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失った思い出  作者: ういもと
第1章 真輝の物語
15/52

15限 病気

父がいない僕は夏休みという期間を活かし、バイトをできる限り入れて稼ごうとしていた。


最近は奈穂がバイトから帰宅すると迎えにきてくれると思うと一層やる気が高まった。


そのためかいつもより疲れが気づかないうちに溜まっていたようだった。


「大丈夫?」


朝、起きた僕は咳が止まらなかった。リビングのソファに手をつき、治まるのを待つ。そんな時に奈穂が起きてきて心配をする。


「大丈夫だよ」


強がるが乾いた咳が出る。


そして一度咳をするとしばらく止まらなくなり呼吸が辛くなる。


「熱測ったら?」


「そうだね」


奈穂のアドバイス通り棚から体温計を取り出し、熱を測る。


その間も咳は止まらなくてソファに腰掛ける。そんな僕を奈穂は心配そうに見つめる。


ピッピッピッピッ


体温計が体温を測り終えた音がしたため確認をする。


「38度6分」


体温計に表示された文字を見てため息をつく。


店長に迷惑を掛けてしまうな。


しかし熱があり、かなり咳き込んでいる自分が行っても邪魔になるだけだと感じた。


僕のバイト先は個人経営の本屋でほぼ趣味で始めたため店長は優しく、お客様もフレンドリーな方が多く楽しい。


しかし、年々売り上げがあまり良くなく店長が悩んでいる姿を何度も見かけた。


やはり趣味でも経営であることは違いなかった。


「もしもし、神崎です」


「どうした、神崎?」


電話はすぐにつながり、休むことを伝える。


一瞬、店長は困った雰囲気を感じたが、


「気にしないで。どうにかするよ」


と店長は言ってくれた。


そんな店長に申し訳なさで一杯になりながら電話を切った。


「じゃあ、今日はゆっくり寝たほうが良いよ」


「そうだね」


奈穂の意見に賛同し自分のベットに行こうとしたが母さんが寝ていることを思い出した。


仕事で疲れている母さんを起こすのは悪く、だからといってリビングで寝ていると邪魔になる。


「じゃあ、私の寝ていたところで寝たら?」


奈穂の提案しかないのは分かっていたが何か気が引ける。しばらく答えるのを躊躇っていると母さんが起きてきた。


「誰、咳き込んでいるの?」


何かあるとすぐに察する母さんがリビングにやってくる。


「真輝か。菌、奈穂と私にうつさないでね」


本当に嫌そうに母さんは言う。


そして母さんも僕が悩んでいることに気づき、せっかくのチャンスを壊す。


「あ、真輝の部屋で寝なさいよ」


問題が解決してしまい、好きな女の子の寝た布団で寝るという男なら一度は体験したい夢は散った。


しかしこの後真輝は好きな女の子に看病されるという一度は体験したい夢の出来事が待ち受けていた。

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