貫く考え
野村キュウレン Aクラスに二人存在する学級委員長の一人。成績は、七級で二番目の実力を持つ
授業が開始されて、二十分の時間が経過した。授業は一コマ一時間の為、三分の一が経過している事になる
依然、授業に参加しているのはAクラスの四名のみだ。
「はあぁぁぁぁ!」
三人は、依然として同じ攻撃パターンで秀村を責め立てていた。
時折、単独で仕掛けるデンシの影響もあり、秀村は魔法をこの二十分の間に計八回発動していた。
魔法には、制限がある。
魔法の発動には、二つの条件を満たしたときのみ、発動が出来る。
一つは、発動出来る魔法を会得していること。
もう一つは、魔法発動に必要となる体力だ。
魔法の発動時、大気中に存在するujr159を代謝して、人は魔法を発動出来る。
魔法の発動に成功すると、大量の体力を消費する。
その消費量は、発動する魔法により異なる。
秀村の魔法、「レッテンド」の消費量は一度につき五十メイクだ。
メイクとは、体内に存在する体力を現す単語である。
秀村の所有するメイク量は八千メイクだ。
メイクの回復手段は、自然回復のみである。
メイクの回復量は均一であり、六十秒につき百メイク回復する。
つまり秀村の現在のメイク量は減少していない。
つまり、四人が狙っている体力切れを待つ作戦は無意味だ。
それに対し、四人のメイク量はほぼ無くなりかけていた。
デンジャーの総メイク量は五百八十、来示の総メイク量は六百七十、クリュウの総メイク量は八百、デンシの総メイク量は八百七十だ。四人の戦いを傍観している野村の総メイク量は二百だ。
秀村は、生徒全員のメイク量を把握している。それは、進学直後に行われた身体測定検査だ。
身体測定検査は、学期の節目に開催される為、年に三回行われる。
そこで測るのは、身長、体重、視力、握力、そしてメイク量だ。
検査は担任と保険の先生で行われる。
保険の先生が担当する理由は、プライバシー保護の為だ。
体重、メイク量測定時、被験者は服を着用されることが許されない。
その為、女子の検査は同性である先生が行う。
だが、その結果は分り次第そのクラスの担任に譲渡される。
その機会を利用して、生徒の実力を把握している。
だが、その測定ではその者の扱える魔法の種類までは分らない。
それを把握するために、秀村は積極的に実技の授業を取り入れている。
それは、未来の兵士となる者達の情報を、少しでも把握するためだ。
だが、その情報をなかなか生徒達は出してくれなかった。
四人の魔法属性を知れたのは、幸運だった。
だが、その三人と、一人で突っ走るデンシを作戦にいれ、指揮する野村の存在が気になっていた。
メイク量が、クラスで一番少ない野村が、なぜ三人に慕われるのか?
四人の共通点は、実力至上主義であること以外、秀村は知らなかった。
四人の攻撃を回避し続けつつ、秀村は動きのない集団に目をやった。
集団では、二、三人の生徒が立ち上がり、説得している様子だった。
「おまえら、魔法を使える奴は手を上げろ」
Aクラスの生徒に向かって尋ねていたのは、クリスだった。
それを、傍らで見つめているのはハイナとナーイスだ。
この三人にも、共通点がある。それは、容姿が整っていることだった。
「おい、答えろよ」
威圧的な口調で問い詰めるクリスの言葉を無視し、Aクラスの生徒は前を見つめたまま反応する事は無かった。その反応に苛立つクリスは、再び尋ねる。
「おい、いい加減にしろよ、無視してんじゃねぇ!」
その言葉は、この日最大の声量だった。その時、
「うるさいです」
と、一人のAクラス生徒が口を開いた。クシナ・ラリュー。この七級において、高嶺の花という印象を持つ
少女だ。その生徒にBクラスの生徒が一斉に視線を向けた
AクラスとBクラス。教室は両隣にもかかわらず、今学期に入って、Aクラス生徒の言葉を聞くのは初めてだった。
「どういう意味だよ?」
眉をしからめ、クリスは問う。その問に、ラリューは視線を合わせずに答えた
「魔法なんて、誰にも教えてはいけない」
「何?」
「魔法を、大きな声で発言することは、愚かなことだと言ったの!」
「どういう意味だ?」
「あなたの魔法は[無発現]、右のあなたは[カンバリー]、左のあなたは[シュッチ]、そうですよね?」
「な、なんでお前が知ってるんだ?」
自分の魔法属性を言い当てられ、クリスは、Bクラスの全生徒は疑問の目をラリューに向けた
「もし、この中に裏切り者が居た場合、情報が漏洩するのよ。あなたは、赤の手先なのかしら?」
「なんで知ってるんだ!」
自身の問に答えず、自分の発言を優先して語るラリューにクリスは声を荒げて問う。
それに対しても、涼しげな表情で対応するラリューに、続けざまに問いただした。
「自己紹介・・・・・・」
しばらくの間黙っていたラリューから発せられた言葉を聞き、クリスの口が止まった
Aクラス生徒が動かない理由が分ったからだ。
それは、情報を露呈しない為。
想定外の返答に、クリスはあっけにとられた反応をとった。
まだ、まだ十歳の自分たちが、そのような事を考えたことは、一度も無かったからだ。
さらに言えば、教わる者や、同年代の友達、クラスメート。両親に至るまで、その情報を隠し通していると
いうことだ。
Bクラスの生徒は、自己紹介の機会に、自身の持つ魔法の属性。及び、扱える魔法の技、今後身につけたい
魔法の発表までしていた。それも、元気の良い声で。
勿論、その答えは両隣にいるクラスにもハッキリと聞こえていた。
「あなた達のような、愚か者と、同じ授業を受けるだなんて最悪な時間よ」
続けざまに霹靂とかたるラリューの姿を、Bクラスの生徒は皆、顔を伏せて聞いていた。
自分がこの空間を支配している事に気付いているラリューは、そのまま言葉を進める
「愚かな行為をしたいのなら、行きなさい。私達は、キュウレンの指示通り、授業が終了するまでここから
動かないわ」
その言葉を最期に、両クラスから言葉は消え、真空の空間となった
自分たちとは、何もかもが別次元だということを思い知りながら・・・・・・
実技の授業終了まで、後十二分────────。
あぁ、早く教師同士の戦闘シーン描きたい・・・・・・