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失った思い出  作者: ういもと
第1章 真輝の物語
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12話 花火

夕飯が終わり、映画の後編を見ていたところ母さんが帰宅した。


映画の途中だったが奈穂が立ち上がり玄関に迎えに行く。僕も映画を一時停止して迎えに行く。


「ただいま、お土産買ってきたよ」


手に持ったコンビニの袋を掲げ、得意げな顔になる。


そのコンビニの口からは赤や青などの蛍光色の袋が出ていた。


「花火ですか?」


その袋に視線を向け奈穂が尋ねる。


母さんはその答えを待っていたのかそれを聞くや否や玄関にも関わらず袋から花火を取り出す。


「ということで今から行くよ」


「え、今!?」


母さんの突然の提案にびっくりする。


「今。奈穂は大丈夫?」


奈穂は嫌がるどころか行きたそうな表情をしていた。


それに母さんも気づき、準備を急かす。


奈穂と僕は母さんに急かされるまま支度し、家を出た。





家から歩いて15分近くの河川敷にやってきた。


夏ということもあり同じ考えのグループがちらほら見られた。


「この辺でいいよね」


人がいないところを探して袋を開封する。


涼やかな風が全身を包んだ後、川を揺らす。そして辺りに響く虫の鳴き声が夏を感じさせた。


「夏だねえ」


「夏だなぁ」


「夏ですねー」


しみじみと夏を感じながら開封していく。あと少しですべてが開封し終えるところで母さんがろうそくに火を点けた。


「私からお先にー」


母さんがすべて開封を終えてないが手持ち花火をろうそくに近づける。


「待って、奈穂こっち側来ないと」


母さんの前にいた奈穂が僕の隣に移ると自然と奈穂との距離が狭まり、動揺する。


「おっ」


その感情を打ち消すように母さんの花火から勢いよく青い火花が噴出した。


僕も奈穂も開封することを止めてつける。


虫の鳴き声が響く河川敷に花火の鮮やかな青とオレンジと黄色の光が浮ぶ。そのうちの一つが円を描いたり波を描いたりと踊りだす。他の光もつられ踊りだした。


「真輝、あまり振っちゃだめだよー」


母さんに注意を受けたが構わず続ける。


「これなんでしょう」


変わった形の花火に火をつけると地面を勢よく走り回る。その動きがおかしく奈穂が楽しそうに笑う。僕もつられてきになった花火をつける。


「あ、それは」


母さんが止めに入ったが遅く、一直線に打ち上がり、大きな破裂音を辺り一面に轟かせる。


「すっご……」


そのように子どものように純粋に花火を僕たちは楽しんだ。そして残るは線香花火だけになった。


その花火に着火させると、ぱちぱちと音をだし、小さな光が散る。


「……」


静かにじっとそれぞれの花を見つめる。そして一つまた一つと消えていった。


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