13話 変わる気持ち
花火の帰宅後、奈穂の入浴中に僕は母さんに呼ばれた。
「今日、一日おかしかったけど奈穂と何かあったの?
母さんの部屋に入るなり単刀直入に尋ねてくる。あの時、記憶のことを知った瞬間から僕自身、どこかよそよそしくなっていることには気づいていた。そしてそれを気にしないようにもしていたが行動として出てしまっていたことにも気づいていた。
「いや、特に何も……」
ベッドに腰掛け、歯切れの悪い返事をする。
「最初のほうは奈穂のことが好きだから近寄れない感じだったけど避けているみたいだけど……」
優しく母さんは僕に問いかける。
「……好き?」
僕はこの時、初めて気づいた。
この気持ちが恋の可能性があることに。
いや、以前から考えていたが意識してなかった。
それが母さんの言葉で初めて恋の可能性を意識した。
「真輝、もしかして気づいてなかったの!」
母さんがからかう口調になったが本来の目的を思い出し、真剣な顔になる。
しかし僕は気持ちの整理ができない。
そのため一旦保留とし。母さんの言葉を待つ。
「えーと、なんで最近、避けてるのよ」
お母さんも多少僕が意識してないことに動揺しているようだった。
「1週間後、どうするのかと思ったら……」
記憶のことは言わない方が良いと考え黙っておいた。
「それなら考えてるから大丈夫だよ、母さんなりにしっかり考えてるよ」
よく分からなかったが母さんには自信のある考えがあるようで得意げに言う。
「それに奈穂、お財布を持ってなかったから遠くから来たとは考えにくいし、いつでも会えるよ」
「そうだね……なら良かった」
完全には府には落ちなかったが一理あった。
確かに何も持ってなかったら遠出なんてできない。
そんなことを考えていると母さんがいきなり核心をつく。
「本当はそのことじゃないよね」
母さんは僕の事を見透かした目で見てくる。僕はその目に耐えられなくて本当のことを話す。
「ねえ、真輝、もし、忘れたとしても真輝にはその思い出は残るんだよ、その記憶がつまらないものでも良いの?」
「僕しか覚えてない記憶なんていらない」
子どものように拗ねてしまい、恥ずかしくなる。
「どうして、そう決めつけるの?ネットの情報だよ、正しいとは限らないよ。もし、記憶が覚えていてそれがつまらないものだったら奈穂はどう思う?」
僕は今までマイナスに考えすぎていたことにようやく気づいた。
また記憶を覚えている可能性があるとわかり、一瞬にして気分が晴れる。
「それに、今はスマホで写真が撮れるんだよ、思い出は記憶以外にも残せるんだよ」
お母さんは僕の様子をみてまくし立てる。
「もし、忘れちゃってもまた新たに楽しい思い出を作れば良いんだよ、そしてそれを写真に残せば良いんだよ」
母さんの言葉でマイナスばかりの頭の中がガラリと変わった気がした。
もしこの記憶を忘れてもまた新しい記憶を作ればいいんだ。
そもそも忘れるとは決まってないんだ。僕は不安が払拭され、晴れやかな気持ちで母さんの部屋を出た。
そんな真輝をみて母さんは複雑な気持ちを感じていた。




