、魔術師はできるだけ簡単に説明した。アンノはそれを理解した上で、今は手術は保留しておこうと決めた。
「わかった。じゃあ攻撃用のインスタント魔法カードを、あるだけいただこうかな」
「はい! ご準備いたします! 効果はカードに書かれていますが、ひとつだけ注意があります。インスタント魔法は、カードを持ってさえいれば使うことが出来ます。魔王やその手下に、奪われないように充分注意です」
「なるほど、わかった、ありがとう」
アンノは、ミコン姫と赤毛の兵士を見た。二人も深く頷いた。裁縫師たちが、アンノの、そしてミコン姫の服の、身体のサイズやスタイルとの不一致に気づき、大慌てで寸法を測り、必要な衣類一式を作り始めた。ものすごい手際の良さだ。恐らく出発までには完成するだろ。
(あ……、赤毛の子も八頭身にしたいな……。でもそうすると、鎧を作り直さないとだね……)
(だな……。そうだ、この子を姫と同じ体格にすれば、同じ服を使いまわせるな)
(そうだね……、でもそれだとキャラに個性が出来ないからね……、うーん、しょうがない。鎧のサイズは私のパワーでなんとかするよ)
(うん、それが出来るならそれでもいいかもしれないな)
アンノは冒険家のブース(?)に近づいた、そこには他の町の特産品やドライフラワー、スケッチや貴重な鉱物などが展示されている。アンノは大量におかれたパンフレットに気づき、それを手にした。2つ折りとなったパンフをペラ、とめくると、見開きでこの大陸の地図が、簡単にではあるが書かれていた。
「この地図……、私達が今いるこの町は、どこにあたるのかな?」勇者が店員(?)に尋ねた。
「ええと、ここですね。草原の町」
(草原の町……、ちょっとカッコ悪い名前だね)Rが苦笑した。
(まあ、センスのないNPCが自分で付けたら、こうなるんだろうな。名前の変更も、設定で出来るんだろう?)
(うん、たぶんね。でも今は準備に集中だね)
「草原の町、か……。じゃあ武器は取り回しやすい、小型で軽いものがいいな」 アンノはそう言って武器屋のブース(?)に向かった。店員は言った。
「選ぶ必要はないぜ。3本ずつ用意した。全部持ってきな。どうせセーフボックスに入れていくんだろう?」
「ええ、そうさせていただきます。次は防具……」
防具屋のブース(?)には、RPGの序盤に出てきそうな、革製の防具がずらりと並べられていた。だがどれもサイズが小さい。
「これは……、妖精用の防具かな?」
「いえいえ、これは最近ある町で防具屋を始めたある男の発明品で、エアボーグ、と呼ばれる名のある製品ですぜ、だんな」
「エアボーグ……」
エアボーグ、それは「身に付ける」のではなく、防具自らが身体に合わせて変形し、身体を包み込むようなものだった。試しにアンノが革の小手を腕に近づけ、赤いボタンを押すと、小手はシュッという軽い音とともに、腕に装着された。一瞬の出来事だった。
「すごいなこれは!!」
「でしょう、えっへっへ」
「この技術を使えば、衣類や鎧もサイズやスタイルを気にせず購入できるが、そういう応用は、可能かのかな?」
「もちろん! そういうバリエーションも、エアボーグのラインナップにはありますぜ。ただ、聞いた話だと既存の製品に魔法をかけて作るから、普通の製品よりも割高になってしまうとか、小さい鎧を身体の大きい人が付けると透けてしまったり、脆くなってしまうようなことも、あるみたいですぜ?」
「なるほど……。例えばこの兵士の金属の鎧を、エアボーグに加工して貰いたいとしたら、どうすればいい?」
「それは……。あっしには無理ですね。エアボーグの製造元、ボーグの町に行って、町のギルドの長、アーマー・アーツという男にかけあってみると、話が早いと思いますぜ」
アンノは、ペラ、と地図を取り出して眺めた。ボーグの町……、今いる草原の町からは西北西の海岸の近くにある町で、港町への旅の途中に立ち寄るには、少し回り道となるが……。
「わかった、行ってみるよ、ありがとう。この防具は一式頂いていいかな?」
「はい! 喜んで!!」
あまりガラが良くなさそうな喋りのこの防具屋の店主だが、勇者の目的達成に貢献できることに、本気で喜びを覚えているようで、多くの防具をまとめて勇者たちに渡すその店主の表情は、きらきらと輝いている。Rはそんな様子を見て心から喜んでいた。これだ……、地球にはなくてこの惑星にはあるキラキラは、これなんだ。でも魔王や「異世界憲法」の神は、そんなキラキラを望む私とは、対立する存在なのだろうか? できたら共存していきたいのだけれど……。
ぎゅうううううん……。エレキの音がした。エンディング曲の始まりだ。太陽は少しずつ南の空へと昇って行く。旅の準備にはもう少しかかるだろう。急がねば。裁縫師たちの針を持つ手の動きも速まる。お城の三階から、王と、王妃が窓から見おろしている。輝く太陽の下、勇者アンノに寄り添い、笑顔でブース(?)を覗きこむミコン姫を見て、王妃はハンカチでそっと涙を拭いた。王はそんな王妃の肩に、優しく手を添えた。アンノとミコンの終わらない冒険の旅は、今始まろうとしていた。




