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失った思い出  作者: ういもと
第2章 奈穂の物語
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7話 名前

「ほんとうに大丈夫?」


テーブルに座った私に久美子さんが笑顔で私に尋ねてきた。


その前に一度お兄ちゃんのことを睨んでいていて少し怖かった。


「はい、大丈夫です」


朝の雰囲気を少しだけ感じただけだがこの家庭は幸せで楽しい家庭だ。


妹が現れてこの家庭を壊してはいけないと感じた。


しかしお兄ちゃんが朝食を作っている時点で違和感を感じた。


「できたよ」


お兄ちゃんの言葉の通り朝食は出来たみたいだがその量に驚かされた。


ご飯、鮭、ひじき、スクランブルエッグ、ベーコン、ヨーグルトと私の家ではありえないほどの品数。


この家庭ではそれが当たり前なのかと思ったらどうやら話を聞く限り違うみたいだった。


「何か苦手ものでもあった?」


考えに耽っていた私は手が止めっていて心配をかけてしまった。


私は食べていいのかと思いながら遠慮がちに食べ進めていった。


「名前はなんていうの?」


久美子さんが自然の流れで食べながら質問する。


私には記憶喪失と嘘をつくか悩んだ。


本当のことを言って混乱させ、家族を壊して良いのか。


ダメだと思い、私は私を偽った。


「な……まえ、ですか?」


嘘をつく罪悪感で声が震えてしまった。


さらに心配そうにする久美子さんとお兄ちゃんに罪悪感で押しつぶされそうになる。


しかし私が妹であることは言わない方が良いと自分に言い聞かせて納得させた。


「こういう時って病院に連れて行った方がいいなかな」


何気ない久美子さんの零した声に心臓が破裂しそうになる。


「病院は……」


不安でうまく声にできない。


「じゃあ、一週間だけとりあえず様子を見ようか」


久美子さんの提案に申し訳ないと思ったが断ることができなかった。


「じゃあ、まずはなんて呼べば良いかな」


久美子さんの質問には自分の名前を答えたかった。


しかし名前でバレるリスクもあった。


しかしお兄ちゃん、久美子さんには自分の名前を呼んでほしかった。


「あの、ナホがいいです。よくわからないのですが頭に残っているというか、しっくりくるかというか」


自分でもよくわからない理由を並べた。


その途端、久美子さんが立ち上がりバレてしまったのかと不安になったが、漢字を知りたかったみたいで安心した。


「はい、それでいいです!」


「じゃあ、バイト行ってくるね」


お兄ちゃんが急に立ち上がり流しに食器を置いて玄関に向かった。


その行動の早さに私はただぼんやりと見ることしかできなかった。


そんなお兄ちゃんが久美子さんと軽く話して家を出た。


そんな普通の家庭の一面にホッとした瞬間、久美子さんの言葉で私は凍った。


「ねえ、奈穂って直子さんの娘さんだよね」


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