鼓動の継承
どれほどの時が経ったのだろう。
自身で斬り落とした左腕は離れた場所で骨も残さず灰となっていた。
全身から血が夥しく流れ出ている。
前方から身の丈程の特大剣が、業火をその剣身に纏いながら迫りくる。
それを紙一重で避けると、直ぐ様に私の頭よりも大きな掌に頭を捕われ地面へ叩きつけられた。 兜の隙間から血が勢い良く吹き出る。
「……お前を救う為に俺が代わろう……俺を救う為には誰が代わる……? 誰もだ、俺で終わりにする……俺で終わりにする……俺で……」
近づいた神の口から呪詛のように流れ出る言葉は誰へ向けられたものでもなく、本人も無意識の内に出しているのだろう。
手首を斬りつけ、手の力が緩んだ一瞬の隙に拘束から抜け出す。
二度三度とバックステップで距離を取ると、神は先程まで私の頭を掴んでいたその左手に炎の槍を創り出し、光の速さで投擲した。
私の胴から炎の槍が生える。 それは徐々に火の手を周囲へと伸ばしていき、私の身体を焼いて回った。
「……ゴフッ」
槍を引き抜こうにも左腕は既に失く、右手は剣を握っている。
だが、もういい……。
神も勝利を確信したのだろう。 いや、もとより勝利など気にしていないのかもしれない。 所詮人間など、彼等からしてみれば羽虫程度と変わらないのだ。 勝負にすらなっていない。
ゆっくりと剣を引きずりながらこちらへ神が歩み寄ってくる。
私は右手の剣を落とし、膝から崩れ落ちる。
また今回も、務めを果たせなかった。
後のことはルーカスがうまくやるだろう。 アランはきっと荒れる。 だが、それもルーカスが補佐するだろう。 国はどうなるだろうか。 ディオベルゼウスのやり方の方がまだ被害が少なかったのだろうか。 しかし、陛下は拒否するだろう。
だからこその私だった。 私の一族だった。 たまたま私だった。 私だから、仕損じた。
黒く、邪悪に染まった炎神の剣が私へと迫る。
ここで、終わりだ。 国も、人類も、あらゆる生物も、世界も────
「──オレと貴様もなぁッ!!」
刹那、右腕で自身の甲冑を突き破り、胸板をも貫く。
全身の魔力と血液が心臓へ集まり、眩い光が身体を突き抜け、甲冑の隙間からも漏れ出た。
握潰
火柱が天へ昇り、神域結界を爆発の渦へと変えた。