運命の音楽家2
「君達、食事はもうとったのかい?」
ハンターギルドから出て、マルクスがそう尋ねた。
「いえ、まだです」
「では、僕の知人の店に行こう。 僕は騒がしいのが嫌いでね、ギルドは常に他のハンターが居て大きな声で会話しているだろう? 駄目なんだよね、落ち着いて話せないのは。 街中もそうなんだけれど、僕のパーティ他二人が女性でね、ショッピングだなんだと色々と連れ回されるのがそれはもう嫌でね。 彼女たちの買い物がとてもじゃあないけれど長いんだ。 両手に華だとも言われるけれど、そんなものは中身が伴ってこそさ」
一番騒がしいのはお前だ、という言葉をテオバルトとヴィルフレッドは飲み込む。
「ところで、君達はどういった関係なんだい? 確か、テオバルト君は誰とも組まないソロだった覚えがあるのだが」
「……そうですね、詳しく話せば複雑で長くなるので、簡単に言えば異国で拾った傭兵ですよ」
「……ふぅん、異国の傭兵ねぇ。 しかし君、戦闘面で助けなんて──」
「──マルクスさんの言う店まであとどれくらいですか?」
「うん? そんなに気になるかい!? 僕の行きつけの店が!? すぐそこの路地裏だよ。 いやあ、店主とは長い付き合いでね、僕がハンター新人の頃に彼は料理人として新米だったんだが、共に成長してきたと言っても過言ではないね。 何を隠そう僕が受けた最初の依頼は彼の依頼だからね、独立して自分の店を開くと彼の口から聞いた時なんか抱き合って喜んだものさ。 あ、この路地裏だよ」
人通りの多い大通りから建物に囲まれて少し暗い路地へ入ったことにより、警戒したヴィルフレッドが剣の柄に手を添え、テオバルトを近くへと寄せた。
「お気遣いどうもありがとうございます」
「……雇われているからな」
マルクスはヴィルフレッドの警戒にも気づかず、能天気に店の説明を続ける。
「あそこに立て看板があるだろう。 あれにその日のオススメが書かれていてね、来る度に楽しみなんだ。 今はまだ陽が昇っているからカフェメニューなんだけれど、夜になるとバーに変わるんだ。 これがまたお酒も良い物を揃えていてね」
黒い看板には白い文字で料理名が五つ程書かれていた。
マルクスがドアを引いて中へと入る。 続けてテオバルトも入り、ヴィルフレッドが狭そうにしながらドアをくぐり抜けた。
「いらっしゃいませ、マルクス様」
「やあやあ、どうも。 いつもお邪魔してしまってすまないね」
「いえいえそんな、いつもご贔屓していただきありがとうございます」
マルクスと店主が軽く握手をしながら挨拶をする。
「お連れ様が奥でお待ちしております」
「ありがとう」
店主が掌を向けた方へマルクスが歩き出したので、テオバルトとヴィルフレッドも店主に会釈をしてから付いていく。
「おっそーい!!」
甲高い声が店内にこだました。
金髪を両サイドに束ねた少女がマルクスに対して興奮した様子でチキンを振り回している。
その小さな見た目とは裏腹に、似つかわしくない銀色の甲冑を身に着けた少女がそこに居た。 後ろには身の丈程の大きな大盾が壁に立てかけられている。
「ヒルダ、静かにして。 他の客に迷惑でしょ」
ヒルダと呼ばれた少女とは対照的な、黒いローブに身を包んだ少女がヒルダを叱った。
「ぐぬぬ……っ」
「ハハハ。 ヒルダくん、クラーラくん、遅くなってすまないね。 しかし、主役は遅れて来るものだから許してほしい。 そう、この僕の美しさに免じてどうか許してほしい!」
ヒルダと向かい合って座っているローブの少女がクラーラというのだろう。 その長い黒髪は手入れが行き届いており、見る者を魅了させる。
クラーラはキメ顔のマルクスを手で押し退けて、自分の皿とカトラリーを手に持ち、ヒルダの隣の席へと移った。
「グッ、クラーラくん……いつも鳩尾を強く押すのやめて……」
「テオバルトさんと……」
「彼の名はヴィルフレッドといいます」
「そう、ヴィルフレッドさんはそちらへどうぞ。 真ん中にはマルクスが座ります。 これでも一応パーティリーダーですから」
「クラーラくん…… 一応はいらないんじゃないかな……?」
「おいマルクス、なんでこんな遅かったんだよ。 それに誘うのはテオバルトだけじゃなかったのか?」
ヒルダがマルクスに遅刻の理由とヴィルフレッドの存在についてを問いただした。
「えーと、彼、ヴィルフレッドくん? テオバルトくんのお友達みたいで、見た感じも強そうだし、彼が入ればヒルダくんと合わせて前衛二人になるじゃない? それなら僕は無理に前衛やる必要ないし、戦況によって動きやすいと思って」
「けっ、アタシ一人で十分だと思うけどね」
「それで、遅刻の理由はどういった理由ですか?」
「あー、それはヴィルフレッドくんのハンター証が発行されるのを待ってて……」
「「えっ!」」
ヒルダとクラーラ、二人の顔が驚愕に変わり、次には呆れへと変わった。
「まさかこのデカブツ……」
「……銅級ですか?」
「そうだよ」
「っか~~! やっぱ馬鹿だよウチのリーダー! アタシがリーダーやった方が絶対いいよ!」
「見た所、装備は良い物のようですが……」
ここまで露骨に態度に出されるとヴィルフレッドも流石に気がついた。
「おい、テオバルト。 もしかして今すごい馬鹿にされているのか?」
「えぇ、ヴィルフレッドさん。 あなたは今すごい馬鹿にされています」
「そうか、薄々そんな感じがしていたんだ」
「全然、薄々ではないと思うんですけれども」
「しかも外人じゃねぇか!」
「いや、でもテオバルト君が通訳してくれるし」
「戦闘時に通訳聞いてる余裕があるかボケェ!」
「ほんと、呆れますわ」
マルクスの笑顔にヒルダが食べ終わったチキンの骨が投げつけられ、パコンと音を立てながら跳ね返ってガラ入れにゴールした。
「あ、それと道中で彼等の依頼もこなすから」
「ふざけんなアホォ!!」
「…………」
クラーラに至ってはついに黙ってしまった。




