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失った思い出  作者: ういもと
第1章 真輝の物語
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4話 覚えていること

バイトが終わった僕は一呼吸をして自宅のドアを開ける。


ただいま、と言って中に入った僕は他人の家に入るように堅苦しかった。


「おかえりなさい」


恥ずかしそうにリビングから長い髪をポニーテールにした奈穂が顔を出す。


驚くことに支度がすでに済んであり、おしゃれも多少していた。


服装は昨日のままだったがとても可愛らしかった。


「もう、行ける?」


多少、声が震えそうになり、自分のコミュ力のなさを嘆く。


しかしそんな考えを吹き飛ばす笑顔で奈穂は頷いてくれたため、すぐに僕も支度をした。


奈穂から休憩してからの方が良いのではないかという提案を受けたが僕は断った。




「待たしてごめんね」


と言ってもバイトの荷物を置いただけで1分も掛かっていなかった。しかし待たせたことに変わりがないため僕は玄関で待たせてしまった奈穂に詫びた。


「じゃあ、行こっか」


鍵を閉めて10分歩く最寄駅に向かう。話題はすぐに浮かんだ。


当然それは天気が良いですね、などといったことではない。しかし困らせるという意味では同じだったことに質問して気づいた。


「ところで携帯とかは持ってない?」


奈穂は首を横に振り否定した。


そして申し訳なさそうな表情になってしまい、僕は質問したことを後悔した。


しばらく無言のまま駅に向かう。


その間、僕の頭ではコミュ障なりに話題を考える。


考えすぎたためか、焦ったためか、まとまっていない質問を口にしてしまった。


「大丈夫?」


僕の頭では多くの話題が浮かんでいたがどれも記憶がない、ということで話題にできなかった。


そして記憶がないだけでこんなに大変だということのほんの一部に気づき心配になり、口にしたことだった。


「スマホなくても大丈夫ですよ」


そのため奈穂が意図とは異なる答えをしたのは仕方ないことだと思えた。


「ところで改札の通り方分かる?」


話が広がらないため話題を転換する。ちょうど良い話題も目の前にあった。


僕は記憶を失っているため、改札の通り方さえも忘れているのではないかと思った。


しかしそれは心配しすぎたことであって、質問の意味を理解した途端、奈穂に笑われてしまった。


ようやく僕の意に反しない方法だったが笑ってくれたことに安心し、電車に乗り込む。電車内は比較的空いていて座ることができた。


「ところでとのくらいおぼえているの?」


話題が広がらないため、ところで、を言うことが多くなる。しかしそんなことを一切気にせず奈穂は笑顔で答えてくれる。


「私、昔の出来事、エピソードとかそのような記憶を失っているだけで日常生活には問題ないです」


奈穂は「だけ」といったがその苦しみは僕が考えているよりずっとつらく、不安で、怖いのだろう。


どうしてこんなにも笑えるのか僕には分からなかった。


「何か困ったことがあったら何でも言ってね」


そのようなありふれた言葉をかけてあげることしかできない自分が恥ずかしくなる。

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