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すぶろさー  作者: 長船
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ザイナブと出会った時

死者を送る炎が猛々しくも荘厳に闇夜を照らす。

遠巻きに集う村人の影が、風と共にゆらゆら踊る。

その村人の輪の中から、ふらふらと近づく娘を後ろから抱き留める。


「あそこには、君のお父さんも、お姉ちゃんもいない。

殺されてしまったお父さんが襲ってきたのは、抜け殻の体に悪いモノが入っていたからだ。

空き家に悪い人が忍びこむように。

襲ってきたのは、君の良いお父さんじゃない。

それに、お姉ちゃんが君をかばったのも、自分よりも君に生きていて欲しかったからだ。

だから、あそこに近づいてはいけない。

力いっぱい泣いて、叫んで、悲しんで、でも、君はあの火に近づいてはいけない。

あそこには、誰もいない」


無表情に、しかし食い入るように火を見つめる娘。


「あそこは、誰も、いない…」


「誰もいない。空き家だけだ。あそこにあるのは。

みんな、呼ばれてしまった。

君も私も、その呼ばれるまで生きなくちゃならない」


「誰に?」


「雲よりも高い、空の彼方の神々に。

もしかしたら、一生懸命に生きたら、ご褒美にまた、会えるかもしれない」


「・・・」


その小さな体から力が抜けたのを感じて助師の後輩に託す。



そして、改まって火壇に向き直り、手を広げる。

いつも通り、朗々と送る言葉が自分の口から流れていく。


「誰も死ぬまでは幸福ではない。

いかなる物も死は確実。時は分からずも。

逝きなさい。

神は貴方が孤独な時も、貴方を正しく見届ける。

貴方が積み重ねた全ての歩みは、今、此処に確かな証となる。

誰も死ぬまでは幸福ではない。

されば恨むなかれ、嘆くなかれ。

貴方はこれから大多数の下へ。

死したればこそ、今一度、自らを知って、今日を生きよ。

自然に歩めば、過ちなどはない」



・・・・・・・・・・・



ひと段落したところで、ベッドに腰をおろす。

いやー、死体がゾンビになるのも正直どうかって話だけれども、殺された父親が男手一つで育てていた子供に襲い掛かるとか、B級過ぎる。

ま、とりあえず朝片づけて昼食べたら帰還だな。

しゃーない、しゃーない。


「葬儀師様、宜しいですか?」


村長かな?この声は。

「どうぞー」


「葬儀師様、ほんにありがとぅございますん。お陰様でひとまず村もようやっと落っつけます。次の方はいかんに?」


「あぁ、次はいつもの巡礼葬儀師ですね…あぁ、3か月後に。安置所も明日の朝に再確認して、お昼を頂いてからお暇しようと思います」


「ほんにお世話んなります。ひと昔前は、こんなありへんかったんに。せちやらいに、神さんむたいやしもないし」


(せち…?駄目だ。分からん。辺境は訛りすぎだろ)

「まぁまぁ、そうは仰いますが、村長、神様たちも色々あるのでしょう。その、残された娘さんには少々、厳しいですが、まぁ、それもそれなりにある事です」


「葬儀師様、その、あの娘なんやすが」


「何か? …まさか自殺でも?」


「ややや!葬儀師様!違いん違いん。その、あの娘な、その自分の父親殺した言うて、その引き取れんのやすよ…村のみんな、その、縁悪い、言うて…」


「んん…成程?んー、そんなに、悪い娘なんです?」


「そんなそんな!その、あの娘が決して悪いゆーないんはワシらも分かってんのやけど。

その、神さんむたいやしもないとワシも思うんやすけどな、あの男、年の頭に妻をいんでからな、その、ひどくよろしゅなくなってもて自分の息子がいんだ妻に似とる言うて、

その、夜な夜な…。

あの娘もそんまで睦まじい兄妹やってんに、そんから俯いてじいっぅと父親、陰から見続けるようなっててな、その、悪いゆーないんは思うんけど、

なんで急にあの男、いんだんな?と思うと…」


(うっわ。クソ過ぎる。

っていうか姉妹じゃなかったのかよ)

「…」


「そんに、安置所でじいっぅと兄を昨日まで見続けとうてな、で、いんだ男を仕留めた猟師達がな、噛み跡と引っかき傷の他に刺されとるいうて…」


(偶に辺境は意味が分からないとは聞いていたけれども、うわー、繁華街と違って不意打ちで来る分、あー。しかも、本当かどうかなんてもう、どうしようもないし)

「んー、成程?」


「その、ここにおるより出家した方が、その、あの娘のためんなる思うて、その、葬儀師様、あの娘の事でもあるけど払えんやろし、それでどうやろ?

足りんはわしらで出しよんし」


(がめついと言うか、逞しいと言うか)

「さて、出家するかどうかはともかく、教会は奴隷売買は扱っておりませんから。死は誰に対しても平等です故。

それを払いにと言うのはきっと何かの聞き間違いでしょう。

我々はあの家族だけではなく貴方方皆を保証しておりますから、払いはきちんとしておいた方がよいと思いますよ?村長。

安置所や火壇があの家族の払いだったということなら、これでお終いになってしまいますよ?」


「や!葬儀師様、や、そんなん違いんに、その、どうも、でも、それがあの娘んもためんなる思うて、その」


「おー、成程。難しい問題です。あー、では、今から行って寝てなければあの娘に聞いてみましょう」


「あぁ、葬儀師様、起きとります。まだ起きとります。寝付けんみたいでじいっぅとしとります」


(見てきたのか、言い含めてきたのやら)



・・・・・・・・・・・



「いきます。…ついていきます」


「んー。

うん。村長も、代理殿も宜しいか?

…宜しいので?

それでは。

葬儀師ケータス=ナチと助師ムギーラ=ヤナグの名の下に、この者が、我らが神ヤタテバルナの門戸を叩いたことを此処に認める。

叩きし者よ。汝が名をなんと言う?」


「名前?」


「うん、名前。君の名前」


「ザイナブ」


「葬儀師様、その子の筋はコレッシです」


「うん。有難う。

それでは、門戸を叩きしザイナブ=コレッシよ。葬儀師ケータス=ナチと助師ムギーラ=ヤナグが門戸を開く。

貴方はこれより理を学びながら日々を生きよ。小さな歩みを積み重ね日々を生きよ。死を忘れず、歓びを厭わず、いつか呼ばれるその時まで。

我らを守護し嘉したもう神と神々よ、此処に貴方方の僕として世のためたらんと志す者を認めたまえ。

…うん、これでこの子は見習いです」


「ぉお。良ーだな、良ーだな」


「それでは、これからこの子の資産を確認することにします」


「な!葬儀師様!そりゃ、どーゆぅ事なん!ゆーて、そいつんやかて村ん物に」


「もちろん!もちろん、存じておりますとも。村の皆が協力して家を建て、土地を耕し、家畜を育てたということを。

そして、不幸と死についても協力していることも。

それでも、あの子が出家した以上、遺産は教会の管轄になりますから俗世の縁切りが必要なのです。

速やかに、確実に。

貴方方も、次代の教会とのわだかまりは作りたくはないでしょう?」

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