第十三話 王の依頼と赤毛の女兵士と「異世界憲法」
夜明けとともにストーリーは動き始めた。アンノが王に呼ばれて謁見室へ行くと、そこには王とともに、法衣をつけたミコン姫と、鎧を着た一人の兵士(四頭身)が待っていた。アンノに追行してRも部屋に入った。どうやらRの姿は、アンノ以外には見えていないようだ。
アンノは膝をついて王に尋ねた。「王よ、どうされましたか?」
「そなた、昨日の夜の邪悪な気配は感じたな?」
「はい……。北の港町の方から、ですね」
「うむ。多くの者が心配し始めておる。この大陸に、何かよからぬものが棲みつき、何かが起ころうとしている、とな。勇者アンノよ。お前に真相を調べてもらい、可能ならそれを解決して欲しい」
「なるほど……。調査のための旅ですね。もちろんお受け致します。それで、そのお二方はなぜここに……」
「うむ。ミコン姫は、回復魔法のエキスパートじゃ。きっと先々お役にたてるであろうし、何より本人が、それを希望しておる。どうか旅のお供とさせてやって欲しい」
アンノはちらっと姫を見やった。その頬はバラ色に染まり、美しい瞳はうるんでいる。恋する乙女のような表情だ。そのスタイルが四頭身から八頭身に変っていることに、突っ込みを入れるものはいない。Rが昨日の夜、パワーを使って姫のスタイルを変更した時点で、すべての姫のスタイルについての設定が、書きかえられたのだろう。
「王よ、お言葉ですが、私には戦闘となった時に、姫を守り切れるかどうかわかりません」
「大丈夫だ。姫には護衛をつける。頼もしいこの国の兵じゃ。それで異存なかろう?」
兵士は兜を脱いで敬礼した。四頭身なのでわかりづらいが、どうやら女性キャラのようだ。あざやかな赤いショートヘヤーが美しい。アンノが不思議そうに言った。
「女性の兵とは……。危険な選択ですね。女性は子孫を残すための、貴重な国の宝では。それを護るのが男性の勤めであるはずですが、なぜあえて女性を兵士に?」
「ふむ、それはな。ハーレム要素じゃ」
「なるほど……。異世界憲法の第三条、ハーレム要素なき異世界は異世界にあらず、ですね」
「そうじゃ。ハーレム要素なき異世界は異世界にあらず、じゃ」
アンノは思う。四頭身キャラは、しょせんはモブキャラであり、主人公との間の親密な関係など発生する余地がなく、したがってハーレム要素と呼ぶにはふさわしくないのだが……。無表情に女兵士を見つめるアンノ。その視線に気づいて、ぽっと頬を赤らめた女兵士。恥らう女兵士を見て、萌えるR。Mはさっきアンノが言った、『異世界憲法』という言葉が気になっていた。Rがそんな設定をする所を見た記憶がMにはない。魔王と同じく、この世界に自然発生した、超霊的な何者かによる仕業だろうか?
(そうだよMさん。さっきこの惑星に、新しい神が誕生して、宇宙の設定を色々変えようとしているみたい)
(二人目の神……、か。Rを入れて三柱。アマテラスの言葉を信じるなら、以前の地球には七柱の神がいたそうだ。この惑星でも同じとするなら、あと四柱、か)
「アンノ様! ご心配なく、私は姫様にお仕えするために、幼い頃から武芸を学び、多くの格闘技をマスターしています。ご覧のとおりの四頭身キャラですから、手や足がぽっきりと折れることもしばしばですけど、我々の身体は、折れて鍛えられます。だからむしろそれも、私の強みであるのです。姫様があなたとお行きになるなら、どうか私にも、お伴させてください!」
兵士はアンノ同様に片膝をつき、アンノに向かって深く頭を下げた。
「アンノ様……、私からもお願いします。どうか私とこの子を、旅のお供とさせてください」
アンノはちら、とRを見た。これまでのアンノの顔には見られなかった、若干の不安の表情をRはそこに見てとった。
(大丈夫だよアンノ君。心配ないよ、私がついてるよ)
Rはにこりと笑って、大きくひとつうなづいた。アンノはそれを見て安心し、王に言った。
「わかりました。しばらくお二人をお預かりします。お二人はこの私が、命を賭けてお守りすることを誓います」
「うむ!」
状況はまったく良くはなっていない、どころか、新しい神らしきものの出現により、危機は増している。にもかかわらず、Rの表情は楽しそうだ。アンノはそんなRを見て思う。この人の笑顔を見ていると、すべてが信じられる気がする、と。その瞬間、Rのエネルギーが一気に増えた。軽やかなエレキギターとドラムの音が響き始め、いつものように、かっこいいエンディングムービーが始まった。




