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灰燼と帰す (仮)  作者: 老衰
12/12

運命の音楽家 3

「で、どうすんのよ」


 ヒルダが机に肘を付き、呆れた眼差しでマルクスに尋ねた。


「予定通りベリルドレッドで彼らの討伐対象であるミノタウロスを倒し、そのままサピロアへ向かうよ」

「最初聞かされた予定にベリルドレッドもミノタウロスも無かったんですけど!」


 またもやヒルダの投げたチキンの骨が、マルクスの顔にパコンと跳ね返ってガラ入れへとゴールし、それと同時にクラーラが大きな溜息を吐いた。

 ミノタウロスはヴィルフレッドの時代にも存在していた魔物だった。 また気性もそれ程荒くなく、縄張りに入っても威嚇だけで済む非常に共存性の高い魔物であった。 しかし、その数は少なく遭遇することは極稀である。


「まぁ、申請してしまったものは仕方ないです。 今回は『氷獄』を少しづつ時間をかけて攻略していくことになりそうですね」


 ヒルダとクラーラの嘆きを余所に、マルクスは手で店主を呼びつけ、食事の注文を始めた。


「ベーコンチーズピザ、それからシーフードピザとオレンジジュースを三つ」

「なに呑気に注文してんのよ!」

「いや、僕もテオバルトくんもヴィルフレッドくんも食事がまだだからね」

「じゃあアタシ達はチョコレートケーキを二つ!」

「相変わらず甘い物が好きなんだねぇ。 ひとまずは以上で」

「かしこまりました」


 食事をする為、ヴィルフレッドがカチャカチャと音を立てて兜を取り外す。


「……おっさんじゃん!」


 素顔を見たヒルダが立ち上がって叫んだ。


「結構なおっさんじゃん! 白髪じゃん!」

「失礼な娘だな。 私はまだ三十二だ」

「彼はまだ三十二歳ですよ。 おっさんではありません」


 ヴィルフレッドの言葉をテオバルトが翻訳して伝えるが、ヒルダの反応は変わらず。


「おっさんだよ!」

「……まぁ、確かに思っていたよりも年齢が上だったけれど、若い戦士よりも経験があると思うよ」

「いや、おっさんで銅級じゃん! ポンコツじゃん!」


 ヴィルフレッドがテオバルトに耳打ちで質問をする。


「……テオバルト、この娘切り捨てて良いか?」

「……良いわけないでしょう」


 クラーラがヒルダをうるさいと言わんばかりに座らせた。


「落ち着きなさい、ヒルダ。 見た目で判断するのはいけないことだわ、なにか実績を聞かせてほしいわね」

「実績か……おい、テオバルト。 何か後世に語り継がれている私の実績はあるのか?」


 ヴィルフレッドがテオバルトに答えるよう促した。


「そうですね、数多くの戦場に将として出陣していますから対人はもちろん、攻城戦から撤退戦、様々な最前線を潜り抜けてきています。部隊長としての才覚はとてつもなく、彼が隊長を務めた部隊は死傷者は激減しますし、 特に撤退戦では比類無き活躍が多かったですね。 その様はまるで阿修羅のようだと敵国から恐れられていました。

 竜種との戦闘経験は豊富ですし単独撃破も成し遂げていますよ。 今回向かう『氷獄』には竜種が多く存在していますから心強い存在になると思います」

「……随分と詳しいのだな」

「ヴィルフレッドさんはアダマン最後の黒騎士ですからね。神代後期の文献を調べていると、それなりに多くの記述が残されています。主にルーカスとアランによる物が多いようです」


 なるほど。 とヴィルフレッドは頷いた。


「将って…… 装備からして身分が高そうだとは思っていましたけれど、そこまでとは思ってもいませんでしたわ……」

「よくわかんないけど強いの?」

「話を聞いている限りはおそらく、銀級上位程でしょうね。 ただ、それほどの人間が無名でいるとは到底考えられないわね。 貴方、本当の名前は?」


 クラーラの鋭い瞳がヴィルフレッドを睨みつけた。


「それは絶対に言えません」


 それに対してテオバルトがいつもの貼り付けたような笑顔で、これ以上は追求させまいと即答で質問に応える。


「ふーん、そう。 なら信用はできないわね」

「結構です。 最初から組むつもりなどありませんでしたから」


 テオバルトとクラーラの間で不穏な空気流れるが、それまでギルドの書類を眺めていたマルクスが断ち切った。


「これテオバルトくんとヴィルフレッドくんの飲み物ね。 あとこれ、サービスのバケットだって。 僕は前に食べた事あるけどソースがとても美味しくてね、またバケットも良い物なんだよぉ。 あ、これ取り皿ね、ゲストの二人共遠慮しないで食べたい物があればどんどん言ってね。 僕、お金だけは持ってるから。 人望もそれで買えれば良いんだけれどね……」


 ハッハッハッ、と笑うマルクスの能天気さに呆れたクラーラが溜息を吐いてそっぽを向いた。


「まぁ、彼が何者かだなんていいじゃない。 この業界で身元不明なんて珍しくもないさ、ギルドも結果さえ出せば黙認するからね。 それくらい人手不足なんだ、魔物の手も借りたいって程に」


 マルクスが宥めると、クラーラはただ一度、鼻を鳴らして答えた。

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