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失った思い出  作者: ういもと
第2章 奈穂の物語
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12話 不安

病院のエントランスホールのベンチに座り、久美子さんが戻ってくることを待つ。


その間、目の前には点滴スタンドを押している方、車椅子の方など多くの人が前を通っていった。


それが私を不安にさせる。


今、お父さんはどうしているのだろうか。


しかしお父さんに顔を合わせることができない。




「ごめんね、奈穂」


急ぎ足で面会を終えた久美子さんが近づいてきた。


「お父さんは何か言っていましたか」


お父さんが心配で車に戻る途中で尋ねてしまった。


「お父さんね、心配してたよ、それと悪かったって言ってたよ」


「そうですか」


お父さんが怒っていないことに安心する。


そんな自分がいることに驚いた。


お父さんは浮気をした最低な人なのに。


「ねえ、奈穂、明日こそは会ってみない?」


駐車場に着き車に乗り込んだ時に久美子さんが提案した。


しかしその提案には頷くことも反対することもできず何も言えなかった。


「まあ、明日までに考えておいてね、それとこのあと真輝に服買って貰ってね」


「あ……」


車を発車させた久美子さんの言葉で忘れていたことを思い出して、急に緊張に襲われた。

お兄ちゃんと二人で買い物。


考えるだけで緊張してしまった。そんな気持ちの私に久美子さんはさらに追い討ちをかける。


「真輝の前では記憶喪失のフリしておいてね」


「あ、はい」


久美子さんのためにも記憶喪失でないことは隠さなければいけない。


うまく行けるか不安でしかなかった。


しかしやるしかなかった。


「よし、じゃあ、このゴムで……」


アパートに着いた久美子さんは私にヘアゴムをつけた。


その出来上がりを車のミラーで確認する。


「可愛いですか?」


「可愛いわよ」


久美子さんは笑顔で答えてくれて安心することができた。


「私はこのあと用事あるから真輝が帰ってくる2時まで家に一人だけど大丈夫だよね?」


「大丈夫です」


「じゃあ、頑張ってね」


久美子さんはそう言って私を降ろして車でどこかに行ってしまった。


私は久美子さんに別れ際、渡された鍵で部屋に入り、お兄ちゃんの帰宅を待つことにした。

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