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失った思い出  作者: ういもと
第1章 真輝の物語
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8話 失う思い出

夕飯を食べ終え、僕はお風呂の掃除に取り掛かることにする。


「適当にテレビとか見てていいよ」


そう言い残し、お風呂場に直行する。


本来ならお風呂掃除は学校に帰宅してから行うことだったが今日は買い物に出かけたため出来なかった。


このようにお風呂の掃除や料理など家事全般はお父さんがいないため僕の仕事となっている。


そのため僕は必死に奈穂のために掃除を行う。


「ふふっ」


奈穂のためと考えた自分がおかしく、不気味に笑う。


普段は忙しいお母さんのため僕がやらなければと使命感に近い気持ちで行ってきた。


しかし今日は違った。純粋に喜んでもらいたいと考えて行っている。


そのため何故か楽しいという気持ちが沸き起こる。


「こんなものかな」


ポツリ呟き、お風呂を眺める。汚れがないことを確認してお湯を沸かす。


お湯が溜まるまで30分はあるため食器でも洗おうとキッチンに向かった。





「もう、やっときました」


キッチンに行くと奈穂がすでに食器を洗い終え、食器棚にしまっているところだった。


「ありがとね」


「これくらいはさせてください」


そう言って最後の一枚を棚に戻した。


「よし、じゃあ、ゆっくりしていいよ」


奈穂は礼を言い、昨日自分が寝ていたソファに腰掛けた。


そのため僕は、テレビをつけてリモコンを奈穂に手渡す。


「なんか、観たいのあったら適当に変えていいよ」


そう言い残して今度は自分の部屋に行く。目的は自分の部屋の掃除をするためだ。


おそらく母さんの部屋に奈穂が寝て、僕の部屋に母さんが寝るとこになるだろう。そして僕がリビングで寝ることになる。


そのため何かあったら呼んでと、残して自分の部屋に入る。


しかし、部屋で掃除している間、悪いことしたなと後悔することになった。


そしてそれを図ったように風呂が沸いた。


「奈穂、入っちゃっていいよ」


リビングに顔を出して風呂を勧める。この一言だけだったが僕は緊張してしまった。


「え、でも……」


それを奈穂はその提案に従うことを躊躇っていた。


「あ、お母さん帰ってきたらの方が安心するよね、そうだよね」


家にいるのが僕だけで心配なのだろう。そうだよね、と再度口にして自分を納得させる。


「いえ、そうではなくて先に入っていいのかと」


「それなら全然大丈夫だよ」


そう言うと奈穂が納得したためお風呂場まで案内し、お客用のバスタオルの位置などを教えてあげる。


「あとはパジャマか……」


パジャマを購入してないためどうするか悩んだ挙句とりあえず今日買った服を着てもらうことにした。


実はこの時、それより重要なことに気づいていたがあえて口にはせず自分の部屋に向かった。


部屋の掃除はすでに済んだためベッドに横になりスマホの検索サイトを開く。


「記憶喪失」


と打ち調べる。奈穂の記憶喪失を直す方法がないのか、何かしてやれることはないのかと考えての行動だった。


すぐに検索結果が出て、画面にはかなりの件数がヒットしていた。僕はその一つ一つ開いていく。


「記憶喪失とは、直接的ダメージや心理的なショックにより過去を忘れること。症状により、失う記憶の量、種類はさまざま。」


「2、3日で大抵思い出す」


いくつか開いたがなかなか回復につながる情報が見つからずいろいろなサイトを開く。


「もし脳へのダメージによる場合、記憶が戻ることは困難。」


その文面を見つけ、手が止まる。記憶が戻らないままだったら今後、奈穂はどうなるのか。


さすがにこのまま家に居候では良くないとは思うが施設等に連れていかれるのもどうかと考える。


そもそも奈穂は特に怪我をしているようではなかった。


しかし、もしものことを考えると怖くなった。


一度調べるのをやめようかと考えたが何か策があるのではないかと捨てきれない。


しかしそれはさらに知りたくないことを知るだけであった。


「記憶喪失時の記憶は元の記憶を思い出すと失う」


つまり、記憶が戻ったら今日、僕と過ごした記憶を失うことになる。僕が全く知らない人になってしまうのだ。


それは今、思い出した場合であり、明日、思い出せなかったら忘れるかもしれない僕との思い出がまた積み重なる。


そんな時を過ごす意味はあるのだろうか。そんなことを僕は考えてしまっていた。


母さんは1週間は様子を見ると言った。僕はどうすればいいのだろう。奈穂といると胸がおかしくなるというのにますますこのことを知り、混乱する。


「ただいま」


そんな考えを断ち切るように母さんが帰宅した。

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