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失った思い出  作者: ういもと
第2章 奈穂の物語
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13話 嘘の罪悪感

アパート近づいて来る足音に気づいた私は鏡で服の乱れや髪を結び直した。


そして鍵の開く音がして扉がゆっくりと開いた。


「おかえりなさい」


リビングから顔を出して迎える。


その行動がなぜか気恥ずかしくて少し声が小さくなる。


それはお兄ちゃんも同じなのか、ただいまと言ってくれなかった。


代わりに少し震えた声で、もう行ける? と質問してきた。


少し残念だったが照れている姿が可愛かった。


そのため笑顔で頷き、行けることを伝える。


しかしバイト帰りで疲れているのではないかと心配になり尋ねたが、大丈夫とお兄ちゃんは答えて荷物を置きに行った。



玄関でお兄ちゃんを待っている間も玄関の鏡でおかしくないか確認する。


「待たしてごめんね」


1分も経たずにやってきて慌てる。


しかしそんな私を気にする素振りを見せずにお兄ちゃんは靴を履き始めた。


「じゃあ、行こっか」


そしてそのまま鍵を閉めて私たちは家を出た。


「ところで携帯とか持ってないの?」


家を出てすぐにお兄ちゃんが質問した。


その答えはYESだったが私は首を振った。


携帯にはかなりの情報が入っていてすぐに正体を知られてしまう。


さらに今は充電が切れていて見せることができなかった。


久美子さんに言えば充電器を借りられるがお母さんからの連絡がきているのではないかと怖くて見ることができなかった。


しばらく無言が続き、気まずい雰囲気が流れる。


「大丈夫?」


急にお兄ちゃんが口を開けた。


「スマホなくても大丈夫ですよ」


口ではそう答えたが急に不安になり、後で確認しようかと考えた。


そしてそのまま歩き、駅に着いた。


「ところで改札の通り方分かる?」


「わかりますよ」


私はドラマで記憶喪失は全てを忘れることと日常生活には影響しないエピソードだけを忘れる記憶喪失があることを知っていた。


そんなことが役に立ち、つい笑ってしまった。


笑ってしまい、怪しまれたと思ったが変に解釈したのか大丈夫そうだった。


「ところでどのくらいおぼえているの?」


車内に乗り込んだ私にお兄ちゃんが質問する。


それに私はドラマで学んだことを笑顔で答えた。

しかし私とは違いお兄ちゃんは真剣な表情になった。


「何か困ったことがあったらなんでも言ってね」


お兄ちゃんの真剣な顔と言葉で私は嘘をついたことへの罪悪感が胸に広がっていった。

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