9話 重要なこと
仕事から帰宅した母さんはリビングにいる僕に気になったことを訪ねた。
「奈穂は?」
「今、お風呂入っているところだよ」
「襲ってないわよね」
それを聞いた母さんが僕に不審者を見る目で睨みつけてくる。僕は必死に否定し、少し話題をそらす。
「それより母さん、女の子用のパジャマないよね?」
「あー、奈穂のパジャマ?」
そう言って母さんは自分の部屋に入っていこうとしたので奈穂に言いづらかった重要なことを母さんに教えてあげる。
「あと、下着も……」
恥ずかしかったが重要なことなので伝える。
「パンツとか買わなかったの?」
何のための買い物なのかというような顔をされたが、奈穂に買い物中に下着も買おう、なんて言えるわけがなかった。
「普段仕事で忙しいし、とりあえずコンビニで買ってきて、今」
「今⁉︎」
母さんは頷き、お金を僕に渡す。下着を買わなかったのは僕のミスだが一人でコンビニで女の子の下着を買うのか……憂鬱な気分になりながら渋々コンビニで向かった。
「ただいま」
「遅い!」
扉を開けた瞬間、母さんの言葉が突き刺さる。
コンビニで恥ずかしくてウダウダしていていたためおそくなったのだ。
運が悪いことに夜にも関わらず若い女性の方だったのだ。
普通は女性の方は夜に入らないだろうとコンビニでも思ったことを帰宅した今も思いながら時計を見る。針は22時を指していた。
「で、これね」
ため息をつきながら渡す。お母さんはそれをやや乱暴に受け取りリビングにいる奈穂のもとに行く。
「すみません」
遅れて僕がリビングに行くとコンビニの袋を持った奈穂に謝られた。
まだ着替えていないようだった。
気にしなくていいよと言い、去ろうとしたが新しい服に身を包んだ奈穂に視線が釘付けになる。
しかし、奈穂が不安そうな顔になったのに気づき、視線を外す。
「じゃあ、僕は寝るから」
逃げるように自分の部屋に行こうとしたが、奈穂の寝る場所のことを思い出しリビングに背を向けていた体を戻す。
「ところで奈穂はどこで寝るの?」
「あー、そうだったね、私のところで良い?」
母さんが奈穂に同意を求める。奈穂は申し訳なさそうに頷く。
「じゃあ、私は真輝の部屋で寝るから真輝はリビングね」
あ、やっぱり……覚悟していたことだが実際に当たり前のことのように言われると少しショックだった。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
僕は一人、リビングに残された。